第4回:どうする?住宅の2025年法改正!「建築物省エネ法と省エネ計算その②」|毎週30日更新

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著者:紺野 透

来年の4月に控えた住宅の法改正について解説する「どうする?住宅の2025年法改正」。
第4回目の今回は省エネ法と省エネ計算その②です。

▼そのほかの連載記事はこちら
第1回:どうする?住宅の2025年法改正!「概論」
第2回:どうする?住宅の2025年法改正!「4号特例の縮小と構造計算」
第3回:どうする?住宅の2025年法改正!「建築物省エネ法と省エネ計算・その①」

省エネ等級5で一次エネ等級6?

外皮計算の実際

住宅の省エネ基準が①外皮計算(外皮平均熱貫流率UA値と冷房期平均日射取得率ηAC値)と②一次エネルギー消費量計算であることは前回解説しましたが、実際の計算について解説します。

外皮計算は外皮平均熱貫流率(UA値)は以下のような順番で計算をします。
①それぞれの部位(屋根・外壁・床・基礎・開口部など)の面積を拾う。
②それぞれの断熱部位の熱貫流率を計算(部材の厚み/材料の熱伝導率)
③部位ごとの熱損失量を計算(面積×熱貫流率)
⑤その合計を外皮面積全体で割る(総熱損失量/外皮面積の合計)

国が無償提供している外皮計算ソフト、もしくは市販のCADソフトに外皮計算機能が組み込まれているか、どちらかであることが一般的です。国のソフトには現在3種類ほどがありますが、実際は住宅性能表示評価協会からリリースされているソフトを使うケースが多いようです。

出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示

一次エネルギー消費量計算は国のWebプログラムで計算をします。あらかじめ使用する設備機器についてスペックや性能を含め、一覧表にして準備しておくことをお勧めします。

設備機器一覧表の例
出典:住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラムより
出典:住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラムより

これらの計算から得られた数値を元に省エネ基準に適合しているかどうか、更に断熱性能等級でどのレベルであるのかを確認することができます。神奈川県(6地域)に計画された高性能住宅の例を挙げた、具体的な解説はこちらよりお読みいただけます。

特別編:どうする?住宅の2025年法改正!「建築物省エネ法と省エネ計算の計算実例を紹介」

本記事は、連載「どうする?住宅の2025年法改正!」の「第四回:建築物省エネ法と省エネ計算その②」記事内の実例記事となります。まずは本編より… more

ビルドアップニュース

長期優良住宅、認定低炭素住宅、フラット35の要件とは

義務化適合基準と実際の省エネ計算の関係はおわかりいただけましたでしょうか。

さらに各種認定について解説します。認定長期優良住宅、認定低炭素住宅、フラット35S金利Aプランについて、省エネ性能で必要とされる条件はいずれも以下の通りです。

「断熱性能等級5以上、かつ一次エネルギー消費量性能等級6」

出典:国土交通省,長期優良住宅のページ,認定制度概要パンフレット(新築版)より
出典:国土交通省,➀都市の低炭素化の促進に関する法律(エコまち法)に
基づく低炭素建築物の認定基準の見直しについて
,P2
出典:住宅金融支援機構より

6地域(関東近郊)では外皮が等級5(誘導基準、0.6W/㎡k)、一次エネBEIは0.8(等級6)がその要件となります。外皮性能を高めるにはそれなりのコストがかかりますが、そのことで外皮等級5一次エネ等級6をクリアできれば、税制や金利、住宅ローン減税などでも有利な条件が適応となり、様々なメリットを享受することができます。

住宅ローン減税や補助金交付の段階的要件とは

住宅ローン減税は、年末において住宅ローンの残高の0.7%の税金の還付が13年間受けられる制度です。

住宅の性能に応じて適応されるローン残高の枠が定められていて、性能が良ければよいほど、残高の上限金額が高くなっており、より多くの還付を受けることになります。

出典:国土交通省「2023年6月版 2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅で住宅ローン控除を受けるには省エネ性能が必須となります」より

6地域の場合、以下の通りになります。
・省エネ基準住宅 → UA値0.87W/㎡k(等級4)
・ZEH水準    → UA値0.6W/㎡k(等級5、誘導基準)
・認定低炭素・長期優良住宅 →UA0.6W/㎡k(等級5以下)且つ一次エネBEI0.8(等級6)

また、年度ごとに実施される各種補助金についても同様に性能に応じた金額の差が設けられていて、2023年度の「子育てエコホーム」支援事業では「長期優良住宅」は100万円「ZEH」は80万円となっています。

出典:子育てエコホーム支援事業より

快適で省エネな住宅最新事情

最新ZEH事情とロードマップ

より質の高い高性能住宅を志向する中でのひとつの到達点でもある「ZEH」について解説します。直近の資料によると注文住宅におけるZEH普及率は33.5%で建売は4.6%という状況。


出展:SII環境共創イニシアチブ,「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2023」資料より

国としては2030年までに新築をZEHにするという目標を掲げているだけに今後の進捗が気になるところです。

ZEHなら快適か?問題

最後に、「ZEHなら快適か?問題」についてお話します。

住宅の高断熱高気密化が進む歴史の中で先人たちは結露などの問題に直面しました。高気密高断熱住宅だからと言って必ずしも快適ではないケースがあり得ることを彼らは学び、対応をしてきました。ZEHも同じで「ZEHだからと言って快適ではない家があり得る」点に注意が必要です。ZEHは住宅で使うエネルギーの収支がプラスマイナスゼロになる状態のことを言います。外皮の性能をできるだけ高め、それでも足りない分を太陽光発電でカバーするというのが、ZEHの基本的な考え方でした。

ところが、条件によっては外皮はおざなりでも太陽光発電を沢山搭載してゼロに持っていくという方法が成立します。その場合、確かにエネルギー消費は減るけれど全然快適ではない住宅になってしまう可能性がある訳です。
消費者はその点に気付くことはできません。ZEHならお得で快適と考えるのは当然です。我々が気を付けるのは、本当の意味での質の高い住宅を供給していくことにつきます。

ZEHであり、温熱環境に優れたバランスの良い優れた住宅を作っていけるのは実は、工務店・設計事務所の皆さんに他ならないと考えています。

まとめ

・住宅の省エネ計算は①外皮計算(UA値)と②一次エネルギー消費量計算
・長期優良、低炭素、フラット35金利Aともに外皮等級5、一次エネ等級6
・住宅ローン減税や補助金も住宅性能に応じたメリットへ
・ZEH率、注文戸建が33.5%、建売戸建が4.6%
・国は2030年には住宅はZEHという状態を目標とする
・ZEHイコール快適ではないこともありうる

今回は省エネ計算の詳細やZEHについて解説しました。
次回は「変わる建築確認申請」というテーマで解説していきます。