【連載】「Modely」開発背景から考える建設DX(第1回)今の建設業界の状況と理想的な未来

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Datalabs株式会社は、2023年4月に配筋検査効率化ツール「Modely(モデリー)」の製品版リリースを予定しています。「Modely」は、これまで多大な工数をかけて行っていた配筋検査がiPad1台で完結する画期的なツールです。

BuildApp Newsでは、業界に大きなインパクトをもたらす「Modely配筋」を開発したDatalabs株式会社による連載企画「『Modely』開発背景から考える建設DXを、3回に渡りお届けします。

連載1回目は、CEO 田尻大介氏の視点で語る「今の建設業界の状況と理想的な未来」です。建設現場施工管理に携わる建設プレイヤーの方々は、先端技術を活用した業務効率化に役立つICTツールのキャッチアップにお役立てください。

データの力で業務プロセス全体を改善するために起業

私は、新卒で宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、リモートセンシング(衛星データ)の利用普及事業に従事しました。その後、有人宇宙関連部署に異動したのち、Terra Drone株式会社(以下ドローンベンチャー)に転職し、三次元計測事業責任者や新規技術導入を担当します。

それから、株式会社Synspective(衛星ベンチャー)にて、BtoB SaaSの事業開発担当として技術提案からクロージングまでを牽引する業務に携わりました。3社の経験を経て、2020年7月にDataLab株式会社を創業しました。

私は、JAXAで衛星データを、ドローンベンチャーで3次元データを加工して提供する業務に携わってきたのですが、いずれの会社でもユーザ様の業務におけるデータの利活用が部分的に留まっていると感じました。そのため、データの力で業務プロセス全体を改善できるようなサービスを作りたいと思って、「データラボ」という社名で起業しました。

膨大な間接業務に疲弊する建設業界

現在、日本の建設業界は、人材不足や建設現場で働く人々の新しい技術への抵抗意識など、様々な課題を抱えています。その中でも、私が特に喫緊の課題だと感じることは、間接業務の多さです。

建設実務では各工程において膨大な書類が発生します。とにかく書類が多く、施工計画書に始まり、設計変更のたびに申請書類が求められ、出来形帳票の種類も多岐に渡ります。書類仕事、いわゆる間接業務のあまりの多さに若手の施工管理技士が疲弊しているという話をよくお聞きします。

また、2次元図面で建物の形状を表しても、実際に施工する構造物は3次元であるため、側面図や立面図に平面図、断面図、横断図など、様々な角度から確認できる図面が必要です。3Dモデルと比較して格段に資料の数も増えるため、施工管理技士は膨大な資料を確認しなければならないため、疲弊していく一方です。

間接業務を徹底的に効率化する「Modely」を開発

これまで数多くの建設事業者の皆様との対話を通じて、施工実務とは別に検査や検収などの業務において、非常に多くの資料作成・提出が求められていることが分かりました。それらが建設実務の生産性を低下させている一因だと考えるに至りました。

そこで当社は、建設会社様において不可欠ながらも大きな負担となっている「配筋検査」と呼ばれる出来形検査の自動化を実現するために、国土交通省監修のもと「Modely」を開発しました。まず「Modely」の開発に着手した理由は、配筋検査には、現場での鉄筋出来形の実測から記録、内業での帳票作成や写真管理などといった様々な間接業務があり、それが施工管理技士の大きな負担となっているからです。

「Modely」は、iPadなどの汎用機材で動画を撮影する感覚で鉄筋をスキャンするだけで、実測から帳票作成までの工程がほぼ自動化されます。そのため、従来と比べて7~8割も作業効率の向上が期待できます。

また、「Modely」は現況の配筋の三次元モデルを自動生成します。来年度からBIM/CIM原則化が開始されます。BIM/CIM原則化の中では不可視部分の3次元モデル化が推奨項目として明記されています。

コンクリートを打設した後には配筋状態は不可視になってしまいますが、「Modely」で検査した箇所の現況配筋モデルを作成することで、BIM/CIM原則化への対応もしつつ、その後の維持修繕にも活用していただくことが可能です。

このように、3次元モデルを活用した幅広い業務プロセスの効率化に資するプロダクトを今後も開発・提供していく方針です。

出典:国土交通省「令和5年度BIM/CIM原則適用について」

DataLabs社がもたらす建設業界の変化

施工管理技士の生産性を下げる要因の一つともいえる間接業務を自動化する製品・サービスを提供することで、当社は建設実務にフォーカスできる環境を作る縁の下の力持ちのような存在になれたらと思っております。

当社は自動モデル化などのコア技術を保有しているものの、それらはあくまでも建設会社様の業務課題を解決させるシーズに過ぎません。建設会社様の業務実態や課題に、シーズを溶け込ませて「日常使い」していただけるようなソリューションに変容させて行く必要があると考えています。

そうすることで、各業務の担当者様は本来集中すべき業務にフォーカスできます。膨大な間接業務が大幅に軽減され、作業効率が劇的に向上し、長時間労働から解放されることで、2024年問題にも対応できる素地が出来ていくのではと、予測します。

これからの日本は新しいインフラ構造物が作られるよりも、過去に建てられた構造物を上手く再利用したり、改修・増設したりしていくことが不可逆的なトレンドとなるでしょう。

そういった中で、既設構造物を全自動でモデル化し、BIM/CIM原則化への対応や、積算や施工管理を自動化していくといった野心的と思われることも、技術的に実装可能な未来がすぐそこまで迫っています。ぜひご期待いただければと思います。

DataLabs社が考える理想的な建設業界の未来

私は建設業界出身ではないため、当然施工管理の経験もありません。実務経験がないため、現場の方からすれば頓珍漢だったり、高飛車だと感じられたりすることもあるかと思いますが、書類作成業務が多過ぎると感じます。

私はJAXAという公的機関に勤めていたため、多額の税金を投じて公的インフラを建設するという建設業界特有の事情から、関係者間で各工程が確実に完了したことを確認するために証憑を残しておくことの必要性はとても理解できます。

この業界特有の事情を考慮しても、ゼネコン各社の担当者様が施工計画書や設計変更などのたびに書類を作成し、変更に付随する写真整理に多大な工数がとられることをたびたび耳にします。膨大な間接業務に時間をとられ、施工業務にフォーカスする時間が逼迫し、結果として残業時間の増加や生産性低減の原因になっていると感じています。

「2019年の産業別労働生産性」(出典:内閣府「国民経済計算」より建設HR 編集部が作成)

建設会社の方々は、出来形管理要領などに基づき施工管理業務を行っていますが、請負契約の性質から、各種制度や契約内容の遵守、施工加点を得るためには、過剰だと思える書類作成業務も実施せざるを得ない状況に陥っていると推察できます。施工管理技士を膨大な書類作成業務から解放するためにも、制度そのものを緩和する必要性があると感じています。

制度緩和を実現する手段の1つとして、3次元データなどの技術が活用されることがあるべき姿だと思い、そしてそのような流れを作っていくことが今後の建設業界に必要だと考えています。

まとめ

連載1回目は、CEO 田尻大介氏に「Modely」が必要とされる背景を交えながら、現在建設業界が抱える深刻な課題と、理想的な未来を語ってもらいました。

連載2回目は、「Modely」の開発経緯とその魅力について解説します。