【建設DX展 独自取材⑧】竹中工務店、異業種と共同開発や他ゼネコン連携でDX加速
2021年12月6日〜8日に行われた建設DX展にて独自取材を行いました。建設DXの生の声を全8回の連載にてお届けします。
シリーズ最終回となる第8回目は、竹中工務店のブースをご紹介します。建設業のリーディングカンパニーとして、ランドマークとなる建築に数多く携わる企業です。さらにプロセス管理やコストプランニングをサポートするPM/CMサービスなど、新たな事業にも積極的に展開しています。
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建設DX推進のパートナー探し
ゼネコン同士も手を取り合い 異業種に門戸を開く
株式会社竹中工務店
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壁を限りなく排した開放的な白い展示空間。大きく掲げられた“with TAKENAKA”の文字がひときわ目を引きます。大手ゼネコン・竹中工務店のブースです。今までの竹中工務店のイメージとは少し違うものがありました。ブースでは建設DXの取り組みを、運用中の建設ロボットや施工管理アプリなどを通して紹介していました。今回の展示について、株式会社竹中工務店技術本部技術戦略部技術外交グループ 廣里 成隆 副部長に話を伺いました。
Q.今までの竹中工務店とは違う印象がありました。出展の目的は?
自前主義の建築技術のみでは限界
確かに今までの弊社のイメージとは違うと思っています。違うようにしたと言った方がいいかもしれません。今まで竹中の技術は建物の付加価値提供、差別化を図る技術を多くPRしてきました。技術開発は自社内リソースが源泉になっていました。お客様、現業部隊からの声を元に技術を生み出していました。自前主義、自社で完結するような技術開発が多かったのです。ただ、昨今は自前の建築技術のみでは限界を感じます。
竹中工務店は箱だけ作ればいい、ではいずれ淘汰される
現在、オフィスビルを建設した場合、通信システムの整備も伴わなければビルの価値は下がります。昔は空調と電気と衛生設備(いわゆる水回り)さえおさえればよしという時代でしたので、変化のスピードがはやいです。今はITやシステム系を理解していないと「竹中さんは箱だけ作ってくれればいい、あとはシステム屋さんにお願いするからいいよ」と言われてしまうのです。ゼネコンは相当な会社数があり、いずれ価格競争で淘汰されてしまいます。差別化するには最先端技術に対応し、システムを一緒に請け負う形の建築を目指さなければなりません。
異業種とのオープンイノベーションを模索
最先端技術を伴う設計・施工は建築専門家だけでは限界があります。そこでオープンイノベーションの道を模索するようになりました。異業種の方と一緒に技術開発し、お客様からフルターンで請けて異業種の方と連携するのです。
異業種の技術に建築目線をプラス|ゼネコン全体で課題解決を目指す
例えばロボット導入であれば、我々はロボットの専門家ではないですが、どのような仕様が建設現場で適切かというユーザー目線は持っています。同時にロボット導入により3K(きつい、汚い、危険)と言われる建設業界の労働力不足を解決したいという切実な危機感もあります。この課題が1社だけでは解決が難しいことも知っています。
そこでロボット導入を竹中1社だけで考えず、建設RXコンソーシアム(*2021年9月に立ち上がった建設施工ロボット・IoT分野における技術連携に関するコンソーシアム)のように鹿島建設、清水建設など多くの業界関係者と連携してロボット開発を進めることにしました。ロボットなど異業種の技術にゼネコン全体で検討し、共同開発、相互利用を進めるというイメージです。
このような取り組みに一定の成果が出始めています。今回はその成果発表とともに更なる普及展開、機能向上のための新たなパートナーという目的で出展をしました。
Q.具体的なDX技術とは?
タワークレーン遠隔操作システム「TawaRemo®(タワリモ)」
大阪から名古屋のタワークレーンが操作可能に 鹿島建設と共同開発|高所での密室作業 タワークレーン操作の課題
建設業界の課題の一つであるタワークレーン操作の解決策です。現状、タワークレーンのオペレーターは地上数十~数百メートルの現場コックピット内で孤独に操作をします。朝8時にお弁当と簡易トイレを持参し夕方5時まで高所の密室から出られないのです。肉体的、精神的にもきつい仕事で、最近ではオペレーターのなり手も少なくなっています。
遠隔操作という発想|名古屋のタワークレーンを大阪で操作
これに対してクレーン操作が遠隔でも可能になればビルの上まで行く必要がなくなる、という発想から生まれた技術が「TawaRemo®(タワリモ)」です。すでに、大阪にコックピットを置いて、名古屋の建設現場のタワークレーンを動かした実証実験実績があります。
遠隔地のコックピットと現場のタワークレーンは映像と通信回線で連動しています。荷重などの動作信号及び異常信号を閲覧する専用モニターも配置しています。タワークレーン側に設置されたジャイロセンサーにより、コックピット側で実際のタワークレーンの振動、揺れを体感することもできます。これによりタワークレーンの運転席上での操作と同等の環境を構築しています。
遠隔操作による人材確保の可能性
この技術は新しい可能性も示唆しています。コックピットは都会でなく、地方に設置してもよいということです。実際に某地方都市でのオペレーターセンターを整備・準備中です。
オペレーターは朝8時に来て、お昼も地上で自由に過ごし、夕方5時に帰る。それでも動かしているタワークレーンは東京や大阪の現場といった具合です。オペレーター人材確保の可能性が広がります。地方の優秀な人材の働く機会も創出する。さらに若い人が入ってきてくれればなおよいと思っています。
鹿島建設等との共同開発が成功要因
