【2025年版】建築アンカーとは?種類・使い分け・施工基準・法律までプロが徹底解説

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Category:コラム建築

著者:上野 海

建物の「安全性」「耐震性能」を左右する部材のひとつが建築アンカーです。しかし、埋め込みアンカーやあと施工アンカーなど種類ごとの特徴や使い分け、建築基準法における位置づけを正しく理解していないと、施工不良や強度不足につながりかねません。

そこでこの記事では、2025年最新の施工基準や製品動向を踏まえ、建築アンカーの種類・選び方・施工上の注意点・法的基準をわかりやすく解説します。

建築アンカーとは

建築アンカーとは、柱や梁、設備機器などをコンクリートや鉄骨などの構造物に確実に固定するための金具・ボルト類の総称です。

耐震性や安全性を確保するうえで欠かせない部材であり、次のような現場で使われています。

  • 新築
  • 改修
  • 補強工事

なお建築アンカーには複数種類が存在します。選定や施工にあたっては、設計荷重や施工条件、法的基準を満たすことが欠かせないほか、施工管理者や職人が共通認識を持つことが事故防止につながります。

土木アンカーとの違い

土木アンカーと建築アンカーは、どちらも構造物を固定する役割を持っていますが、次のように対象物や設置環境、設計基準が異なります。

建築アンカー土木アンカー
主な用途建物・設備の固定法面補強・橋梁・ダムなどの固定
設置対象コンクリート・鉄骨部材地盤・岩盤
規模比較的小型~中型大型・長尺が多い
主な基準建築基準法・JIS規格道路土工指針・土木学会指針
耐荷重条件局所的な引張・せん断荷重長期的な地圧・水圧

たとえば、ビルの柱脚固定には建築アンカー(あと施工アンカーボルトなど)が用いられますが、山間部の道路擁壁補強では土木アンカー(グラウンドアンカー)が使用されます。このように、同じ「アンカー」でも設置環境と荷重条件が大きく異なるため、設計・施工方法も変わります。

またもうひとつ上のレイヤーである、建築と土木の違いを知りたい方は、以下の記事がおすすめです▼

建築アンカーの種類【基礎知識】

建築アンカーは、主に「埋め込みアンカー」と「あと施工アンカー」の2種類に大別されます。どちらも部材を確実に固定する目的は同じですが、施工時期・方法・性能特性が異なります。

ここでは、それぞれの特徴をまとめました。

【種類1】埋め込みアンカー

埋め込みアンカーは、コンクリート打設時にあらかじめ配置し、硬化後に固定部として利用するタイプです。

新築工事や基礎部分での利用が多く、強度面での高い信頼性を持っています。

なお、施工時に位置精度が求められるため、墨出しや型枠設置の段階から慎重な作業が必要です。一度打設すると位置修正ができないため、施工管理者の事前確認が重要です。

【種類2】あと施工アンカー

あと施工アンカーは、既存のコンクリートや構造物に穴を開けて後から取り付けるタイプです。

改修工事や設備の追加設置など、施工後に固定が必要な場合に適しています。

また、施工品質は作業者の技量に依存しやすく、穿孔後の清掃不足や接着剤の未硬化が強度不足の原因になります。施工後の引張試験や定期点検で安全性を確認しましょう。

アンカー種類の使い分け早見表【荷重条件・環境条件別】

建築アンカーは、同じ種類でも使用条件によって性能や適合性が大きく変わるため、誤った選定をすると、施工不良や構造物の損傷、重大事故につながる可能性があります。

以下は、荷重条件と環境条件ごとの推奨アンカータイプをまとめた早見表です。

条件推奨アンカータイプ主な特徴主な事例
引張荷重+屋内埋め込みアンカー
(メカニカル式)
高耐力、長期安定性柱脚固定、機械基礎
引張荷重+屋外埋め込みアンカー
(耐食仕様)
耐食メッキ・ステンレス製屋外設備基礎、フェンス支柱
せん断荷重+屋内あと施工アンカー
(メカニカル式)
即時使用可能室内手すり、間仕切り
せん断荷重+湿潤環境あと施工アンカー
(接着系)
防錆性、耐湿性浴場設備、プール周辺
高温環境(工場炉周辺など)耐熱仕様あと施工アンカー高温耐性製鉄所設備、ボイラー架台
耐震補強あと施工アンカー
(接着系+補強筋)
高い延性・耐震性RC造耐震補強工事

