フィジカルインターネットとは|建設業での取組
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トレンドワード:フィジカルインターネット
「フィジカルインターネット」についてピックアップします。物流業界の人手不足が問題となる中、新しい物流システムとして注目が集まっています。本記事ではフィジカルインターネットの概要やメリット、建設業界での取り組みについてご紹介していきます。
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、インターネットのデータ通信の仕組みを応用した「新しい物流システム」のことを指します。複数の企業がトラックをシェアし、積荷を規格化することで効率化を目指すのが特徴です。IoTやAI技術により、最適な輸送計画を実現します。
インターネットとの共通点
フィジカルインターネットのコンセプトとして「インターネット通信に着想を得ている」ということが挙げられます。インターネットとの主な共通点は、下記の通りです。
①パケット交換
以前のコンピュータ通信は、発信と着信端末を直接接続する方式でした。しかしインターネットの仕組みが開発されてからは「パケット」という単位に分割して通信を行っています。これにより、回線を占有せず不特定多数での通信が可能になったのです。
フィジカルインターネットにおいては「コンテナ」がパケットに相当します。コンテナというと巨大な鉄道コンテナ等をイメージしてしまいますが、ここではパレットのような小さなユニットのことを指します。
物流におけるフィジカルインターネットでは、コンテナのサイズ・素材・機能を統一することが効率化の第一歩となります。
②プロトコル
プロトコルとは「ネットワーク上でデータ通信をするための標準ルール」のことを指します。全世界的な暗黙のルールが定められていることで、通信の足並みを揃えているのです。
フィジカルインターネットにおいても、貨物をやり取りするための取り決めが必要となります。上図のように、最下層の物理的な規約、データをつなげるための処理に関する規約、それをネットワークとして管理するための規約…と層状に分類して規約が定められます。
フィジカルインターネットの特長・メリット
フィジカルインターネットには、下記の特長やメリットがあります。
①効率性
フィジカルインターネットによって、物流の効率化が実現できます。輸送時のCO2排出量削減にも繋がるため、カーボンニュートラルにも大きく貢献するでしょう。
また生産と流通の各領域をデータ連携すれば、最適なサプライチェーンマネジメントも可能になります。「売れないものは作らない」ことで、廃棄ロスの問題も解消します。
②強靭性
日本は自然災害に多く見舞われる国土で、これまでにも震災時にはサプライチェーンの寸断や混乱が起こってきました。
しかしフィジカルインターネットでは「非常時でも止まらない物流」が実現します。各輸送手段や企業・地域の密接な連携により、多様な物流の選択肢が安定的に確保できるでしょう。
③良質な雇用の確保
フィジカルインターネットでは、業務プロセスの標準化が求められます。これにより、物流現場の作業負荷が大幅に減ると考えられます。根本的な効率化が実現すれば労働環境の改善が促され、賃金の上昇やドライバーの安定的な雇用にも繋がるでしょう。
さらに、フィジカルインターネットでは物流コストが削減できます。つまりインターネット空間のように、現実世界においても「誰でも・どこでも繋がれるようになる」という点が大きな魅力でしょう。結果として、物流リソースに乏しい中小企業や個人でも、全国的なビジネスが容易になります。
④ユニバーサル・サービス
日本は少子高齢社会に突入しており、より効率的な社会システムの構築が求められるでしょう。いわゆる「買い物弱者」と呼ばれる問題など、地域間格差が広がっているのが課題です。
そういった中で、フィジカルインターネットによる効率的な物流は「社会インフラ」として機能します。過疎化の進む地域など、輸送資源が乏しい場所での問題解決に貢献します。
物流の課題|2024年問題とは
フィジカルインターネットが注目されるようになった背景としては「2024年問題」があります。これは、2024年の法改正で「ドライバーの時間外労働の960時間上限規制」が適用されることで起こる問題のことを指します。
具体的には、各ドライバーの労働時間が短くなることで輸送能力が不足してしまうのです。物流業界は以前から若手不足や長時間労働といった問題を抱えていましたが、2024年以降はさらに悪化することが懸念されています。通信販売による宅配便の数も年々増えていることから、デジタル化やIT化による根本的な解決策が求められています。
フィジカルインターネット実現会議
国土交通省と経済産業省は、フィジカルインターネット実現会議を設置して物流問題に取り組んでいます。
フィジカルインターネットのロードマップ
ロードマップでは、「ガバナンス」「物流・商流データプラットフォーム」「水平連携(標準化・シェアリング)」「垂直統合(BtoBtoCのSCM)」「物流拠点(自動化・機械化)」「輸送機器(自動化・機械化)」の6項目が設けられています。準備期・離陸期・加速期を経て、2040年に完成期を迎えることを目標としています。
建材・住宅設備でのフィジカルインターネット
フィジカルインターネット実現会議の一環である「建材・住宅設備WG」では、建材・住宅設備のサプライチェーンにおけるアクションプランが定められています。
建材・住宅設備の物流においては、これまでの商習慣が物流の効率化を妨げる課題の1つでした。具体的には、「ドライバーが荷役作業も行うこと」や「現場での待ち時間が発生してしまう点」が問題とされています。
そのため、プランでは「商習慣の見直し」が提言されています。実際のビジネスにおける利害関係が発生することから、これまで個社の取組だけでは十分に見直しや改善が進んできませんでした。今後は、(一社)日本建材・住宅設備産業協会が主体となり、運送事業者に過度な負担がかかる原因となっている納品条件の見直し・透明化を図っていくとしています。
まとめ|フィジカルインターネットで業務効率化
物流問題は、企業活動や個人の生活など幅広い範囲に影響を及ぼします。今後はフィジカルインターネットによって労働力不足の解消や職場環境の改善を図り、効率化が進むことが期待されます。