大林組、万博EVバス向けに共同開発 低炭素型セメント「ユニバーサルクリートGX」実用化

株式会社大林組と太平洋マテリアル株式会社は共同で、環境負荷を大幅に削減した高性能セメント複合材料「ユニバーサルクリートGX」を開発しました。この新素材は、2025年大阪・関西万博で運行される来場者移動用電気バス(EVバス)の走行中ワイヤレス給電システムの道路設備として適用されています。
開発の経緯と技術的課題
大林組は関西電力株式会社、大阪市高速電気軌道株式会社、株式会社ダイヘンと共にコンソーシアムを結成し、大阪・関西万博の「来場者移動EVバス」事業に協賛しています。この事業において大林組は、EVバスが走りながら充電できる画期的なワイヤレス給電システムの送電コイル埋設工事を担当しました。
走行中のワイヤレス給電を効率的に行うためには、いくつかの技術的な課題がありました。
・送電コイルを覆う材料が磁気を帯びない「非磁性」であること
・通行する車両の重さに耐える十分な耐久性を確保すること
・給電効率を高めるため、コイルを道路表面のごく浅い位置に設置すること
これらの厳しい条件をクリアするため、両社は共同で新素材の開発に取り組みました。なお、この送電コイル埋設工事はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業を活用して実施されています。
「ユニバーサルクリートGX」の優れた特性
■環境負荷を約半分に削減
新開発の「ユニバーサルクリートGX」は、モルタルとポリプロピレン短繊維を組み合わせた複合材料です。このセメント材料は、従来の高性能セメント複合材料と比較して、製造時のCO2排出量を約50%削減しています。これは、セメントの一部を高炉スラグ微粉末などの産業副産物に置き換えることで実現しました。
■優れた耐久性と非磁性を両立
この素材は磁性を持つ原料を一切使用していないため、ワイヤレス給電に適しています。さらに、繊維による補強効果により、0.5%程度の引張ひずみが生じても引張強度を維持する性能を持っており、一般的なセメント系材料よりも高い耐久性を実現しています。
大阪・関西万博での具体的な適用事例
本事業では、「ユニバーサルクリートGX」で送電コイルの上面を覆ったプレキャストコイルユニットを製造し、万博会場の道路に埋設しました。注目すべき点は、ユニバーサルクリートGXで覆った舗装の厚さが約25mmと非常に薄いにもかかわらず、通行車両の重量に十分耐えられること。この薄さが給電の効率性向上にも貢献しています。
今後の展望と可能性
大林組は「ユニバーサルクリートGX」の特長を活かし、今後もワイヤレス給電システムの道路設備をはじめ、非磁性と高い耐久性が同時に求められる様々な分野への応用を進めていく予定です。また、セメント材料の低炭素化をさらに推進することで、脱炭素社会の実現に貢献することを目指しています。
「高性能セメント複合材料」とは
「ユニバーサルクリートGX」が属する高性能セメント複合材料(HPFRCC:High Performance Fiber Reinforced Cementitious Composites)は、土木学会の定義によると、一軸引張試験において引張終局のひずみが0.5%以上、平均のひび割れ幅が0.2mm以下となる特性を持つ材料を指します。この特性により、従来のコンクリートよりも優れた耐久性と柔軟性を実現しています。
このように、環境に配慮した新素材の開発と実用化は、持続可能な社会基盤の構築に大きく貢献するものであり、大阪・関西万博という国際的なイベントでの実証は、日本の環境技術の高さを世界に示す好機となっています。
出典情報
株式会社大林組リリース,低炭素型の高性能セメント複合材料「ユニバーサルクリート®GX」を開発 大阪・関西万博 来場者移動EVバス 走行中ワイヤレス給電の道路設備に適用,https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20250408_1.html