清水建設と住友林業にみるAIを用いた建築構造計算|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第13回は、AIによる建築構造計算の最新事例について解説します。

AIによる建築構造計算の革新

 建築構造計算では、建物の安全性や耐久性を確保するために必要な計算手法や概念を用いる。具体的には、構造計算によって建物の荷重や応力、変形などを評価し、適切な構造物を設計するための基礎となる情報を得る。 

構造計算における重要な要素は、荷重、応力、変形から構成されるが、AIを用いることで、大量のデータを解析し、過去の建築事例や構造計算の知識を学習することで、迅速かつ正確な構造計算を行うことが可能となる。そのように、AIは膨大な計算量を高速で処理するため、設計者の負担を軽減し、コスト削減、時間短縮にも寄与し、設計の品質向上に結びつく。それら構造計算と極めて親和性の高いAIを実務に援用する事例が増えている。

本稿では、それらの最新事例から、清水建設と住友林業の実例を報告する。

清水建設:デジタルプラットフォーム「Shimz DDE」に構造検討業務を支援するAI「SYMPREST」収納

 清水建設では、設計の初期段階における鉄骨造の構造検討業務を支援するAI「SYMPREST」を開発し、デジタルプラットフォーム「Shimz DDE」に収納、クラウド上でのWEBアプリケーションとして社内運用を開始した。

AI「SYMPREST」は、デジタルデザイン戦略の一環として開発されたもので、これによって業務の高度化と効率化を同時に図ることで設計者の働き方改革を進め、2024年度に施行される改正労働基準法の適用にも備える。開発に際しては、AIソリューション事業を手掛けるヘッドウォータース及びヘッドウォータースコンサルティングの協力を得ている。

構造検討業務の効率化+高度で迅速な提案を可能とするデジタルデザイン手法として開発

 設計の初期において建物の形状・規模などのプランに応じた構造架構や部材断面の検討・設定を行う構造検討業務においては、設計対応案件が増加傾向にある中で、設計の初期段階での頻繁なプラン変更が常態化しているのに加えて複数案の同時検討も頻繁に起こる。

このような変更や検討に際しては、構造検討業務を伴うため構造設計者の負担も増加する一方であることから、構造検討業務の効率化を図ると共に高度で迅速な提案を可能とするデジタルデザイン手法としてAI「SYMPREST」を開発した。

学習データ用の構造架構を自動生成するアルゴリズム開発+構造架構データを約1,500棟分生成

 AI「SYMPREST」は、高さが60m以下の比較的、形状が整った鉄骨造のオフィスビルに適用可能で、検討中のオフィスビルの形状・寸法を入力すると、瞬時に形状に概ね合致した構造架構をデータベースから複数抽出すると共に、躯体数量も併せて表示する。

 最終的には、設計者がイメージに合う構造架構を選択し、スパン構成などを微調整すると、AIが架構を構成する全部材の仮定断面を反映した3次元モデルをモニター上に構成する。3次元モデルの部位をクリックすると、構成部材の断面寸法が表示される仕組みとなっており、このようにして生成された3次元モデルは、実施設計に用いる構造解析プログラムの入力データに変換できるため、解析の準備に要する時間や労力も大幅に削減できる。

 開発においては、AIの学習データを整備するため学習データ用の構造架構を自動生成するアルゴリズムを開発し、15階以下(地下無し)、1方向最大10スパンという条件下、さまざまなオフィスビルの規模・形状に応じた構造架構データを現時点で約1,500棟分生成済みとなっている。これらのデータをAIに学習させることで、部材断面推定の習熟度を高めてきた。

 今後は超高層オフィスや他の用途・構造形式の架構生成も行い、AIの機能拡充を図っていく。合わせて独自のデジタルプラットフォーム「Shimz DDE」の拡充を図り、構造設計に限らず設計業務全般の高度化と効率化を推進していく。


AI「SYMPREST」の概要

「Shimz DDE」におけるAI「SYMPREST」の位置付け

住友林業:建物の形状や柱・梁等の位置から、AIが最適な構造部材とその断面や接合部の仕様を選定

 住友林業では、独自のビッグフレーム構法※に向けた「全自動構造設計システム」を開発し、100%子会社で木造建築の総合設計会社である住友林業アーキテクノにおいて運用を開始した。

 「全自動構造設計システム」においては、建物の形状や柱・梁等の位置からAIが最適な構造部材(柱・梁・基礎など)とその断面や接合部の仕様を選定する構造設計業務(CAD入力)の全自動化を実現しており、設計者の知識や経験によってバラつきのあった業務プロセスを標準化し、構造設計の作業効率を大幅に改善している。それによって、従来は構造設計者が約5時間を要していたCAD入力業務が図「構造設計業務と全自動化範囲」にあるように、10分程度で完了することとなった。

 住友林業グループは、「全自動構造設計システム」の取り組みを起点に申し込みから設計、施工、引き渡しまでの住宅生産プロセス全般でAIを活用したDXを加速させ、木造住宅の付加価値や顧客満足度の向上を目指す。

※ビッグフレーム構法:日本初の木質梁勝ちラーメン構法を用いた住友林業オリジナル構法。大断面の柱と梁を強固に緊結することで高い耐震性を確保しながら、大空間や大開口の計画が可能。柱よりも梁が優先した「梁勝ちラーメン構法」を採用することで、間取りの制約も少なく、将来的な間取り変更も容易。

AIが最適な施工手順や材料の歩留まりを考慮して設計+施工精度向上や製造コストを削減

 「全自動構造設計システム」は、建物形状や柱・梁の位置などの構造計画を基に居住性、耐震・耐風性、施工性、製造コスト等を考慮し、AIが最適な構造部材を選定する。構造設計者のCAD入力時間を大幅に削減したことに加え、業務プロセスを標準化して結果確認に要する時間も短縮し、AIが最適な施工手順や材料の歩留まりを考慮して設計するため、施工精度の向上や製造コストの削減にも寄与する。

住友林業アーキテクノでは、住友林業が独自開発した構造設計システムを用いて設計業務を行っているが、構造計算や建物の安全性に関する技術基準を満たすための業務に多大な時間を要し、納期調整や人財確保は困難を極めていた。ビッグフレーム構法の構造設計は住友林業独自の技術基準に対する理解や経験を必要とし、作業時間も構造設計者の力量に依存するため業務プロセスの標準化が課題となっていた。それらの課題を解決するため、ビッグフレーム構法向けに「全自動構造設計システム」を開発し、運用を開始した。


全自動構造設計システムイメージ

構造設計業務と全自動化範囲