耐火建築物の最新基準と設計・施工のポイント|ビル・共同住宅・福祉施設を手がける事業者向けガイド

耐火建築物は、火災発生時に倒壊せず、延焼を防ぐ構造を持ち、公共施設や多くの人が集まる場所ではその安全性が特に重要視されています。近年、耐火建築物に関する規定は強化され、木材を使用した耐火建築物の技術的進展もあり、設計の自由度が向上しています。
本記事では、耐火建築物の設計・施工におけるポイントと、事業者が押さえておくべきコスト管理に関する重要事項をまとめました。
目次
耐火建築物とは何か―法律と定義

耐火建築物は、火災発生時に倒壊したり延焼したりしない構造を持つ建物で、特に公共性の高い施設や多くの人々が集まる場所で求められる安全基準です。都市部では火災による延焼を防ぐため、耐火建築物に関する規定が強化され、より詳細な基準が設けられています。
法的定義と制度の枠組み
耐火建築物の定義は、「建築基準法」に基づいており、以下のポイントが重要だといえます。
- 耐火建築物の定義:建築基準法第28条では、耐火建築物を「火災に耐えうる構造を持つ建物」としている
- 主要構造部の耐火性能:耐火建築物には、主要構造部(壁、柱、床、梁、屋根、階段など)が火災に耐える性能を持つ必要がある
- 使用される素材:鉄筋コンクリート、耐火レンガ、耐火鋼などの素材を使用することが求められる
- 確認申請:設計段階で耐火基準を遵守し、確認申請を行うことが義務付けられている
耐火構造・準耐火構造・防火構造の違い
耐火建築物に関連する用語には、以下のように「耐火構造」「準耐火構造」「防火構造」があります。
| 構造の種類 | 特徴 | 耐火時間 | 使用例 |
| 耐火構造 | 火災発生から終了まで建物が倒壊せず、延焼しないことが求められます。 | 通常3時間以上 | 公共施設、高層ビルなど |
| 準耐火構造 | 火災発生から一定時間(30分〜1時間)延焼を抑える構造です。 | 30分〜1時間程度 | 住宅、小規模な商業施設 |
| 防火構造 | 主に外壁や軒裏など、延焼リスクの高い部分に防火措置を施します。 | 耐火構造ほどの時間は必要なし | 地域区分や建物の用途に応じて適用される |
近年の制度改正および技術的変化と事業者が押さえておくべきポイント
2024年および2025年に施行された建築基準法の改正は、耐火建築物に大きな影響を与えました。改正によって、木造を含む多様な建材や構造が、耐火基準を満たしつつ、現実的な選択肢として採用できるようになっています。
2024年改正:木造建築の耐火規定が緩和
2024年の改正により、大規模木造建築でも耐火性能を備えた建物が可能になりました。これまでは鉄筋コンクリートや鉄骨が主流でしたが、木材を使用した建築物でも、耐火性能が確保できる技術が導入されたため、木造の耐火建築物が現実の選択肢となっています。
特に、木材をそのまま見せる「あらわし(素地仕上げ)」を利用した設計が許可されるようになり、デザインの自由度も向上しています。
2025年改正:構造計算義務と木材利用促進
2025年に施行された改正では、木造建築の耐火性能を確保するため、構造計算義務がより厳格化されました。また、木材を使用した建築物の耐火・防火規定も見直され、木造建築に対する規制が柔軟になっています。木材を使用した中層建築や大規模建築が法的に可能となり、より多様な素材の使用が認められるようになったといえます。
建築業界においても、脱炭素社会の実現や木材利用促進があり、環境への配慮が強調されています。そのため、事業者は木材を使った建築設計を進めることが可能になり、コスト削減やデザイン性の向上を実現できるようになりました。
また、省エネ性能の適合義務が強化されたことによって、より効率的で環境に優しい建築物の設計が求められているといえるでしょう。
事業者目線で考えたい。設計・施工・コストの検討軸とは
