建設業界の現実に迫る「具体的な対策と成功への道は?」(第2回)

建設業の課題を整理

連載第1回では、建設業界の現状についてご紹介しました。ここでは、その内容について簡単にまとめて整理しておきます。

人手不足が深刻化

建設業界では、慢性的な人手不足が問題となっています。2022年度の国土交通省によるデータでは、60歳以上の技能者が全体の約4分の1(25.7%)を占めている一方で、29歳以下の割合は全体の約12%程度に留まっているという状況が浮き彫りになっています。

人手不足の現場では「外国人労働者」を受け入れているケースも多いです。現在、建設分野で活躍する外国人の数は約11万人で、全産業の約6.4%を占めます。しかし、その場しのぎの雇用では安定した人材確保に繋がらない点が課題です。また言語の違いによるコミュニケーション不足の問題もあり、単純に外国人労働者に頼ればよいとは言えません。

若年入職者の確保・育成が喫緊の課題であり、担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体として進めることが求められています。

人手不足が引き起こす様々な影響

もしこのままの状況で人手不足を放置すると、下記のような問題が起こる可能性があります。

  • 労働者の健康問題
  • 労働力の流出
  • 生産性の低下
  • 法的リスク

長時間労働や過度のストレス、不健康な労働条件により、優秀な労働者が他業界に転職する可能性が高まります。また労働法や規制の違反が続くと、雇用主は法的リスクを抱える可能性があります。

建設業の生産性の現状

ここでは、建設業の抱える生産性の課題についてまとめています。

「生産性」とは

㈳日本生産性本部によると、生産性とは「産出÷投入」のことで、生産要素を投入することによって得られる産出物(製品・サービスなどの生産物)との相対的な割合のことを指します。生産性の指標として一般的に広まっているのが「労働生産性」で、これには「物的労働生産性、付加価値労働生産性」の二種類があります。

まず、物的労働生産性は生産物の個数や大きさといった物理的な量を産出量とするため、主に製造業などで用いられます。一方で付加価値労働生産性は、企業が生み出したサービス等の価値を産出量と見なします。「付加価値生産性=付加価値額÷(労働者数×労働時間)」の式で産出されます。

つまり、設備投資で最先端技術を投入しても、上手く使いこなせずに付加価値を生み出せていなければ生産性は低くなってしまいます。「労働生産性が向上する」とは、「同じ労働量でより多くの価値を生み出す」、「より少ない労働量でこれまでと同じ成果を上げる」といったパターンで達成されるのです。

建設業における生産性の現状

日本建設業連合会のデータによると、製造業の付加価値労働生産性は上昇しているのに対して、建設業はほぼ横ばいとなっています。これは主に、建設生産の特殊性(単品受注生産等)と工事単価の下落等によるものと考えられています。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/common/001113550.pdf

同様に国土交通省のデータにおいても、土工やコンクリート工などは生産性がほぼ横ばいのため、改善の余地が残っているという結果が出ています。

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/common/001113550.pdf

土工や現場打ちコンクリート工の施工現場では、丁張りや足場の設置などに多くの人手を要しています。このように機械化・自動化が進んでおらず、生産性向上が遅れているのが現状です。

国土交通省の取り組み

国土交通省では、建設業の生産性向上のために「i-Construction トップランナー施策」を行っています。これには主に、下記3点の取り組みが含まれます。

  • 施工時期の平準化等
  • 全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)
  • ICTの全面的な活用(ICT施工) 

建設業では第1四半期(4~6月)に工事量が少なく、年間での偏りが激しいのが課題となっています。工事時期を均すことで、技能者の収入安定や機材不足の解消が期待されます。さらに部材の規格が統一されていないといった課題には、設計、発注、材料の調達、加工、組立等の一連の生産工程や、維持管理を含めたプロセス全体の最適化が求められます。

そしてドローンやICT建機といったIT技術を積極的に活用することで、省人化・自動化を目指しています。

生産性向上で期待される効果|現場レベルではどうなる?

生産性を向上させることで、建設業界全体での利益向上が図れることは想像が付きやすいです。それでは、現場レベルではどのように変化するのでしょうか?個々の報酬や仕事に及ぼす影響について、簡単にご紹介します。

収入UP

この30年間で諸外国では約2~3倍の賃金上昇が起こっているのに対して、日本ではほぼ伸びていないことが課題となっています。しかし生産性向上によって高い成果が上げられれば、「企業収益の改善→賃金の上昇」という流れが生まれます。

これまでの日本の生産性向上策としては、「より少ない労働量でこれまでと同じ成果を上げる」という方法が取られるのが一般的でした。しかし、これだと「時間当たり賃金」は上昇するものの、「労働者一人当たりの賃金」は増加しないという課題があるのです。

一人当たりの賃金を増やすためには、労働生産性の分子側である「付加価値額を増やす」ことがポイントになります。「賃上げが先か、生産性向上が先か」という問題にも繋がりますが、岸田首相は2023年11月の政労使会議の中で、「来年は今年を上回る水準の賃上げが実現するよう協力を要請」と述べています。

「賃金上昇→消費の拡大→企業収益の改善→賃金の上昇」という好循環を生み出すためにも、賃金の上昇をチャンスと捉えたイノベーションが求められています。

「3K」現場の改善

「3K」とは、「きつい・汚い・危険」の3つの頭文字(K)が当てはまる労働環境のことを指します。特に建設業・介護・農業といった肉体労働のブルーカラー(技能系職種)が該当します。

特に建築現場では、重い資材を運搬したり高所に上ったりする作業が多く危険を伴います。2023年9月には、東京・八重洲の工事現場で鉄骨が落下する事故により作業員2名が命を落としています。生産性向上によって危険な作業をロボットや機械に任せられれば、こういった事故も減らせると期待されています。

また、自動化・省人化が実現できれば「余った人材に別の業務を割り振る」、「新たな事業を創出する」といった方向にシフトできます。

まとめ

本記事では、建設業の抱える課題や、生産性に関する現状についてご紹介しました。生産性の向上には「労働力を削減する」「付加価値を増加させる」といった2種類のアプローチがありますが、どちらかに偏らず両方を実現できる取り組みが求められています。次回の連載では、生産性向上のための新技術や具体策についてご紹介します。