生成AI技術を施工管理者の危険予測に援用+設計図面を自動で構造化して設計者を支援|深堀り取材【毎月15日・月末更新】

建設業界においても、生成AI技術を広範に援用する事例が数多く散見できるようになった。その際に重要なのが生成AIに的確に指示を与えるプロンプト編集のノウハウだ。本稿では、生成AI技術を施工管理者の危険予測に援用する事例と大量の設計図面を自動で構造化して設計者を支援するシステムについて報告している。共に、生成AI技術の今後の可能性のあり様を示唆する事例となっている。
目次
生成AI技術の活用で施工管理者の危険予測を支援するシステムKizuki AI(キヅキアイ)採用
長谷工コーポレーションは、建設現場における安全対策に関する知識の平準化と効率的な対応を実現するため、生成AI技術を活用することで施工管理者の危険予測を支援するシステムKizuki AI(キヅキアイ)をオープンソースのAI開発プラットフォーム「Dify」上で開発、活用を開始した。2025年8月現在、首都圏で手掛ける全ての建設現場(129カ所)に採用しており、今後、継続して全エリアの建設現場へ順次拡大していく。
長谷工コーポレーションでは、現中期経営計画「HASEKO Evolution Plan」の重点戦略に沿ってDXを加速している。引き続きマンション事業全体でDXを活用し、効率化による生産性の向上と働き方改革の両立を実現していく。

作業現場の写真のアップロードだけで熱中症や足場の不安定性などのリスクと対策を提示
Kizuki AI(キヅキアイ)では、パソコンやスマートフォンに工種、作業内容、天候、気温を入力し、作業現場の写真をアップロードするだけで、生成AIが熱中症や足場の不安定性など想定されるリスクと対策を具体的に提示するため、施工管理者に気づきを与えることが可能になる。ここに至る試行段階では、過去の災害事例の写真を基にプロンプト(生成AIへの指示)を調整し、検出されるリスクの精度向上を図ってきた。合わせて若手の施工管理者とKizuki AI(キヅキアイ)のそれぞれがリストアップしたリスクを比較したところ、若手の施工管理者に新たな気付きを与える効果を確認した。
施工管理者がKizuki AI(キヅキアイ)を使用する際には、左の【入力画面】に工種、作業内容、天候、気温を入力し、作業現場の写真をアップロードすることで、右の【AI予測結果の提示画面】にAIが予測したリスク、対策が瞬時に表示される仕組みとなっている。

現在、首都圏の作業所において検証を進めており、システムの精度を高めていくと共に、近畿圏・東海圏の建設現場での利用拡大を進め、安全対策に関する知識の平準化と効率化を図っていく。
大量の設計図面を最先端のAI技術により自動で構造化する「Tektome KnowledgeBuilder」採用
テクトム(渋谷区: 代表取締役北村尚紀)では、自社が開発・提供する建築設計 AI ソリューション「Tektome KnowledgeBuilder」が竹中工務店において試行導入されたと公表した。
「Tektome KnowledgeBuilder」は、図面や議事録などの多様なフォーマットの情報を建築士や設計者が自然言語で指示するだけで自動的に構造化し、重要な情報資産を分析・整理・データベース化することができるサービスとなっている。これによって非エンジニアでも簡単に情報の構造化・蓄積を行えるようになり、過去のデータを有効なノウハウとして活用することで設計ミスの再発防止、不要な再設計の削減、新たなデザインの創出を支援する。
テクトムでは、技能労働者の不足やデジタル化の進展といった環境変化に対応するため「働き方改革」と「建築生産プロセスの改革」を並行して推進している。その一環として、過去の設計資産を有効に活用し、設計者の業務負荷を軽減することで、より創造的な業務に集中できる環境を整備することが重要な課題となっていた。
過去の図面は、主にデジタルデータとして保管されているものの、必要な情報に迅速にアクセスすることが困難なケースが多く見受けられた。現状では、数十万ページに及ぶ図面データから特定の情報を目視で探したり、参考情報を人づてに確認したりする必要があり、過去のノウハウを設計業務に十分に活かしきれない状況が続いていた。
それらの課題に対してテクトムは、手作業では困難な大量の設計図面を最先端のAI技術により自動で構造化する「Tektome KnowledgeBuilder」を提供し、竹中工務店による試行導入がスタートした。
3ヶ月の実証で要件に合致する竣工図検索・類似プロジェクト参照・関連数値の一覧化実現
試行導入に際して、竹中工務店様では、有志によるワーキンググループが複数立ち上げられ、現場のメンバーが主体となって竣工図データの構造化検証を行った。3ヶ月という短期間の実証を経て、メンバー自身が活用目的に応じた抽出項目を設定し、要件に合致する過去の竣工図の検索や類似プロジェクトの参照、関連数値の一覧化など実務に直結した情報を容易に引き出せる環境が整った。
さらに、「Tektome KnowledgeBuilder」により多くの過去竣工図データを取り込み、検索軸の多様化や利便性の向上を図る取り組みが進められている。これによって蓄積されたナレッジを現在のプロジェクトに横展開し、再設計の削減や品質向上に繋げる取り組みが進められている。
『最先端の生成 AI 技術を持つテクトムと、建築業界をリードする竹中工務店が融合した2年間の取り組みで、設計者にとって強力なパートナーが誕生したことを実感しています。数十万ページの図面検索から自然言語での瞬時アクセスへの変化により、ベテランの設計ノウハウが生きた知識として蘇り、設計者がより創造的業務に集中できる環境が実現しました。複雑化する設計要件と働き方改革の両立を可能にするこの革新的パートナーシップが、建築業界全体の変革を牽引していくと確信しています。』(竹中工務店東京本店設計部構造部門高岡氏コメント)
