海外、日本におけるContech(建設業界特化型スタートアップ)群のトレンドに関する独自調査

2025年、Contech(Construction Technology、建設業界特化型スタートアップ)群の生態系が急速に拡大している。ドローンによる測量、AIを活用した施工管理、3Dプリンティング技術を駆使した建設──これらの革新的な技術を武器に、世界各地でContechが台頭している。従来の建設業界の課題を解決し、新たな価値を創造する彼らの動向は、業界全体の未来を占う重要な指標となっている。
Cemex Venturesの予測によれば、グローバル建設市場は2025年に700億ドル(10兆8500億円)規模、2035年までに300億ドル(4兆6500億円)超へと年平均成長率16.9%で急成長する。この成長を牽引しているのが、気候変動への対応、労働力不足の解決、都市化の加速への対処といった課題解決に特化したContech群だ。
Contechの特徴は、地域ごとに異なる戦略を取っていることにある。グローバル市場ではサステナビリティと自動化を重視する企業が多い一方、日本では「2025年問題」──労働力90万人不足──を背景にDX志向の企業が成長している。
この地域差は、単なる市場環境の違いを超えて、建設業界が抱える課題の多様性と、それに対するソリューションアプローチの豊富さを示している。西欧では環境負荷の最小化、北米では生産性向上、アジアでは労働力不足の解決──それぞれの地域特性に応じたイノベーションが生まれている。
※本記事では1ドル155円で換算
目次
グローバル市場:サステナビリティと自動化に特化したContech群
グローバルなContechは、環境負荷削減と作業効率化という二つの軸で成長している。注目すべきは、これらのContechが単なる効率化ツールを超えて、建設業界の構造的課題を解決するプラットフォームを構築していることだ。プレファブ/モジュラー建設による廃棄物30%削減、IoTによるスマートシティ構築──これらの取り組みは、従来の建設業界が抱えていた環境負荷の問題に正面から挑んでいる。
2024年から15%増となったAIとロボット分野への投資は、Cemex Ventures Top 50(2025)リストにも反映されている。投資家たちが注目しているのは、もはや単純な作業効率化ではなく、建設プロセス全体を再設計する可能性を持つContechたちだ。
PlanGrid(米国)
PlanGridは、2011年創業、1.2億ドル(186億円)の資金調達を経て、2018年にAutodeskが8.75億ドル(1356億2500万円)で買収した。モバイルクラウドでブループリントやRFIを管理し、1億枚以上のデジタルリポジトリを構築。AIでシート不一致を検出し、PDFデータ抽出を自動化する。商業・土木プロジェクトを顧客とし、生産性向上に寄与。現在はAutodesk Buildに統合され、Procoreと競いながら現場のペーパーレス化を加速している。
PermitFlow(米国)
PermitFlowは、2022年創業、Y Combinatorから3100万ドル(48億500万円)の資金調達を獲得。許可申請ワークフローをAIで最適化し、地方自治体のコードを統合することで、申請時間を数ヶ月から数週間に短縮する。リアルタイム追跡が特徴で、建築家や開発者に支持される。Cemex Top 50 2025選出により、プロジェクト初期のボトルネックを解消している。
Vergo AI(米国)
Vergo AIは、2022年創業で1500万ドル(23億2500万円)の資金調達を実施。AI経費管理プラットフォームで、建設支出をリアルタイム追跡・承認する。請求書分析と予算超過アラートが強み。中小建設会社に支持され、コスト透明性を高める。その影響は、財務効率化とデータの民主化にある。
UpCodes(米国)
UpCodesは、2017年創業、Y Combinatorから1000万ドル(15億5000万円)の資金調達を獲得。AIで建築コードを解析し、1400以上の州・市コードをホストする。自然言語処理でコンプライアンスを高速化し、建築家や設計者に支持される。Cemex Top 50 2025入りにより、規制プロセスの短縮で設計の自由度を広げている。
