IPDとは|BIM用語集
IPDとは、インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリーの略で、建築プロジェクトを行う業務形態の1つです。
今回は、IPDの定義からメリットやデメリットを解説します。
目次
IPDとは
IPDとは、建築プロジェクトに関わる発注者、施工者、設計者などがプロジェクトの初期から手を合わせ、有効な意思決定を実現する業務形態です。
IPDは、米国の建築業界から生まれた新たなビジネスモデルであり、日本ではまだ浸透していません。
IPDのメリット
まずIPDのメリットについてです。
IPDのメリットは、設計のフロントローディングが可能になることです。従来は、施工しながら設計図を見直すやり方だったため、新たなコストがかかったり作業スケジュールが変更されたりしていました。
しかし、IPDでは設計段階で何度も検証やシミュレーションを行うことで、作業を前倒しで進めることができます。そのため、施工段階での負担が軽くなります。フロントローディングによって変更コストを大幅に削減できるだけでなく、生産効率も向上させられるのです。
日本におけるIPDのデメリット
日本でIPDを導入するにあたって、多くのデメリットが存在します。ここでは、8つのデメリットを紹介します。
コンティンジェンシーが表面化されないこと
コンティンジェンシーとは、米国において、建築事業をする上での予備費と認識され、発注者予算に組み込まれます。予想されるリスクを金額換算し、発注者が管理対象として認識する形になっています。しかし日本では、受注者がリスクを引き受け、発注者リスクが見えない状態になっています。
IPDでは、利害関係者が協力してリスクを管理し、フロントローディングなどの利益を得ることができます。日本のコンティンジェンシーが認識されない文化では、IPDのメリットを受け取ることは難しいでしょう。
日本版COBieがない
COBieとは、BIMの情報を保全マネジメントシステムに引き継ぐデータ仕様の国際標準のことです。COBieに加えて、OmniClassやUniClassなどのコード体系をあわせて用いることで、効率的なデータ連携が証明されています。米国などでは、自国でコードを構築して利用することで、フロントローディングなどのメリットを受け取ろうとしています。
しかし、日本では米国のようなCOBieがないため、IPDを推進する足かせになっているのです。
基本設計のマイルストーンがない
IPDを機能させるためにはガイドラインの整備が必要なのですが、日本ではまったく整備されていません。
米国や欧州では、段階ごとに整備されたガイドラインがあるため、IPDがうまく機能しています。
日本でIPDを推進させたいなら、米国のようなガイドラインの整備が必要です。
明瞭な積算基準がない
現在の概算手法は共通の積算基準がなく、個人の裁量でコストが大きく変動しています。共通の積載基準がないため、建築オーナーへの説明責任も果たせていません。IPD実行には、リスク要因となる要素をコンティンジェンシーとして明記した内訳書が必要となります。
しかし、現在の内訳書では明記されていません。個人の裁量がコストに影響する現在の日本では、IPD実行は難しいでしょう。
クライアントのFMの視点
クライアント目線に立ってFM(ファシリティマネジメント)を最適化するには、建物や設備の情報がはっきりビル運用者に伝わることが重要です。
しかし、現状はビル運用者が初期段階からプロジェクトに関わることはほとんどありません。設計終了後も十分な引継ぎがされないまま、FMが始まってしまう場合が多くなっています。
FM業務は「戦略・計画」「プロジェクト管理」「運営維持」「評価」「統括マネジメント」に大別できますが、各業務で部署や関係者が異なるのが現実です。また、クライアントはそれぞれを異なる組織にアウトソーシングしているケースも多いため、情報伝達が難しくなっています。
確認申請のあり方の見直し
建築確認はプロジェクトを中断させる原因になります。現在の、紙文書を電子化させ申請するやり方は二重作業となり、無駄なコストです。
建築確認を含めたIPDを実行するためには、当事者間における共通データ環境(CDE)を構築する必要があります。さらに、データを当事者間で交換し、その証明をデジタルデータでしなければなりません。この交換の証明をするために、ブロックチェーン技術が期待されています。
確認申請はまだIPDに組み込まれておらず、技術の発達が期待されます。
IPDを牽引するインセンティブの重要性
外的要因がインセンティブとなり、IPD導入につながることがあります。要因には、新しい価値や利益を生む仕組みなどを示すことがあげられます。IPDによってFMや資産管理などが効率化し、資産価値の向上を期待させる説明も必要です。
日本ではインセンティブの重要性が軽く見られているため、IPD導入が進まないともいえるでしょう。
民間の提携・国の指針が必須
IPDのためにはBIMが必須です。しかし、日本だけでなく多くの国は、米国のような業界構造ができていません。欧州では国が指針を定め、民間が提携して、IPD実現のために行動しています。
日本では民間企業が手を合わせ、議論の土台を作り、国に提言することが求められます。
まとめ
IPDとは、建築プロジェクトに関わる発注者、施工者、設計者などがプロジェクトの初期から手を合わせ、有効な意思決定を実現する業務形態のことです。IPDはフロントローディングが可能になり、コスト削減のメリットがあります。
一方、日本で導入する場合、8つのデメリットがあります。特にコンティンジェンシーの表面化はIPDに関わらず、建築の透明化を図るためにも、取り組まなければならないことです。