参考1:国土交通省「あと施工アンカー・連続繊維補強設計・施工指針」

参考2:日本建設あと施工アンカー協会「あと施工アンカー施工指針(案)」

なお、上記の基準はあくまで目安です。現場条件によっては適切なアンカー施工が異なるケースもあるため、指針やマニュアル等を確認したうえで、その現場に適した工法を選定しましょう。

アンカー選定に失敗しないための重要ポイント

アンカーの選定に失敗したくないという方は、本項で紹介する4つのポイントを押さえつつ、工法や製品の比較検討を行うのがおすすめです。

荷重条件(引張・せん断)

アンカー選定では、部材にかかる引張荷重とせん断荷重の両方を評価することが不可欠です。

引張に強いタイプ、せん断に適したタイプがあり、誤選定は破断や抜け落ちの原因になります。国交省告示やJCAA指針では、試験による許容荷重の確認が求められます。

コンクリート強度・ひび割れ有無

アンカーの固定力には、母材のコンクリート強度やひび割れの有無が影響します。

たとえば、高強度コンクリートでは穿孔時の負荷が増し、低強度では引抜き耐力が低下します。また、ひび割れがある場合は接着系アンカーが有効とされ、施工基準でも適合試験の実施が推奨されるのが特徴です。

耐久性(腐食・錆対策)

屋外や湿潤環境では、腐食によるアンカーの固定力低下を防ぐため、ステンレス製や耐食めっき処理済みアンカーの使用が推奨されます。

特に、海浜部や化学工場では腐食速度が速いことから、長期性能保証のためメーカーの耐久試験データやJIS規格適合品の採用が重要です。

施工条件とコストのバランス

建築アンカーは、限られた工期や予算のなかで、安全性を確保できる工法や製品を選定しなければなりません。

例として、即時使用可能な「メカニカル式」、養生期間が必要である一方で高耐力の「接着系」など、施工条件に合わせて選びましょう。また維持管理の観点から、初期費用だけでなく、メンテナンス頻度や交換コストなど、ライフサイクルコスト(LCC)も考慮することが大切です。

建築アンカーの最新技術・製品動向【2025年版】

近年の建築アンカーは、従来の強度・耐久性向上だけでなく、環境対応や施工効率化にも重点が置かれています。2025年時点では、以下のような技術動向が注目されています。

  • 高耐震性能アンカー(製品系)
    地震時の動的荷重に対して高い延性と保持力を発揮する
  • 低VOC接着材(アンカー固定に使用・製品系)
    ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)の発生を抑えた樹脂
    BIM連携による施工精度向上(技術系)
  • BIMモデル上でアンカー位置を事前検討し、墨出しや穿孔位置の誤差を減らす

最新のアンカー技術は「安全性」「環境性能」「施工効率化」の3軸で進化しています。メーカー技術資料や現場試験データを確認し、現場条件に合った製品を選定することが、長期的な安全とコスト削減につながります。

また、BIMに関する情報に興味をお持ちなら、以下の記事もチェックしてみてください▼

建築アンカーについてよくある質問【FAQ】

あと施工アンカーの耐用年数は?

あと施工アンカーの耐用年数は、一般的には20〜30年程度(※使用環境や材料によって異なります)とされます。たとえば、屋外や湿潤環境では腐食対策が必須で、ステンレス製や耐食めっき製品の使用が推奨されます。メーカーマニュアル・カタログ等から詳細情報を確認しましょう。

DIYで施工可能?

小規模な取り付けであればDIY施工も可能ですが、強度計算や適合試験が不要な非構造部材に限られます。構造耐力上重要な部分は、建築基準法や施工指針に基づく管理が必要です。誤施工は固定力不足や事故の原因となるため、専門業者に依頼するのが安全です。

地震時に外れることはある?

施工不良や設計荷重を超える力が加わった場合、地震時にアンカーが抜け落ちる可能性はあります。耐震補強向けのあと施工アンカーや高延性製品を選び、国交省告示に準じた施工・試験を行うことでリスクを低減できます。定期点検で緩みや劣化を確認することが重要です。

土木アンカーと建築アンカーのどちらを使うべき?

建築アンカーは建物や設備の固定、土木アンカーは法面・橋梁・ダムなど地盤や大型構造物の固定に適しています。設計基準も異なるため、施工環境や荷重条件を確認し、必要に応じて専門家の意見を取り入れることが安全性確保につながります。

まとめ

建築アンカーは、建物や設備を安全に固定する要の部材です。

種類や使い分け、施工基準を正しく理解するだけでなく、現場条件に適した製品を選ぶことが耐久性と安全性を高めます。法令や指針の確認、定期点検も考慮しつつ、建築アンカーについての知識を深めていきましょう。