Cove.Tool(米国)
Cove.Toolは、2017年創業で3000万ドル(46億5000万円)の資金調達を実施。AIでエネルギー効率をシミュレーションし、コストと環境影響を最小化する。2025年の精度向上により、グリーン建築のフロントランナーとなる。持続可能性を重視するプロジェクトを顧客とし、サステナビリティの潮流を牽引している。
Fieldwire(米国)
Fieldwireは、2013年創業、3500万ドル(54億2500万円)の資金調達を経てHiltiに買収された。モバイル現場管理アプリで、タスク割り当てや写真共有を簡素化。AIワークロード予測とIoT連携が特徴で、現場クルーに支持される学習曲線の低さを誇る。リアルタイム更新により、土木現場のコミュニケーションを革命的に変えている。
HOVER(米国)
HOVER(米国)は、2011年創業で6000万ドル(93億円)の資金調達を実施。スマートフォンで3Dモデルを作成し、測量・デザインを高速化する。保険やリフォーム分野で活用され、調査時間を半減させる。現場調査チームを顧客とし、ビジュアルデータの民主化を推進している。
Genia(米国)
Geniaは、2022年創業で800万ドル(12億4000万円)の資金調達を獲得。AI構造工学プラットフォームで、PDF/CADから最適設計を提案し、効率を10倍向上させる。エンジニア向けで設計ミスを低減し、土木・建築の設計プロセスの未来を切り開いている。
CivilGrid(米国)
CivilGridは、2023年創業で500万ドル(7億7500万円)の資金調達を実施。地盤・インフラデータをマッピングし、設計ミスを防止する。土木計画者に支持され、データ可視化を強化することでプロジェクトの初期段階をスマート化している。
Icon(米国)
Iconは、3Dプリンティング技術による建設革新のパイオニアとして注目されている。2018年創業で4.5億ドル(697億5000万円)の資金調達を獲得した同社は、大型3Dプリンター「Vulcan」を開発し、コンクリート住宅を24時間で建設する技術を実現した。従来数ヶ月を要していた住宅建設プロセスを劇的に短縮することで、災害地域での緊急住宅供給や低コスト住宅の大量生産を可能にしている。同社の技術は宇宙開発分野での基地建設にも応用が期待されており、建設業界の時間概念を根本から変える可能性を秘めている。
LUYTEN(オーストラリア)
LUYTENは、2019年創業で1000万ドル(15億5000万円)の資金調達を実施。モバイル3Dプリンター「PLATYPUS」で、輪郭クラフト技術を活用する。持続可能建材で土木構造物を迅速構築し、Cemex Top 50 2025選出によりコスト削減と環境負荷低減を実現している。
Mesh(スイス)
Meshは、2020年創業で1200万ドル(18億6000万円)の資金調達を実施。鉄筋組立ロボットで型枠を統合し、建築現場の自動化を加速させて労働力不足を解消する。建築現場を顧客とし、効率化のフロントランナーとして活動している。
Kelvin6k(インド)
Kelvin6kは、2021年創業で800万ドル(12億4000万円)の資金調達を獲得。SCARAロボット3Dプリンターで、基礎・左官作業を自動化する。土木・建築の労働不足を解決し、データデジタル化を推進するグローバル南部のゲームチェンジャーだ。
Built Robotics(米国)
Built Roboticsは、建設現場の自動化分野で先駆的な存在として成長している。2016年創業、Y Combinatorから6400万ドル(99億2000万円)の資金調達を獲得した同社は、AI制御による自動重機の開発・運用を手がけている。無人での掘削作業により事故率の大幅削減と作業効率の向上を実現しており、労働力不足に悩む建設業界にとって重要なソリューションを提供している。同社の技術は、建設労働の安全性向上と人手不足解決の両面で業界に大きなインパクトを与えている。ただし、建設労働者の雇用への影響や技術導入に伴う課題についても業界内で議論が続いている。
Skycatch(米国)