成功した要因は、当社と鹿島建設、アクティオ、カナモトにより4社が共同開発したことにあります。1社だけでなく、複数の技術を持った会社での開発を成功へ導きました。
共同開発、購入のさまざまなメリット|コストダウン以外にも相乗効果が
システムはもちろん鹿島建設の現場でも同じ操作感で使用可能です。ロボットは民生用の場合数万台売れ、コストを下げやすいです。仮に建築用ロボットを建築会社1社が採用した場合、普及はせいぜい数百台程度です。であれば共同で同一規格の技術を利用すれば導入メリットが大きくなります。タワークレーンならこれ、と同じロボットを導入すれば1種類で各社が購入し、数千台の普及も可能となります。コストも下がり、各社採用しやすくなります。各社で改善案などを出し合えば使い勝手がさらに向上し、よい相乗効果が生まれます。共同開発はさまざまなメリットを生む。その象徴的な成功例が「TawaRemo®(タワリモ)」だと思っています。今後は他のゼネコンも加わり、現場での試運転を進めながらゼネコン各社での導入が実現できればと考えています。
自走式墨出しロボット
単純作業に特化
墨出し(床へのマーキング)に特化しており、当社が低コスト化を目指して開発し、普及を目指しているロボットです。墨出しの効率化・自動化という現場からの強い要望を元に開発されました。墨出しは特定職種に限定されず、ほぼ全ての建築職種で必要不可欠な作業のため、効率化・自動化の波及効果は極めて大きいです。墨出しの大部分をロボットに任せることで、職人は他の主要作業に集中できます。
バブル期のロボット開発の失敗
実はこのロボットの開発には1980~90年代バブル期の苦い反省があります。当時も職人作業のロボット化という話はありました。ゼネコン各社が競うように万能型のロボット開発を進めたのです。職人作業を全て真似するというコンセプトで、開発費は億を超えました。また開発したロボットを現場で動かすために何度も打ち合わせをし、搬入ルートを考えるなど、ロボットのために人間が大変な思いをしました。結局、まったく普及しなかったのです。
令和のロボット 鉄腕アトムよりもドラえもんを目指す|人間の作業を一部手伝うロボット
当時の反省も踏まえて、現在は人間と共存できる、人間の作業の一部を手伝うロボットがコンセプトです。当社の建設ロボット開発を推進する技術本部長の村上(村上 陸太 常務執行役員)が常々発信していることに「鉄腕アトムではなくて、ドラえもん目指せ!」ということがあります。鉄腕アトムはいわば万能型ロボット。ドラえもんは人間が困っていたら必要な道具をくれるロボットです。令和のロボットはドラえもん的なものの方が、コスト減、開発期間のスピード、作業効率や働き方改革という恩恵を与えてくれます。
深夜休みなく働く墨出しロボット|職人や現場監督は働き方改革に
それもあり墨出しロボットは床に墨出し(マーキング)するだけの機能しかありません。初期の設定や作業管理、仕上がり確認は人間がしなければなりません。それでもロボットは墨出しという単純作業を夜中6時間でも休みなしにやってくれます。翌朝、現場監督が来ると作業が終わっている。これはなによりの効率化であり、職人や現場監督にとっても働き方改革にもなります。
他業界や世界へ展開
墨出しは建築に限らず、さまざまな産業で生かせます。工場の装置の位置出し、展示会ブースのレイアウトなどにも使えます。また、これは日本だけでなく、世界中同じなので今後の展開も広がりが期待されます。
Q.今後DXの展開は?
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ゼネコンの連携 建設RXコンソーシアムの真意
鹿島建設や清水建設とは受注競争ではライバルであるが
業界の共通課題では仲間
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建設RXコンソーシアム
当社のDXにとって大きなポイントが2021年9月に設立された「建設RXコンソーシアム」です。建設施工ロボット・IoT分野における技術連携に関するコンソーシアムで、当社、鹿島建設、清水建設を中心にゼネコン16社で立ち上げた組織です。その後も26社にまで参加企業が増えています。
鹿島建設や清水建設とは受注競争ではライバルであるが、業界の共通課題では仲間
鹿島建設や清水建設とは受注競争ではいまでもライバルです。ただし、建築業界が抱える共通課題についてはライバルではなくて仲間です。鹿島建設も清水建設も同じようなスタンスです。今回のDX展は当社のみの出展ですが、鹿島建設、清水建設とは別のロボット展示会・WRS(ワールドロボットサミット)に3社連携で出展しました。
ブースに来る方は、建設RXコンソーシアムを知っている方も多いです。「建設会社ってこんなところまで技術開発していたのですね」や異業種だけどコンソーシアムに入りたいという会社もいました。ある会社はすぐに意思決定して、入会してくれました。
竹中、鹿島、清水が胸襟を開いて、門戸を開く
一方、異業種からはゼネコンに敷居の高い印象があるのも事実です。当社としては業界の危機感を発信し、胸襟を開く姿勢を大事にしています。言ってみれば「皆さん建設業界に目を向けてください!建築業界が大変なんです」「仕事があってもこなせないんです」「働き手がいないのです」という姿勢です。それが伝わり、建築業界に最新技術が導入されるようになればよいと思っています。
“with TAKENAKA”
今後もこのように業界内はもちろん、異業種の方々とも連携し、課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。“with TAKENAKA” 魅力ある建設業の未来をともに創りませんか? このキャッチフレーズがまさに当社の今の思いです。
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