第6回 どうする?住宅の2025年法改正!「そして変わる住宅のクオリティ」|毎月20日更新

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著者:紺野 透

来年の4月に控えた住宅の法改正について解説する「どうする?住宅の2025年法改正」。最終回の今回は「そして変わる住宅のクオリティ」です。

改正をポジティブにとらえるために

大手とどこでどう違いを出していくかを考えるチャンス

これまで5回に渡り、2025年4月の建築基準法の改正に伴う様々な事柄について述べてきました。振り返って簡単にまとめてみます。

第一回 法改正の背景には建築物の省エネ推進がある
https://news.build-app.jp/housing/30203/

第二回 4号特例の縮小で木造2階建ての住宅にも構造計算(仕様規定)が必要になる
https://news.build-app.jp/housing/30625/

第三回 省エネ基準義務化により省エネ計算による適合が必要になる
https://news.build-app.jp/housing/31049/

第四回 各種認定制度やZEHレベルでは外皮等級5、一次エネ等級6が望まれる
https://news.build-app.jp/housing/31490/

第五回 住宅も確認申請時に省エネ適合判定が必要になる
https://news.build-app.jp/housing/32588/

字面だけを見ると確かに新たに「しなければならない」ことが増えることになります。ここではこのことを前向きに捉え、むしろチャンスとすることはできないかを考えてみます。

中小企業が大手や他社とどう違いを出していくか、もう一度整理してみましょう。
大手との違いをユーザーに訴求する際、よく挙げられるポイントは以下のような点ではないでしょうか。

・比較的安価ながら完全自由設計
・独自のデザイン(外観・インテリア)
・地域を知り、その地域における最適化された建物
・伝統的な工法や材料を活かしつつ、最新の技術を取り入れた建築
・親身なアフターメンテナンス

このような差別化のポイントは、ベースとしてはもちろん大事なことですが、今更感が否めずこれらを愚直に実施することだけで安定して契約が取れるかというと話は別です。ニーズは多様化していますし、ユーザーのリテラシーも上がっています。取り巻く環境は常に変わっていてハードルは思っている以上に高くなっています。

そこで、今現在の取り組みに「しなければならない」今回の法改正をうまく組み合わせて、ニーズに対応していくという考え方にシフトしてみましょう。

きめ細かい対応で勝負するのはこれまでも、これからも

先ほど述べた差別化のポイントとともに筆者が考える中小企業の強みは2つあります。

①親身になってお客様に寄り添うことができ、要望に寄り添った住宅づくりができる
②家づくりにあたっての様々な不安を取り除き、安心で快適な住まいを提供できる

この2つも字面にするとありきたりですが、どれだけ親身になれるか、どれだけ安心してもらえるかの「量と質」でみなさんはこれまで頑張ってこられたのではないでしょうか。きめ細かさ、対応の誠実さはある程度その会社、その人の業務への理解度や情熱に依存します。
つまり、どれだけ業務を理解していてやる気があるかにかかっている訳です。この部分こそ、大手に負けないと言えるところだと考えます。大きな会社ほど、セクションや個人レベルになると理解度や情熱にバラつきがあるのは否めないでしょう。

今回の法改正を自身(自社)の業務の大事な一部と捉え、理解を深めて自信になれば、これからも情熱をもって他に負けない熱量で取り組んでいけるのではないでしょうか。

構造と省エネを中小の武器にする

ユーザーのニーズにもう一度耳を傾ける、目を懲らす

では法改正を強みに加えていく具体的な方法を考えるにあたって、一度立ち止まって最近のユーザーの声を探ってみたいと思います。家づくりについてのアンケート結果をいくつかご紹介します。

家づくりにあたっての重視項目は?

