仮設住宅で災害支援|大地震での先進事例や課題を紹介

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Tag:建設DX

著者:小日向

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「仮設住宅」についてピックアップします。2023年2月6日にトルコ・シリアで発生した地震では、1700以上のビルが倒壊し多くの犠牲者が報告されています。今後、10万基以上の仮設住宅が設置される予定です。本記事では仮設住宅の概要や課題、先進事例についてご紹介します。

仮設住宅とは

ここでは、仮設住宅の概要や主な種類・間取り等についてまとめていきます。

仮設住宅の概要

仮設住宅とは、「住居を失い、自己資金で住家が得られない場合に供与される仮の住宅」のことを指します。災害発生後の初期段階では、体育館等に簡易的な間仕切りを設けて集団で寝泊まりすることが多いです。その後行政により仮設住宅が設置され、被災者に割り振られることになります。

日本の法律では、仮設住宅は「災害発生時から20日以内に着工・完成から2年間の貸与」という期間が定められています。

仮設住宅の種類

ここでは、主な仮設住宅の種類についてまとめていきます。

①プレハブ

プレハブ型の仮設住宅は、災害現場で最も多く活用されているタイプです。「プレ・ファブリケーション(Pre-fabrication)」の略称の通り、工場で部材の加工や組立を行ってから現場で組み上げられます。

工場生産がメインのため、木造在来工法のように職人の技能に左右されることが少ないのが特徴です。またスピーディーな設置が可能で、大規模災害時にも迅速な対応ができます。

②木造

東日本大震災では、未曽有の大災害により「プレハブの仮設住宅では数が賄えない」という事態が発生しました。そのため地元の大工や工務店による申し出により「木造仮設住宅」が6,000戸以上建設されています。

全国的にも珍しかったこの取組の成功には「もともと地元工務店のネットワークが強固だった」という背景があります。地元木材を使うことで地域活性化にも繋がり、「住宅復興とまちづくりの新しい結び付き」という点が注目されました。

木造仮設住宅では内装にも無垢材が使用され、プレハブよりも温かみのある雰囲気となっています。実際に入居者からは「住み心地が良い」「木の香りがする」とおおむね好評の声が聞かれました。

③移動式(コンテナ)

移動式のコンテナ型は、シンプルで合理的な形状となっています。気密性・断熱性が高く、内部には浴室・トイレといった設備があるのでプライバシーも保たれます。

こちらは貨物輸送用コンテナのように移動が簡単ですぐ居住でき、利用後には移設も簡単です。工場で組み立ててから運ぶため、現場での作業を最小限に抑えられます。またコンテナ同士を連結させることで、大家族での使用も可能です。

仮設住宅の間取り

仮設住宅は一般的な住宅と違い、最小限の間取りで計画されることが多いです。プレハブ建築協会の標準プランでは、1K~3Kといったシンプルな間取りが紹介されています。

調理スペースであるキッチン(K)は独立させるものの、リビングやダイニング、寝室はひとまとめにする間取りが多くなります。

仮設住宅の価格

仮設住宅の価格は、災害救助法により「1戸あたり561万円」と定められています。もともと東日本大震災以前は238万7,000円だったのですが、「実際に掛かるコストに見合っていない」という理由から引き上げられたという経緯があります。

災害発生時の仮設住宅の家賃は「無料」です。ただし供与期間は「2年間」と決められており、その後は自治体から退去が求められます。

しかし熊本地震の木造仮設住宅は、恒久的な住まいとして「払い下げ」が行われており、状況に応じて対応は様々です。特に高齢被災者は就労が難しいケースも多いため、公営住宅より安価な住宅としてのニーズは高いでしょう。

仮設住宅の問題点・課題

ここでは、仮設住宅の主な問題点や課題を整理しておきます。

  • 需要の見極めが困難
  • 住み心地が良くない
  • 従来の住民コミュニティが崩れる

被害範囲が広い場合、「仮設住宅の必要数」、「用地確保はどうするか」といった需要の見極めが難しくなります。実際に「仮設住宅を設置したものの、大量の空き家が発生してしまった」という事例も報告されています。

また仮設住宅では効率性や作業スピード重視のため、雨漏りや暑さ・寒さ、バリアフリーの問題が起こりがちです。さらに入居により地域コミュニティが崩れてしまうと、「孤立」、「心理的ストレス」といったトラブルに繋がってしまいます。

そのため近年では既存のコミュニティを壊さないよう、元々の地域ごとに入居場所を近くするといった配慮も行われています。

これからの仮設住宅とは|先進的事例を紹介

ここでは、仮設住宅の先進的な事例をご紹介します。

①3Dプリンター住宅

3Dプリンター住宅とは、3Dプリンターで「印刷」して建設する住宅のことを指します。強化繊維プラスチックやガラス繊維強化石膏といった素材を用い、人が住める強度・構造を実現しているのが特徴です。

海外ではスタートアップ企業を中心に開発が進んでおり、すでに分譲住宅として供用されている事例もあります。比較的安く簡単に建てられることから、災害の仮設住宅としての活用も期待されています。

「3Dプリンター住宅」について詳しくは、下記記事をご覧ください。

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②「紙」の建築|坂茂(日本)

坂茂(ばん しげる)氏は、「紙管」を用いた建築や災害支援への取組が特徴的な建築家です。2011年のニュージーランド地震で崩れたクライストチャーチ大聖堂を、「紙のカテドラル(上の写真)」として仮設建築した事例が知られています。

また直近では、ウクライナの難民支援のために「紙の間仕切りシステム」の提供を始めています。紙管でできたフレームに布を掛けてできる間仕切りで、1ユニットのサイズは2.3m x 2mです。

このシステムは東日本大震災など、多くの現場で実績があります。高さがあるためプライバシーを確保でき、他の間仕切りに比べてコスト面も優れているのが特徴です。

③「未完成」の復興住宅|アレハンドロ・アラヴェナ(チリ)

アレハンドロ・アラヴェナ氏は、2016年にプリツカー賞(建築界のノーベル賞)を受賞したチリ出身の建築家です。主に低所得者向け住宅等による、社会問題への取り組みが評価されています。

チリは日本同様に地震が多い国で、上の写真は地震で家を失った被災者に向けた住宅です。よく見ると「半分しか」完成していません。

この住宅は、半分だけでも最低限の暮らしができます。しかしあえて余白を作ることで「残りは住民自身の手で完成させてほしい(プログレッシブ・ハウジング)」という意図が込められています。

被災者は最初、誰しもが絶望しているかもしれません。しかし暮らしていくうちに「子どものために自分の部屋を作ってあげたい」、「高齢の両親に階段の上り下りをさせたくないから、1階を増築しよう」など目標が生まれます。

実際に多くの被災者は、自力で残り半分を再建したそうです。この建築は自立のきっかけであり、「生きる希望そのもの」と言えるのではないでしょうか。造形やデザインの面では単純な構造かもしれませんが、住宅本来の意義とは何なのかを考えさせられます。

まとめ|仮設住宅を復興の足掛かりに

日本では仮設住宅の期限が2年と定められているので、簡易的な建設物になることが多いです。しかし木造仮設住宅を恒久的な住まいとして活用した事例もあり、環境負荷や作業性のバランスを見つつ検討していく必要があります。またプログレッシブ・ハウジングのように「住民のその後」まで配慮することも望ましいでしょう。

またトルコ・シリア地震については、日本赤十字社UNHCR等の団体が寄付を受け付けています。詳しくは各サイトをご確認ください。