木造と鉄筋の違いを知る|CO2排出量は?

トレンドワード:木造と鉄筋の違い

「木造と鉄筋の違い」についてピックアップします。脱炭素の取組の中で、木造はCO2排出量が少ないという点が注目されています。本記事では木造と鉄筋の特徴やメリット・デメリットについてご紹介するほか、国交省による「木造先導・優良木造プロジェクト2023」についてもまとめています。

木造と鉄筋の違いとは

ここではまず、木造と鉄筋の違いやメリット・デメリットについてまとめておきます。

木造とは

木造とは、主要な構造部材に木を使用した建築物のことを指します。一般的な日本の戸建て住宅は約85%が木造で、古くから馴染みのある形式です。木造住宅には「軸組工法(在来工法)」や「2×4(ツーバイフォー)」等の工法があり、建築物の規模やコストに応じて適宜選択されます。

また近年では、大規模建築も木造化する動きが注目されています。その場合「大断面集成材構法」、「ハイブリッド構法」、「CLTパネル工法」といった工法が採用されます。「CLT」について詳しくは、下記記事をご覧ください。

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鉄筋とは

鉄筋は、構造材に金属を用いた建築物のことを指します。一般的には「鉄筋コンクリート建築」の略称として呼ばれるケースが多いです。金属を用いた工法としては、大きく以下の3種類があります。

  • 鉄骨(S)
  • 鉄筋コンクリート(RC)
  • 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)

「鉄骨(S)」は、柱や梁に鋼が使われる工法のことを指します。木材よりも強度が高く、大空間の建築にも向いています。一般的には、ビルや工場といった建築物で用いられることが多いです。また戸建て住宅では、へーベルハウスやパナソニックホームズといったハウスメーカーが鉄骨造の住宅を販売しています。

「鉄筋コンクリート(RC)」は、鉄筋の型枠にコンクリートを流し込む工法です。鉄は「引っ張り」に強く、コンクリートは「圧縮」に強いという性質があります。そのため両者が補完し合い、強度を高めているのです。それだけでなく「コンクリートで覆うことで鉄が錆びにくくなる」というメリットもあります。

「鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)」は、「鉄骨×鉄筋コンクリート」の工法です。鉄骨の周囲に鉄筋を配し、コンクリートを打ち込みます。最も頑丈な工法なので、大規模ビルやマンションで用いられています。

木造と鉄筋の違いを比較

ここでは、木造と鉄筋コンクリートの違いについて比較していきます。

①耐震性

一般的には「木造より鉄筋コンクリートの方が地震に強い」とされています。鉄筋の方が剛性があり、より頑丈な構造を形成できることが理由です。

しかし技術進歩により、木造建築の耐震性も向上しています。接合部や構造の補強、耐震補強材の使用など、様々な工夫がなされています。また木造建築は軽量で柔軟性があるため、地震時の振動を吸収する場合もあるでしょう。

耐震性は単一の要素だけではなく、構造の総合的な設計と施工の品質によって決まります。建築物の用途や地域の地震動の特性に応じて、適切な耐震性能を持つ構造を採用することが重要です。

②耐火性

耐火性に関しても、一般的に「鉄筋コンクリートの方が木造建築よりも優れている」とされています。

鉄筋コンクリートの主原料であるコンクリートは不燃性のため、全焼することがほぼありません。火災発生時には、コンクリートが炎の進展を抑えてくれます。

一方、木材は燃えやすい性質があります。ただし木材は炭化現象により表面が焦げる自己防御機能を持っており、全焼するまでの避難時間は比較的長く確保できます。

また耐火性を向上させるために、耐火構造材料の使用や耐火処理を行うことが一般的です。例えば、耐火性のあるギプスボードや防火塗料の使用、木材の表面を覆う防火クロスの設置などが行われます。これらの対策により、木造建築の耐火性を向上できます。

③コスト

木材の方が価格が安いため、建築コストについては鉄筋コンクリート造よりも木造の方が安くなります。木造だと工期も短く済み、人件費や現場管理費用も抑えられるでしょう。

ただし長期的なライフサイクルコストの面では、一概には比較できません。木造はシロアリ対策費や災害による復旧費用など、メンテナンスする機会が多くなります。また火災保険や地震保険に関しても、鉄筋コンクリートよりも保険料が高くなる傾向があるでしょう。