まずは家づくりにあたっての重視項目について見ていきましょう。

出典:出典:PRタイムズ,「注文住宅を建てた500人に、満足できるマイホームの鍵を徹底調査!」,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000266.000033058.html

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)リクルート調べ,https://suumo-research.com/

最近のアンケートでは重視項目として、価格、間取り、立地と並んで「耐震」と「省エネ性」が上位にあることがわかります。

税制や補助金といったファイナンス

次に、税制や補助金といったファイナンスの部分においてもユーザーはきちんと情報収集を行っており、作り手と相談できて、しっかり活用できたことがよかったという結果。

出典:『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)リクルート調べ,https://suumo-research.com/
出典:PRタイムズ,「注文住宅を建てた500人に、満足できるマイホームの鍵を徹底調査!」,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000266.000033058.html

以上のことから、最近の戸建検討者のニーズの傾向としてひとつの側面が見えてきます。


「間取りや立地も大事だけれど、耐震・断熱についても同じくらい大事にしたい。また、税金や補助金についても最大限活用できるようしっかり相談して家づくりができたらうれしい。」

そして、この「耐震」と「断熱」はまさに今回の法改正のポイントの部分に他なりません。

負担ではなく、付加価値の創造~そして変わる住宅のクオリティ

ここで大事なのは「競争しないこと」です。「耐震」と「断熱」が大事となれば、耐震等級3・断熱等級7と限りなく最上位に目が向いてしまいますが、ポイントはそこではありません。
もちろん戦略としてきちんと組み込んで形にしていけるのなら良いのですが、それにはコストもマンパワーも時間もかかることで、簡単なことではないです。
大事なのは自社のコンセプトにあった最適解を探すことです。

構造も省エネも専門的なスキルを必要とします。自社の状況次第では割り切って外注に任せ、本来の設計業務に集中するという選択肢もあってよいと考えます。外注であれ、内製であれ、鍵になるのはやはりDXであると考えます。

BIMは設計、積算、発注、施工、現場管理など全ての工程の合理化により時間の短縮ができるだけでなく、構造や省エネ計算までできるものが出てきています。また、ラフ設計の段階から比較検討スタディが容易にできたり、それらをユーザーと共有できることでイメージや仕上がりの齟齬が減ったり、建物の維持管理もシステマティックにできることから、建物そのもののクオリティが上がるなど様々なメリットが注目されています。

耐震や断熱についての比較検討も容易にできることから、自社の事情にあった耐震性能や省エネ性能を検討するのにも大いに役立ち、それはまさにユーザーへ提供し得る自社の最適解(且つ付加価値)を探るのにうってつけです。
反面、導入にかかるコスト(住宅ではペイしない)やモチベーション、現在業務との兼ね合いなどのデメリットについても指摘があり、今後の課題とされていますが、近いうちに機能がシンプルでより適正な価格の言わば「BIM住宅専門版」のようなものが出てくると予想しています。

2026年からは確認申請をBIMデータで運用することが始まるなど、国としても建築業界の課題解決のひとつの柱として捉えており、BIMが今後ますますスタンダードになっていくことは間違いありません。

出典:国土交通省,2026年春、建築確認におけるBIM図面審査を開始!,https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001757621.pdf

デジタル技術も含め、構造計算や省エネ計算を負担と考えるのではなく、我々がこれまで取り組んできた「自由設計」や「親身になること」のようにこれらを捉えていきたいものです。

そしてそのような取り組みの積み重ねがあなた(貴社)のオリジナルの付加価値や強みとなっていくものと考えています。

まとめ

・法改正を業務改善の契機とポジティブに考えたい
・自身(自社)の強みを再度洗い出し、それに構造と断熱を加える
・ユーザーも「構造」と「断熱」を重視していることを再認識する
・コストやマンパワーのバランスを考慮するなら外注もあり
・BIMを視野に入れたDX利用の可能性を検討したい

2025年4月の改正を変革の良い機会と捉えて取り組んでいただくことを願って、この連載を終了とさせていただきます。ありがとうございました。

参考資料

・LIFULL HOME’S アンケート
リクルートSUUMOリサーチ,『住宅購入・建築検討者』調査(2023年)報告書
国土交通省 BIM推進会議ホームページより