建設DXを支えるシステムとは。―大手ゼネコンの事例と現場に普及する変革―

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建設業界は、労働人口の減少や技能継承の課題を背景に、DXの必要性が急速に高まっています。大手ゼネコンでは、設計・施工・維持管理を一体化した自社開発システムを中核に据え、生産性と安全性を両立させる仕組みづくりを進めている状況です。

また、中堅・中小建設事業者の間でも、クラウド型施工管理ツールや原価管理システムの導入が加速しています。これまで、紙や口頭で行われてきた工程管理や報告業務をデジタル化し、少人数でも複数現場を効率的に運営できる体制を整える動きも加速しているといえるでしょう。

本記事では、五大ゼネコンが展開している代表的なシステムと中小企業でも導入が進むDX関連技術を整理し、建設業界全体のデジタル化の方向性について解説します。

大手ゼネコンにおける自社開発システム

大手ゼネコンでは、一般的な建設現場のICT化・DX化にとどまらず、自社開発ないしは独自カスタマイズしたプラットフォームを用いて、設計・施工・維持管理のライフサイクルをデジタルで一貫させる取組が進んでいます。

ここでは、代表的な要素を挙げ、その内容をみていきましょう。

清水建設:建設ライフサイクルを貫く「建物OS」構想

清水建設は「Digital General Contractor」を掲げ、設計から運用までを一貫管理するプラットフォームを整備しています。自社システム「DX-Core」は、建築物ごとにBIMで作成した3Dモデルを中核とし、施工現場の進捗や資材管理、維持管理データを連携させている状況です。

現場では「Smart Site」と呼ばれるタブレット端末を用いた情報共有システムも稼働しており、図面・作業指示・安全管理をリアルタイムで連携可能です。竣工後は、建物内のセンサーから得た稼働データを同一基盤で分析し、エネルギー制御やメンテナンス予測にも活用しています。

鹿島建設:自律施工システム「A4CSEL」による自動化

鹿島建設は、施工現場の自動化を目的に開発した「A4CSEL(Autonomous Construction System for Earthwork)」を中心としたシステムを展開しています。遠隔操作室から複数の建設機械に指示を出し、掘削・運搬などの作業を自律的に進める仕組みです。

また、ドローンやLiDAR(レーザー測量)で取得した3D地形データをシステムに取り込み、作業進捗を自動的に検証する仕組みも導入しています。人の経験や勘に依存していた施工プロセスをデータドリブンで最適化する点に特徴があります。安全性の向上と人員削減を両立した代表的なDX事例といえるでしょう。

大成建設:BIM統合とデジタルツイン化の推進

大成建設は、BIMデータを基盤にした「T-BIM」シリーズを社内展開しています。設計・施工・設備管理の各段階でBIMモデルを統一し、情報の断絶を解消しました。工事中における設計変更の影響範囲を即座に把握でき、工程遅延を最小限に抑えることにつながっています。

近年は、BIMデータを活用したデジタルツイン化も進めています。建物完成後もセンサー情報をリアルタイムで反映し、稼働状況や劣化傾向をモニタリングできる体制を整えています。建設から維持管理へとデータを循環させる仕組みが確立しつつあります。

大林組:ワンモデルBIMによる情報の一元管理

大林組は「ワンモデルBIM」を掲げ、設計・施工・維持管理のすべてを単一の3Dモデルで統合しています。設計段階で作成されたモデルが、施工図や維持管理データにそのまま引き継がれるため、情報の重複入力や齟齬が発生しにくい工事フローといえるでしょう。

また、現場ではAIによる画像解析を導入し、安全管理や品質検査を自動化しています。作業員の行動履歴や重機の稼働状況を解析することで、リスクの高い動きを早期に検知できるようになっています。BIMとAIを組み合わせた安全・品質のデジタル管理体制を確立しているといえるでしょう。

竹中工務店:設計施工一貫体制を支える「Stream BIM」

竹中工務店は、クラウド型BIMプラットフォーム「Stream BIM」を導入し、設計部門・施工現場・協力会社間の情報共有を効率化しています。特に設備設計や構造解析データをリアルタイムで反映できる点が特徴です。

また、設備系CADや自社開発ツールを連携させ、施工時における干渉確認・資材配置シミュレーションを自動化しています。設計施工一貫体制を持つ企業として、デジタル技術を組織全体で運用する仕組みを整備しています。

一般的な建設DX推進に関連するシステム

大手ゼネコンの自社システムと比べて、一般事業者や中堅・中小建設関連会社が提供しているシステムもあります。システムの内容を把握し、部分導入から自社のフェーズに応じた適用範囲を検討することが重要です。

株式会社アンドパッド(ANDPAD)

「ANDPAD」は国内で最も導入実績が多い施工管理クラウドのひとつです。現場・事務所・協力会社の間で図面・写真・チャット・工程表・受発注データをリアルタイム共有できます。

アプリ操作が直感的で、スマートフォンやタブレットで現場から直接入力できるため、ITスキルに不安がある従業員でも運用しやすい点が特長です。中小建設会社では「現場と事務の情報伝達ロスを減らす」という目的で導入されることが多く、ペーパーレス化と報告効率化の両立が期待できます。

株式会社プレックス(サクミル)

「サクミル」は、複数現場の進捗状況を一覧・カレンダー形式で管理できるクラウド型施工管理システムです。工程表、図面、写真、作業報告を一画面で統合し、クラウド上で関係者が同時に閲覧・編集できます。

たとえば、同時進行する案件数が多い中堅企業やリフォーム事業者などに向いており、「情報の分散」「報告の遅延」といった課題の解消に効果的です。インターフェースが簡潔で、導入教育コストが少なく済む点も評価されています。

福井コンピュータアーキテクト株式会社(どっと原価NEO)

見積や受注、原価、請求までの業務フローを統合する原価管理システムです。建設業特有の複数案件・多階層構造に対応し、リアルタイムで原価・利益率を把握できる点に強みがあります。


中小企業では、経営者が現場・事務を兼務することが多いため、「原価と利益を即時に確認できる」ことが意思決定を迅速にするメリットにつながっています。経営管理と現場情報を結びつけたい企業に適した仕組みです。

まとめ

建設DXは、業界全体で中長期的な構造転換の柱となりつつあります。五大ゼネコンが自社システムによって「設計・施工・維持管理のデータ連携」を実現し、先導的なモデルを築く一方、中小企業ではクラウド化やモバイル管理を軸にした実務レベルのDXが浸透している状況です。

建設業界全体として生産性・安全性・持続可能性の向上を目指すデジタル基盤が形成されつつあるといえるでしょう。