2023年度正社員採用、63%企業で「予定あり」|2年連続上昇
有効求人倍率は2022年6月から上昇し続け、同年12月には新型コロナの影響が出始めた2020年3月以降で最高となる1.45倍に上昇、2023年1月も引き続き高水準で推移している。
また、帝国データバンクが実施した調査によると、2023年2月における人手不足企業の割合は6カ月連続で正社員で5割、非正社員で3割を上回る高水準で推移している。
そこで、帝国データバンクは、2023年度の雇用動向に関する企業の意識について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年2月調査とともに行った。
目次
- 調査結果(要旨)
- 正社員の採用予定がある企業は63.0%、採用が増加する企業は引き続きコロナ前上回る
- 正社員『採用予定がある』、「医療・福祉・保健衛生」が82.8%でトップ
- 非正社員の採用予定がある企業は47.3%、前年から1.0ポイント上昇
- 非正社員『採用予定がある』割合、飲食店やホテルなど個人消費関連業種で高い
- 企業が求める職種、販売・営業職が42.1%。求める職種も業種によっては多様化
- 賃上げを行う企業ほど採用に積極的
- [1] 採用予定がある割合を被説明変数、賃上げがある割合を説明変数として単回帰分析を行ったところ、以下の結果が得られた。採用予定あり=35.683+0.504*賃上げあり(0.003) (0.021)
調査結果(要旨)
- 2023年度、正社員の採用予定がある企業は63.0%
- 非正社員の採用予定は47.3%、前年から1.0ポイント上昇
- 職種では販売・営業職が4割超、求める職種も業種で多様化
調査期間:2023年2月14日~2月28日(インターネット調査)。なお、雇用動向に関する調査は2005年2月以降、毎年実施し、今回で19回目
調査対象:調査対象は全国2万7,607社で、有効回答企業数は1万203社(回答率37.0%)
調査機関:帝国データバンク
正社員の雇用動向
正社員の採用予定がある企業は63.0%、採用が増加する企業は引き続きコロナ前上回る
正社員の雇用動向2023年度(2023年4月~2024年3月入社)の正社員の採用状況について尋ねたところ、『採用予定がある』(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)と考えている企業は前回調査(2022年2月実施)から0.8ポイント増の63.0%となり、2年連続で上昇した。
また、採用予定がある企業の内訳は、採用人数が「増加する」企業が25.7%(前年度比0.2ポイント増)と、新型コロナ前の2019年度(23.4%)を上回り、4社に1社で増加する見通しとなっている。
採用人数が「増加する」とした企業からは、「接客スタッフ(主に料飲、宿泊部門)が不足気味のため、新入社員を多めに採用」(旅館、神奈川県)や「人手不足は続いており、雇用は急務と考えている。
ただ技術職の採用については、成り手がいないことから、雇用の条件や会社自体の魅力作りに力を入れている」(木造建築工事、栃木県)などの声があがっており、多くの企業で人手不足が厳しいなかで、人材を引き寄せるために従業員への待遇などさまざまな工夫をしている様子もうかがえた。
一方で、「採用予定はない」企業は26.1%(同1.3ポイント減)となった。「電気代・燃料代の高騰で雇用に回せる余力がない」(普通洗濯、群馬県)や「地方の中小企業で正社員を採用するのは、非常に厳しくなっている。
さらに賃上げ圧力や利益の減少など難題も多く、採用できても維持していけるか疑問である」(ガソリンスタンド、山形県)などのコメントにあるように、原材料費や人件費などコストの高騰で経営が圧迫され、従業員を雇う余裕がない企業も一定数存在した。
正社員『採用予定がある』、「医療・福祉・保健衛生」が82.8%でトップ
正社員『採用予定がある』割合 ~規模、業界別~規模別に正社員の『採用予定がある』割合をみると、「大企業」は86.3%と全体を大幅に上回った。一方で、「中小企業」は58.7%、「小規模企業」は41.8%となり、企業規模が小さいほど割合が低くなっている。
業界別における『採用予定がある』割合は、『運輸・倉庫』が70.0%で最も高くなった。次いで、『サービス』が69.0%、『建設』が68.1%で続いた。なかでも、『サービス』は約3社に1社が採用人数の増加を見込む。
さらに主な業種でみると、「医療・福祉・保健衛生」(82.8%)では8割超の企業が採用を予定しているほか、「旅館・ホテル」(79.3%)、「輸送用機械・器具製造」(76.8%)も8割近くにのぼる。また、「人材派遣・紹介」では採用が「増加する」企業は4割超となった。
正社員『採用予定がある』割合が高い主な業種企業からは、「賃上げを踏まえ、採用計画を思案中」(一般病院、長崎県)といった前向きな声が聞かれた。他方、「サービス業の中小零細企業にとって新卒採用はもとより、中途採用も難しく、大変厳しい状況になってきている。
理由は採用時の賃金などの条件面の優遇が些少しかできず、大企業も新卒採用を再開しているため、こちらへの応募が少ない。また、新型コロナでサービス産業に対するイメージが悪く、業界的に働きたい職種ではなくなっている」(旅館、島根県)というように、人材が集まらず厳しい状況にある企業も多くみられる。
非正社員の採用予定がある企業は47.3%、前年から1.0ポイント上昇
非正社員の雇用動向2023年度の非正社員の採用状況について尋ねたところ、「採用予定がある」(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)企業は47.3%(前年度比1.0ポイント増)と勢いは前年より衰えるも2年連続で上昇した。