Skycatchは、2013年創業で4000万ドル(62億円)の資金調達を実施。ドローンで3Dマッピングと検査を行い、AIデータ分析で土木・建築現場の安全性を強化する。現場管理者を顧客とし、データ駆動の監視を標準化している。
Blokable(米国)
Blokableは、2017年創業で2300万ドル(35億6500万円)の資金調達を実施。プレハブモジュール生産ラインでオフサイト建設を効率化し、工期を50%短縮する。モジュール住宅や土木インフラにスケーラビリティを提供している。
Modulous(英国)
Modulousは、2018年創業で1500万ドル(23億2500万円)の資金調達を実施。モジュラー建築システムで工場部品の現場組立を簡素化し、設計支援により土木インフラの効率化を推進する。持続可能性とスピードを両立している。
PaceRobotics(インド)
PaceRoboticsは、2020年創業で1000万ドル(15億5000万円)の資金調達を獲得。多機能ロボットで壁塗りや基礎作業を自動化し、2025年に日本進出、データデジタル化を推進する。労働力不足の救世主として注目されている。
日本市場:2025年問題に対応するDX特化型スタートアップの成長
日本の建設業界は、深刻な労働力不足という構造的課題に直面している。労働力90万人不足、労務費6%上昇、市場規模32.44兆円という状況下で、日本建設業連合会の試算ではコストが25-28%上昇すると予測されている。この「2025年問題」を背景に、国土交通省のi-Construction推進政策とも連動して、DXブームの波に乗ったContechが急成長している。
日本のContechの特徴は、欧米企業が目指す「破壊的イノベーション」とは異なる「調和的最適化」のアプローチを取っていることだ。既存の建設プロセスや現場文化を尊重しながら、デジタル技術によって効率化を図る戦略、IT化路線が主流となっている。これは、DXとは一線を画した路線だが、日本特有の現場重視の文化を反映した独自の進化と言えなくもない。
ANDPAD(東京)
ANDPADは、日本の建設業界向けSaaSプラットフォームのトップランナーとして急成長している。2016年創業で200億円超のシリーズD資金調達を実施した同社の施工管理アプリは、見積もり、スケジュール、予算、人材管理を統合したプラットフォームを提供している。15万社という導入実績は、ペーパーレス化により8割の効率向上を実現していることを示している。2025年にはAI進捗予測機能と人材紹介サービスを強化予定で、建設業界シェアNo.1の地位を確固たるものにしている。同社の成功は、日本の建設現場における属人化解消とコミュニケーション効率化のニーズの高さを表している。
Photoruction(東京)
Photoructionは、2016年創業で57億円の資金調達を実施。現場写真・図面管理クラウドで自動整理とBPO連携を提供する。リアルタイム視覚化により属人化を根絶し、建設現場を顧客として2025年おすすめContech15選に選出された。データ駆動の現場管理を標準化している。
Dverse(東京)
Dverseは、2014年創業で10億円の資金調達を実施。VRソフトウェア「Symmetry」で3D CADをVR変換し、HTC Vive/Oculus対応により建築デザインをシミュレーションする。建築家を顧客とし、視覚化で設計の精度を向上させている。
PRODOUGU(東京)
PRODOUGUは、2018年創業で10億円の資金調達を実施。施工管理アプリでスケジュール・品質をモバイル化し、ZEB(ゼロエネルギー建築)対応が強み。現場管理者を顧客とし、デジタル・トランスフォーメーションを現場に浸透させている。
Terra Drone(東京)
Terra Droneは、ドローン技術による建設・インフラ点検分野のグローバルリーダーとして成長している。2016年創業で150億円の資金調達を実施した同社は、ドローンによる3Dマッピングと点検サービスに加え、AI分析機能を組み合わせたソリューションを提供している。2025年に投入予定の室内検査ドローン「Terra Xross 1」は、従来困難だった建設現場内部の詳細な検査を可能にする。同社は世界No.1ドローンサービスプロバイダーを目指しており、インフラ監視分野での安全性と効率性の向上に貢献している。建設現場のあらゆる角度からのデータ収集と分析により、予防保全型の現場管理を実現している。
