竹中工務店が新技術、ガラスとアルミで耐震性確保する透明耐震壁が北広島町施設に初適用

2025年10月16日、株式会社竹中工務店(社長:佐々木正人)は、木造建築物の耐震性能を高める新技術を発表しました。この技術は「透明耐震壁」と呼ばれ、ガラスとアルミサッシを使用して地震による揺れを軽減するものです。同年4月に開設された北広島町豊平地域づくりセンターにおいて、初めての導入事例となりました。
この新しい耐震システムは、木造建築における安全性と空間デザインの両立という課題に対する解決策として注目されています。通常の耐震設備とは異なる特性を持ち、建築物の機能性と美観の向上に貢献する可能性を秘めています。
従来工法との違いと利点
木造建築では、これまで合板による壁や筋交いといった耐震部材が一般的に用いられてきました。これらの部材は確かに地震に対する抵抗力を提供しますが、視界を遮り、空間に閉塞感をもたらすという課題がありました。
新たに開発された透明耐震壁は、こうした従来の耐震部材に代わる選択肢となります。透明性を保ちながら耐震機能を果たすため、室内外の連続性を損なわず、開放的な環境を作り出すことができます。これにより、建築物の付加価値を大きく高めることが可能になりました。
建築設計における自由度の拡大
建物の構造を計算する際、固定されたガラス壁が地震力を受け持つという考え方は、これまで一般的ではありませんでした。しかし今回、地震力に対応できる固定ガラス壁として透明耐震壁が登場したことで、状況は変わりました。
この技術を採用することで、従来は必須だった耐震部材の設置箇所を減らすことができます。その結果、建築家やデザイナーは空間計画においてより多くの選択肢を持つことになり、創造的な設計が実現しやすくなります。
技術的な特徴と構成
透明耐震壁は、一般的な固定ガラス壁と同じく、ガラスとアルミサッシというシンプルな構成要素で成り立っています。使用されるガラスは、単板タイプまたは複層タイプのどちらにも対応しています。
特筆すべきは、新規に開発されたアルミサッシの性能です。このサッシは、ガラスに損傷を与えることなく高い抵抗力を発揮できるよう設計されています。地震発生時の変形を受け止めるための空間がサッシ内部に確保されており、この独自の構造により優れた耐震性能が実現されています。なお、このアルミサッシの技術は現在特許出願中です。
性能の検証と実用化への道筋
開発された技術の信頼性を確保するため、性能確認試験が実施されました。この試験では、変形に対する性能を含む耐震性能全般について検証が行われ、実用レベルに達していることが確認されました。
透明耐震壁と木造の柱や梁との接続部分には、止水シールを使った標準的な施工方法が採用されています。この仕様により、外壁としての使用にも対応できる汎用性を備えています。ただし、現時点では確認申請において評価を受けるためには建築主事との協議が必要とされており、現在は技術認証の取得手続きが進められています。
北広島町での初適用事例
北広島町豊平地域づくりセンターは、2025年4月にオープンした公民館施設です。この施設の大会議室周辺に、透明耐震壁が初めて導入されました。
施設の概要は以下の通りです。
・所在地:広島県山県郡北広島町戸谷1113
・用途:公民館
・延床面積:914.67平方メートル
・階数:地上1階
・構造:木造(在来軸組工法)
空間の質的向上の実現
大規模な空間の周囲には、通常であれば合板壁や筋交いを配置して耐震性を確保する必要があります。しかし、透明耐震壁の採用により、必要な耐震性能を維持しながら開放感を演出することに成功しました。
この結果、会議室と屋外空間との視覚的なつながりが強まり、一体感のある環境が生まれました。人々が自然に集まり、積極的に活動したくなるような魅力的な場所が実現されています。従来の耐震壁を使用した場合と比較すると、空間の印象は大きく異なり、利用者にとってより快適で刺激的な環境となっています。
今後の展望と可能性
透明耐震壁の開発は、木造建築における耐震技術の進歩を示すものです。安全性を確保しながら美しく開放的な空間を作り出すという、相反する要求を両立させる手段として、今後さまざまな建築物への応用が期待されます。
特に、公共施設や商業施設など、人が集まり交流する場所において、この技術の価値は高いと考えられます。透明性と耐震性を兼ね備えた空間は、利用者の心理的な快適さを向上させ、建物の魅力を高める要素となるでしょう。
技術認証の取得が完了し、より広範な適用が可能になれば、木造建築の設計において新たな基準が生まれる可能性があります。今回の北広島町での事例は、そうした未来に向けた重要な第一歩として位置づけられます。
出典情報
株式会社竹中工務店リリース,新築木造建築物に適用可能な耐震性能向上技術「透明耐震壁」を開発 北広島町豊平地域づくりセンターに初適用,https://www.takenaka.co.jp/news/2025/10/06/