耐火建築物を設計・施工する際、事業者は多くのポイントに留意する必要があります。耐火基準を満たすためには、設計段階から施工までの細かな調整が不可欠です。特に、耐火・防火性能を確保するためには以下の要素に注意を払い、適切な対応を行うことが求められます。
また、コスト面の管理も重要な検討項目です。耐火建築物の設計には、初期費用の増加や維持管理費用が発生するため、長期的な視点でコストを最適化することも事業者の責務です。ここでは、耐火建築物の施工におけるポイントについてみていきましょう。
設計・施工のポイント
耐火建築物を設計・施工する際は、火災時の安全性を確保するために、法律に基づいた基準を遵守し、細部にわたる調整が求められます。耐火基準を満たす材料や構造を選定し、地域特有の規制にも対応することが不可欠です。
また、コスト管理も重要な要素であり、初期投資を抑えつつ、耐火性能を十分に確保するための設計が求められます。以下では、設計・施工における具体的なポイントを紹介します。
- 耐火基準の選定
耐火建築物の設計では、建築基準法に基づいた耐火性能基準を遵守することが最優先である。設計段階で使用する材料や構造が耐火基準を満たしているかを確認しなければならない。特に木材を使用する場合は、耐火被覆や耐火木材を適用し、木材の可燃性を抑えながら十分な耐火性能を確保する必要がある - 構造部の耐火設計
壁や柱、梁、床、屋根などの主要構造部には、火災時の延焼を防ぐために耐火性能を有する材料を使用する。鉄筋コンクリートや耐火レンガ、耐火鋼などの材料は、火災時に耐える能力が高く、建物全体の耐火性を大幅に向上させる。設計段階では、材料を適切に選定し、火災時の危険を最小限に抑える - 防火設備の設置
火災の初期段階で延焼を抑制するためには、防火扉や防火窓などの防火設備を適切に設置することが不可欠。主に建物の開口部(窓や扉)に設置され、火災が発生した場合に建物内での延焼を防ぐ役割を果たす。防火設備には耐火性能だけでなく、密閉性や耐熱性も要求される - 地域規制の確認
耐火建築物の設計においては、地域特有の規制を守ることが求められる。防火地域や準防火地域では、地域の耐火基準が適用され、特に耐火性能が重視されるため、合わせた設計が必要である。都市部では、建物同士が密接しており、延焼リスクを減らすための設計が求められる
コスト面の検討ポイント
耐火建築物は、通常の建築物に比べて高いコストがかかりますが、適切に管理すればコスト最適化が可能です。
- 材料費の増加
耐火性能の高い材料(耐火レンガ、鉄筋コンクリートなど)は一般的に高価であり、初期投資が増加する。予算調整が必要。たとえば、鉄筋コンクリートは耐火性能が非常に高いが、その分材料費が増加し、初期投資が大きくなる。耐火木材も新技術を用いた場合、従来の木材に比べて高額である。 - 施工コストの管理
専門技術を要するため施工費用が増加するが、施工チームや外部業者と調整を行い、コストを管理することが重要。施工段階での品質管理を強化し、後の修正や追加作業を防ぐことが、最終的にコストを抑えるポイント - 維持管理費用
定期的な点検やメンテナンスが必要。維持管理費用を長期的に予測し、予算に組み込んでおくことで、突発的な出費を避け、計画的な管理を行うことができる - 火災保険料の割引
耐火建物は火災リスクが低いため、火災保険料が割安になることがあり、長期的なコスト削減が可能である。保険見積もりを事前に依頼し、どの程度の割引が適用されるかを把握しておくことが重要 - 税制優遇措置
耐火建築物に対しては、固定資産税の減額や建設補助金などの税制上の優遇措置を活用できる場合があり、初期投資や維持管理費用を抑制することができる。事前に地方自治体の補助制度を確認しておく
まとめ
耐火建築物の設計・施工には、法律に基づく耐火基準の遵守と、材料選定、構造設計、設備設置の適切な対応が求められます。また、コスト面では初期投資や維持管理費用を適切に予測し、長期的なコスト最適化を図ることが事業者の責務です。最新の制度改正を踏まえた柔軟な設計と、環境への配慮も重要な要素です。