SkyDrive(東京)
SkyDriveは、eVTOL(電動垂直離着陸機)技術による建設ロジスティクス革新を目指している。2018年創業で200億円の資金調達を実施した同社は、空飛ぶ車の技術を建設現場での資材運搬や人員輸送に応用している。特に高層建築現場や山間部での建設プロジェクトにおいて、従来のクレーンや地上輸送では困難だった作業の効率化を実現している。都市部の建設現場における空中輸送の実用化により、建設プロジェクトの空間的制約を大幅に軽減する可能性を秘めている。
SORABITO(東京)
SORABITOは、2014年創業で30億円の資金調達を実施。建設機械のオンライン賃貸プラットフォームでIoTセキュリティを統合し、実機管理を強化する。土木機械ユーザーを顧客とし、効率利用を促進している。
建設業界特化型スタートアップが示す4つのトレンド
世界と日本のContech群を分析すると、4つの主要なトレンドが浮かび上がってくる。これらは、建設業界がデジタル技術によってどのように変革されているかを示している。
第一のトレンド:建設プロセスの時間短縮
Iconの24時間住宅建設をはじめ、AIによる設計最適化、ロボットによる自動施工、3Dプリンティング技術の活用により、従来の建設時間軸が大幅に短縮されている。これは建設を長期プロジェクトから短期イベントへと変化させており、災害復興や緊急住宅供給などの分野で特に重要な意味を持っている。
第二のトレンド:労働形態の知識集約化
Built Roboticsの無人重機やMeshの鉄筋組立ロボットに代表されるように、建設現場から肉体労働が減少し、ドローン操縦士、3Dプリンター技術者、AI保全エンジニアなどの知識労働が増加している。これは建設業界の人材要件を根本的に変えており、教育・訓練体系の見直しも必要となっている。
第三のトレンド:設計・施工の民主化
HOVERのスマートフォン3Dモデリング技術などにより、専門的な建築知識を持たない人々でも設計・施工プロセスに参加できるようになっている。これは建設プロジェクトの多様性を増大させると同時に、建築専門職の役割の再定義を促している。
第四のトレンド:持続可能性の統合
Cove.ToolのAIエネルギー分析やLUYTENの持続可能建材の活用により、環境負荷の最小化が建設プロセスの中核的考慮事項となっている。これまでの「作る」行為中心から「保護する」行為を統合した建設へのパラダイムシフトが進行している。
Contech革命に潜む技術的楽観主義リスク
世界的なContech革命には、技術的楽観主義のリスクがある。今のところ、技術の進歩と制度的現実の間には深刻な乖離が明確に存在する。AIが完璧な施工計画を立案しても、行政手続きが数ヶ月を要するなら、その効果は相殺される。
サイバーセキュリティの脅威も無視できない。建設現場がIoTとクラウドに依存するほど、ハッキングや仕込み攻撃の標的となるリスクが高まる。建設中のビルのセンサーネットワークが乗っ取られ、構造データが改ざんされたらどうなるか。物理的インフラがサイバー攻撃の対象となる時代に、私たちは十分に準備できているだろうか。
さらに、技術格差の問題もある。Contechの最新ノウハウを導入できる大手企業と、従来の手法に依存する中小企業の間で、生産性と競争力の格差が拡大している。これは建設業界の寡占化を促進し、地域の建設文化や職人技術の消失を招く可能性がある。
それでも、変革の方向性は明確だ。建設は「作業」から「生成」へ、「労働集約」から「知識集約」へ、「破壊的創造」から「再生的創造」へと転換している。この変化は可逆的ではない。問題は、私たちがこの変化にどう適応し、どう方向づけるかだ。
2025年のContech革命は、単なる産業の効率化を超えて、人間が物理世界を構築する新たな方法論を提示している。それは技術的可能性と社会的制約、経済的論理と環境的要請、グローバルな標準化とローカルな文化の間での複雑な交渉過程だ。
次の現場は、君の足元でどう変わるだろうか?その答えは、テクノロジーではなく、私たち自身の選択にかかっている。