大林組、複合災害シミュレーション装置を開発、地震と豪雨の連続被害を精密再現

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近年、日本では地震と豪雨が連続して発生し、甚大な被害をもたらす複合災害が問題となっています。株式会社大林組(東京都港区)は、このような複合災害に対応するため、地震と降雨の影響を高精度でシミュレーションできる実験装置「遠心場降雨発生システム」を開発しました。この装置は同社の技術研究所(東京都清瀬市)にある遠心模型実験装置に搭載され、2025年4月に導入されました。

相次ぐ複合災害の教訓から生まれた新技術

大地震と集中豪雨が同時に発生することは極めて少ないですが、これらが時間差で発生して道路や鉄道の盛土に大きな被害をもたらした事例は数多く報告されています。

過去の事例を振り返ると、2004年には台風23号による降雨で地盤が弱まった状態で新潟県中越地震が発生し、高速道路や鉄道の盛土構造物に甚大な被害が生じました。また記憶に新しい2024年9月の能登半島豪雨では、同年1月の能登半島地震で既に損傷していた地盤が集中豪雨を受けたことにより、土砂災害の範囲が拡大しました。

複合災害のパターンと将来の危険性

複合災害には主に二つのパターンがあります。一つは降雨後に地震が発生するケース、もう一つは地震後に降雨が発生するケースです。どちらのパターンでも、最初の災害で弱くなった地盤が二つ目の災害でさらに大きな被害を受けやすくなります。

専門家によれば、南海トラフ巨大地震などの大規模地震や、気候変動による豪雨の激甚化が予測される中、今後も深刻な複合災害が発生する可能性は高いとされています。このような背景から、大林組は防災技術の向上を目指し、新しい実験設備の開発に取り組んできました。

新実験設備の画期的な特長

今回開発された「遠心場降雨発生システム」は、従来の実験設備では再現できなかった複合災害の状況を再現できます。

この設備の主な特長は以下の通りです。

1. リアルな降雨現象の再現

この設備では、弱い雨から強い雨までさまざまな降雨強度を設定でき、最大で総雨量2,000mmという極端な降水量も再現可能です。雨によって地中の水分量が増加し、地盤が不安定化して崩壊するまでの過程を精密に観察することができます。

2. 降雨と地震の複合作用の検証

地震動も再現できるため、「降雨後に地盤内の水分量が増加した状態で地震が発生する状況」や「地震でダメージを受けた地盤に降雨が作用する状況」など、複合災害の様々なシナリオを検証することが可能になりました。

3. 多様な土構造物への応用

この技術は高速道路や鉄道の盛土だけでなく、斜面、河川堤防、ダムなど様々な土構造物の安全性評価にも活用できます。また、災害発生後の警戒レベル設定の判断材料としても役立てることができます。

実験の仕組み

「遠心場降雨発生システム」は、遠心模型実験装置に搭載して使用します。遠心模型実験装置とは、縮小模型に対して遠心力を作用させ、実物大の構造物と同じ力学的条件を再現する装置です。大林組技術研究所では1999年から導入されており、震度7クラスの巨大地震も再現可能な高性能設備となっています。

この装置の動的バケットが振り上がり、システムが横向き状態になると、遠心力によって実際の土構造物と同じ力関係が生まれます。これにより、小さな模型でも実物大の構造物で起こる現象を正確に再現することができるのです。

今後の展望と社会的意義

大林組は、この新しい実験設備を活用して、降雨と地震の複合災害に強い土構造物の工法開発を進める予定です。これにより、道路、鉄道、斜面、堤防などのインフラ設備の安全性が向上し、自然災害から人々の生命と財産を守ることに貢献します。

また、この技術によって得られた知見は、災害発生時の被害予測や避難計画の精度向上にも役立つと期待されています。地震大国であり豪雨災害も多い日本において、この技術の社会的意義は非常に大きいといえるでしょう。

私たちの生活を支えるインフラの安全性向上に向けた、この先進的な取り組みに今後も注目が集まりそうです。

出典情報

株式会社大林組リリース,地震と降雨による複合災害を再現する実験装置を開発 災害に強い土構造物の工法や的確な災害対策の検証が可能に,https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20250424_1.html