また、採用人数が増加する企業は13.4%(同0.9ポイント増)と新型コロナ前の2019年度を若干上回った。
非正社員『採用予定がある』割合、飲食店やホテルなど個人消費関連業種で高い
非正社員『採用予定がある』割合 ~業界別、業種別~規模別に非正社員の『採用予定がある』割合をみると正社員と同様に企業規模が小さいほど割合が低くなっている。業界別では、『農・林・水産』が60.2%で最も高く、『小売』(58.8%)、『運輸・倉庫』(56.9%)も6割近くで続いた。一方、採用予定がない企業は39.2%(同1.9ポイント減)となった。
主な業種別では「飲食店」(91.4%)や「旅館・ホテル」(80.5%)、「飲食料品小売」(75.3%)、「娯楽サービス」(73.4%)など、個人消費関連の業種で『採用予定がある』割合が高い傾向となっている。なかでも、「飲食店」では採用人数が「増加する」企業が約5割にのぼった。新型コロナ感染対策の緩和による人流の増加で人手不足感が高まり、採用が活発となっているとみられる。
非正社員『採用予定がある』割合が高い主な業種
企業からは、「新型コロナ禍が収束を見せ、人材の奪い合いになっている」(菓子小売、東京都)のほか、「特に接客業や料理人の確保が難しく求人費用が増加している」(一般食堂、三重県)や「ホテル業界は採用環境が非常に厳しい。人員補充ができず機会損失がすでに発生している」(旅館・ホテル、東京都)といった人手不足の深刻化を訴える声が聞かれた。
企業が求める職種、販売・営業職が42.1%。求める職種も業種によっては多様化
企業が求める職種 ~上位10職種~ (複数回答)
どのような職種の人材を求めているか尋ねたところ、販売、営業職などの「販売の職業」(42.1%)がトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、開発・製造技術者などの「専門的・技術的職業」(33.9%)、一般事務員などの「事務的職業」(20.8%)、役員や管理職などの「マネージメント職」(20.7%)が続いた。
業界に特化していない職種をみると、「販売の職業」については、特に『卸売』(71.7%、全体比+29.6ポイント)、『小売』(64.6%、同+22.5ポイント)、『金融』(53.7%、同+11.6ポイント)といった業界における割合が比較的高かった。
「専門的・技術的職業」は『製造』(53.9%、同+20.0ポイント)で高く、「事務的職業」は『金融』(39.5%、同+18.7ポイント)で目立っている。また、「マネージメント職」は『運輸・倉庫』(32.2%、同+11.5ポイント)で特に求められている。企業からは、「中間層の管理職が不足している」(一般貨物自動車運送、福岡県)といった声があがっていた。
ほかにも、データサイエンティスト、データエンジニアなど「データ分析・技術職」は『金融』(19.0%、同+11.4ポイント)で高くなっている。
賃上げを行う企業ほど採用に積極的
採用予定と賃上げ見込み動向の関係
採用動向と賃上げの関係をみると、正社員・非正社員ともに賃上げを実施する予定の企業ほど採用予定のある企業の割合が高い。
正社員では、「採用予定がある」企業の63.9%が2023年度の賃上げを見込んでいる一方、「採用予定はない」企業は44.3%にとどまり、採用予定の有無において賃上げの実施割合に19.6ポイントの開きが確認できた。非正社員においても、「採用予定がある」企業の賃上げ割合(37.0%)は「採用予定はない」の賃上げ割合(15.4%)より21.6ポイント上回っている。
採用予定と賃上げの関係を主な業種別にみると、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応などを含めIT人材獲得の重要性が増す「情報サービス」で、採用と賃上げがいずれも高水準となった。総じて、賃上げと採用予定には緩やかな相関関係がみられ(相関係数0.373)、賃上げ割合が1ポイント上昇すると採用予定割合が0.5ポイント上昇するという傾向が表れていた[1]。
企業からは、「人手不足感があるが、採用レベルを下げずに雇用を進める。特にパートタイム勤務者について近隣地域の賃金を調査し、見劣る部分は時給を上げる」(医療用品製造、栃木県)や「本年度は雇用条件(賃金)をアップしハローワークへ提出したものの、応募が高齢者以外はない状況」(冷暖房設備工事、岐阜県)といった声が聞かれた。
[1] 採用予定がある割合を被説明変数、賃上げがある割合を説明変数として単回帰分析を行ったところ、以下の結果が得られた。採用予定あり=35.683+0.504*賃上げあり(0.003) (0.021)
- OLS、カッコ内p-値、自由度修正済み決定係数0.115
2023年度の雇用動向について、正社員の「採用予定がある」企業は前年度からわずかに上昇した。なかでも「医療・福祉・保健衛生」では8割を超えており、採用意欲が非常に高い水準となっている。
また、採用人数が「増加する」割合は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2018年度以来の水準まで上昇している。この傾向は非正社員の採用動向においても同様の傾向を示しており、特に「飲食店」では9割を超える企業で採用を予定しており、約半数で採用人数を増加させると考えていた。
採用において賃金など条件面で苦慮している企業も多くみられたが、人手不足が再び高まるなかで、よりよい人材の確保が生き残りのための重要な要素になる。
とりわけ中小企業においても正社員採用を「増加」させる企業が4社に1社にのぼるなど、労働市場における人材の獲得競争が一段と強まっていく可能性がある。