石綿(アスベスト)事前調査のガイド|判断基準や報告など事業者に求められる対応とは

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Category:建築コラム

建築物の解体や改修を行う際には、石綿(アスベスト)の使用有無を事前に調査することが法律で義務付けられています。調査を怠った場合、作業員や近隣住民への健康被害に加え、行政指導や工事の中断など重大なリスクが生じます。

また、2023年10月以降は、調査者の資格要件も厳格化されており、発注者・施工者の双方に高度な対応が求められるようになりました。

そこで本記事では、石綿事前調査の法的義務を整理し、建築実務者や施設管理者が知っておくべき知識についてみていきましょう。

石綿事前調査とは

石綿事前調査とは、建築物や設備の解体・改修を行う際に、使用されている建材に石綿(アスベスト)が含まれているかを工事前に確認・記録するための調査を意味します。調査は有資格者が行う必要があり、以下のような目的に沿って実施されます。

  • 作業員のばく露防止
  • 周辺環境への飛散防止

実際の調査は、以下の3つの段階で実施される点は知っておきましょう。

  1. 書面調査:設計図書や竣工図、仕上げ表、仕様書などの資料から石綿含有の可能性を確認
  2. 目視調査:現地で建材の状況(劣化・補修痕・材質など)を直接確認
  3. 分析調査:必要に応じて試料を採取し、JIS規格に基づいて専門機関に分析を依頼

石綿の含有有無を明確に判断し、工事の施工計画に反映させなければなりません。また、目視や資料だけで判断できない建材については、「石綿含有の可能性がある」と見なされるため、適切な対策を講じることが法的に義務付けられています。

調査の背景

石綿(アスベスト)は非常に細かい繊維状の鉱物です。吸い込むと中皮腫や肺がんなどの重い病気を引き起こすことが知られています。以前は断熱や防音を目的に建材として多用されてたものの、有害性が明らかになったため、2006年以降は使用が全面禁止となりました。

しかし、古い建物にはいまも石綿を含む建材が残っている可能性があります。そういった背景から、解体や改修を行う前に使用有無を確認する「事前調査」が法律で義務付けられています。

義務化の法的根拠

石綿事前調査は、大気汚染防止法(2022年4月改正施行)および労働安全衛生法により、すべての解体・改修工事に対して義務付けられています。

具体的には、以下の2つの制度に基づき、調査義務が明文化されています。

  • 大気汚染防止法(第18条の15)|環境省所管―周辺環境への石綿飛散防止を目的として、すべての解体・改修工事に対する事前調査および結果報告が義務化されている
  • 労働安全衛生法(石綿障害予防規則等)|厚生労働省所管―作業員のばく露防止を目的とし、一定の講習を修了した有資格者による調査実施が原則として求められている

2022年以降は、制度が連動する形式で運用されており、行政機関への報告や調査者の資格確認、報告書の保存義務などが厳格化されています。

調査対象となる工事範囲

石綿事前調査は、建材の撤去・加工・切断などを伴うあらゆる工事において対象となります。代表的な工事例は以下のとおりです。

  • 建築物の全体または一部の解体
  • 天井・壁・床などの内装材の撤去を含む改修工事
  • 配管・空調・電気設備等の入替え・更新
  • 耐震補強工事、用途変更に伴う構造の変更

外見上は小規模な工事でも、既存建材を撤去・加工する場合は、法的に調査が必要となります。たとえば「内装リフォーム」「浴室ユニットの更新」「エアコン取替え」なども該当するケースも想定されるでしょう。

対象となる建材と判断基準

建築物の事前調査では、石綿が使われている可能性のある建材を正しく特定し、適切な手順で調査を進めることが求められます。

ここでは、石綿が使用されてきた代表的な建材の種類と、実務上行われる調査の段階(書について詳しく解説します。

使用が疑われる建材の種類

石綿(アスベスト)は、昭和期から1990年代までの建築物で広く使用されており、特定の建材に多く含まれていることが知られています。主に以下のような建材が対象です。

  • 吹付け材
  • 保温材・断熱材
  • 押出成形セメント板(押出板)
  • スレート
  • ケイ酸カルシウム板(ケイカル板)

建材は、建築年代やメーカー、ロットによって石綿の有無が異なるため、外観だけでは判断できません。

石綿含有の判断基準

調査の結果、石綿を含んでいるかどうかが明確にわからない建材(=「不明」扱い)については、法令上「含有しているもの」とみなされます。理由は、飛散リスクを回避するための措置であり、安全側に立った判断が原則とされているためです。

そのため、調査段階で「不明」なままの建材については、石綿含有建材として除去・封じ込めなどの対策を講じる必要があり、施工計画や予算にも反映されます。

石綿調査者の資格と報告義務

ここでは、調査者に必要な資格、報告・保存の義務、無資格調査のリスクについてみていきましょう。

調査を実施できる者の資格

2023年10月以降、石綿事前調査を実施できるのは、所定の講習を修了した「建築物石綿含有建材調査者」などの有資格者に限られます。具体的には、以下のいずれかに該当しなければ調査は実施できません。

  • 国が指定する登録講習機関で「建築物石綿含有建材調査者」講習を修了した者
  • 「一般建築物石綿含有建材調査者」「特定建築物石綿含有建材調査者」等、法令で認められた関連資格保有者

講習修了者には修了証が交付されるため、発注者側でも調査者の資格確認が可能です。

調査結果の提出と保存

石綿事前調査の結果は、工事を請け負う元請業者が所轄の労働基準監督署へ所定の様式で報告しなければなりません(労働安全衛生法第88条・石綿則第3条の2)。

また、調査報告書や分析結果などの関連記録は、原則として3年間の保存義務があります。実際は、請負契約や監査対応を考慮し、5年間以上の保管が望ましいとされています。

保存すべき資料には、以下のような書類が代表的です。

  • 石綿含有建材調査結果報告書(様式記載)
  • 分析機関による分析報告書
  • 使用建材に関する写真・図面・補足資料など

無資格者による調査の無効性

資格要件が導入されたことから、無資格者によって行われた調査は、法的に「調査として認められない」可能性が極めて高くなります。仮にそうなった場合は、元請業者や発注者は、再調査や行政からの是正指導、最悪の場合は工事中止や罰則対象となるリスクを負うことになる点は知っておきましょう。

また、資格不備による調査ミスが発覚した場合、その後の除去工事や施工中に発生するトラブルの責任の所在が不明確になり、損害賠償や契約違反といった法的問題に発展するリスクもあります。

まとめ

石綿事前調査は、建築工事を安全かつ円滑に進めるうえで、欠かすことのできない基礎的な工程です。調査の精度と記録管理は、施工段階における作業の安全性の確保に加え、工事全体の品質確保および法的責任の所在を明確にする重要な根拠といえるでしょう。

発注者・元請業者・現場管理者それぞれが制度の内容と趣旨を正しく理解し、計画段階から適切な調査体制を整えることが重要です。リスクを最小化し、信頼度の高い施工を実施していきましょう。