大成建設、トンネル変位を無線で自動測定する新システムを開発、省力化と高精度化を両立

大成建設株式会社(社長:相川善郎)は2025年10月15日、マック株式会社(社長:宮原宏史)と共同で、多数のレーザー距離計を無線制御し、トンネルの内空変位を高精度かつ省力的に自動計測できるシステム「T-レーザートンネルウォッチ」を開発しました。このシステムは、複数のレーザー距離計を無線で操作することで、従来よりも正確かつ効率的にトンネルの変形を測ることができます。

併設トンネル工事での課題

既存のトンネルのすぐ隣に新しいトンネルを作る工事では、掘削作業が既存トンネルに悪影響を及ぼさないよう、常に変形の状態を確認しながら慎重に作業を進めなければなりません。

これまでは、トータルステーションという測量機器を使って、作業員が現地で測定を行っていました。しかし、この方法にはいくつかの問題点がありました。

従来の測定方法が抱えていた問題

・トンネルがカーブしている場所では測定できる範囲が狭くなる

・障害物や通行する車両によって測定が妨げられる

・機器の設置や移動に多くの人手が必要

・測定データをすぐに確認することが難しい

・時間の経過に伴う変化を継続的に把握しにくい

新システムの開発背景

こうした課題を解決するため、大成建設とマックは生産プロセスのデジタル化の取り組みの一環として、新たな測定システムの開発に着手しました。本システムは、トンネル内空変位を高精度に自動計測できるとともに、軽量で設置・盛り替えが容易で、省力化が可能なモニタリングシステムとして開発されました。

実際の工事現場での検証も実施されています。首都圏中央連絡自動車道の横浜環状南線桂台トンネル工事(神奈川県横浜市、発注者:東日本高速道路株式会社関東支社)において、このシステムを導入しました。この現場では上下線のトンネルが最も近い部分で380mmしか離れていないという厳しい条件でしたが、システムは優れた測定精度と作業性を発揮したことが確認されました。

システムの主な特徴

T-レーザートンネルウォッチには、レーザー光が対象物に当たって反射する際の角度を自動で補正する機能が備わっています。この角度補正機能により、どの角度から測定しても正確な結果が得られるようになりました。

さらに、測定のばらつきを最小限に抑えるため、同じ箇所を複数回測定し、その結果を統計的に処理する仕組みも取り入れています。これらの工夫により、従来のトータルステーションと同じレベルの精度を確保しました。具体的には、20m離れた場所でも±1mmという高い精度で変位を測定できます。

また、トンネルの断面あたりに設置できるレーザー距離計の数に制限がないため、必要に応じて何台でも同時に使用することができます。

軽くて持ち運びやすい設計

測定機器を取り付けるための専用治具はアルミ製で、重さはわずか2kgです。この治具を使えば、ボルト1本でトンネルの壁面に簡単に固定できます。

工事の進み具合に合わせて機器を移動させる必要がありますが、軽量設計のおかげで作業員の負担が大幅に軽減されました。治具には防振ゴムも付いているため、掘削工事に伴う振動による測定誤差も抑えられます。

1台の治具に最大4台のレーザー距離計を取り付けることができ、データや制御信号は無線で送られるため、配線作業が不要になりました。これにより、設置や移動の際の作業時間が大幅に短縮されています。

リアルタイムでの監視が可能

現場の状況に応じて、測定の頻度や結果の出力間隔を細かく調整できます。様々な測定ニーズに柔軟に対応できる設計になっています。

測定中にレーザー光を遮る障害物が現れた場合、システムが自動的に異常値として判断し、その結果を除外します。これにより、信頼性の高いデータだけを取得できます。

測定結果は最短10秒でLAN経由のパソコン画面に表示され、時間の経過に伴う変化をグラフで視覚的に確認できます。このトレンドグラフにより、トンネルの変形がどのように推移しているかを一目で把握することができます。

測定値があらかじめ設定した管理値を超えた場合、システムが自動的にアラートを発信します。これにより、異常が発生した際には即座に対応することが可能です。

工事の安全性と品質の向上

このシステムを導入することで、既存トンネルへの影響をリアルタイムで把握できるようになります。その結果、より安全で高品質な施工が実現します。

また、測定機器の設置や移動が簡単になったことで、作業効率と生産性も大きく向上しました。人手不足が課題となっている建設業界において、省力化を実現できる意義は大きいといえます。

今後の展開と活用範囲

大成建設は、このシステムを併設トンネル工事だけでなく、すでに使われているトンネルの維持管理にも活用していく方針です。

老朽化したトンネルの点検や、定期的な状態確認にも本システムを適用することで、交通インフラの安全性をより高いレベルで維持できるようになります。

同社は今後も積極的にこのシステムを提案し、安全で信頼できる交通インフラの整備に貢献していくとしています。デジタル技術を活用した建設現場の革新は、社会インフラの質的向上に大きく寄与することが期待されます。

出典情報

大成建設株式会社リリース,トンネル内空変位自動計測システム「T-レーザートンネルウォッチ」を開発-多数のレーザー距離計を無線制御し、変位計測の高精度化・省力化を実現-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/251015_10670.html