④CO2排出量

木材は自然素材であり、炭素(C)を多く含みます。そのため建築材料として利用することで、CO2の吸収と貯蔵に貢献できます。また木造建築は比較的軽量な構造のため、建築現場でのエネルギー消費が比較的少なく済むのもメリットです。

一方、鉄筋コンクリートの製造には石炭や石油などの化石燃料が使用され、CO2の排出が生じてしまいます。現在、地球環境問題対策として「カーボンニュートラル」の取り組みが広がっています。その中で、木造建築には「炭素を固定する役割」が期待されているのです。

実際に大林組では、ハイブリッド木造建築物のCO2削減量が分かるアプリ「WOODX」を開発し、循環型資源である木材利用の拡大に取り組んでいます。外形や階数、木材の構造への適応範囲、内外装のデザインを設定すれば、S造とハイブリッド木造のCO2削減率が簡単に比較できます。

このアプリは、営業担当者のタブレットに標準ソフトとして導入されています。実際の現場でも、木造建築を検討される顧客が増えていることが伺えます。

国交省、大規模木造建築物を促進

国土交通省では「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を定め、建築物におけるさらなる木材利用の促進に取り組んでいます。

「木造先導・優良木造プロジェクト2023」とは

国土交通省では、中高層・大規模木造建築物の整備を促進するため「木造先導・優良木造プロジェクト2023」を実施しています。これは、構造・防火・生産システムの面で先導的な設計・施工技術を導入したプロジェクトや、普及拡大段階の木造化技術を活用したプロジェクトを支援するものです。

令和5(2023)年度は、「木造先導プロジェクト」に2件、「優良木造プロジェクト」に6件が採択されました。

採択事例|先進的な木造建築

ここでは、「木造先導・優良木造プロジェクト2023」の主な採択事例についてご紹介します。

①(仮称)エア・ウォーターの森計画|北海道札幌市

木造と鉄骨造の「混構造4階建て事務所兼店舗」を建設するプロジェクトです。構造は、木造斜め柱と鉄骨横架材を組み合わせた外郭構造となります。

木造斜め柱と鉄骨横架材、直交する木造梁が取り合う接合部のプレキャスト化が提案されています。外部露出柱に交換可能な耐候層を追加して、寒冷地での耐久性を高める工夫が行われています。

防火に関しては、耐火集成材の柱梁の採用に加えて、避難安全検証法(ルートC)を適用しています。インナーガーデン内の通路と一体とした4層の吹き抜け区画に、耐火集成材を利用します。

工事期間中と竣工後に見学会が実施されるほか、木材伐採から建物ができるまでの過程を動画に収め、施設内にて放映する計画も行われています。

②川崎市宮前区小台 2 丁目計画|神奈川県川崎市

木造5階建ての寄宿舎を建設するプロジェクトです。

構造に関しては、中高層木造建築物では初となる構造計算ルート3におけるDs=0.3を提案しています。Y方向を木造ラーメン構法とし、X方向を鋼製コッター活用の耐力壁構造としているのが特徴です。

ラーメン方向のパネルゾーンを鋼材として、木梁の接合にGIUA(アンボンド範囲を設けた接合)を採用し、全体として木材割裂を防ぎ粘りのある接合部としています。また耐力壁は、地震時に上下の木質パネル間に設けたコッターが変形することで粘り強い構造となっています。

防火に関しては、1階部分の柱や梁に、2023年4月に施行された「90分耐火構造の木造の耐火仕様」が採用されています。従来までの木造建築物の耐火性能基準は、60分・120分の2種類でした。しかし木材利用促進のため、新たに「90分」が設けられ精緻化されています。

2023年の建築基準法改正については、下記記事をご覧ください。

2023年建築基準法改正のポイント|国土交通省の耐震基準や年表解説

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まとめ|木造の広がりに期待

木造建築は戸建て住宅に多いものの、ビルなどの大型建築では鉄筋コンクリートが一般的です。しかしCO2削減の観点から、木造建築物への期待が高まっています。防火性能や耐震性についても技術が進歩しており、今後の木造建築の広がりに注目です。