工期短縮・コスト最適化を両立するシステム建築とは。企業の施設に適した建設手法を解説

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ており、企業施設の建設には新しい選択肢が求められています。とくに、事業のスピード感を保ちながらも、耐震性や災害対応といった社会的要請に応える施設整備は、今や経営戦略の一部といっても過言ではありません。

そのため、設計から施工までを標準化・最適化した「システム建築」が注目されています。本記事では、システム建築の構造的な特徴から、経営的メリット、活用事例についてみていきましょう。

システム建築とは?従来工法との違い

システム建築とは、工場や倉庫、事業所といった建築物の構造部材や外装、開口部などを事前に規格化し、システムとして設計・施工する工法を指します。「設計・部材・施工手順」が最適化されているため、以下のようなメリットがあります。

  • 設計・製造・施工の標準化による短工期
  • 工場生産率の高さによるコスト最適化
  • 部材品質の均一化による耐久性・安全性の確保

従来のRC(鉄筋コンクリート)構造やS造(在来鉄骨構造)に比べて、納期とコストが明確化されやすい点も企業にとって魅力だといえるでしょう。他の工法との大きな違いは以下のとおりです。

項目システム建築RC構造(鉄筋コンクリート)S造(在来鉄骨構造)
設計手法モジュール設計(規格化済)一品ごとの個別設計個別対応が基本
部材の生産工場による一括製造(プレファブ現場加工・打設一部工場製作、現場組立
施工スピード非常に早い(約30〜40%短縮)遅い(打設・養生時間あり)中程度
コスト管理明瞭(部材単価・工程が標準化)変動幅が大きい規模により変動
品質の均一性高い(規格品使用)打設状況によりバラつく組立精度に依存
耐震・耐久性能高い(等級設計対応可能)高い(重構造)中〜高(設計に依存)
デザインの自由度やや制限あり高い高い
適した用途倉庫・工場・物流拠点・事務所等商業施設・集合住宅など商業施設・工場・事務所等

経営判断としての「システム建築」。必要とされる理由とは

企業は倉庫や工場、事務所といった施設に投資する場合、単なる「建物の有無」だけでなく、どれだけ早く・効率的に・長く活用できるかを考慮することになります。つまり、企業が持つ施設は、経営資源(経営の一部)として活用されるものだといえるでしょう。

経営視点から、「システム建築」は、従来工法では難しかった複数の経営課題に対応可能です。ここでは、3つの視点から解説します。

1.工期短縮・コスト管理の最適化ができる

従来の建設工法では、設計から施工まで多くの工程が属人的かつ現場依存で進行するため、「予算オーバー」や「工期遅延」が発生しやすく、経営判断の障壁となっていました。

対して、システム建築では、以下の特徴があるため、不確実性を大幅に軽減できます。

項目特徴
設計段階モジュール化された設計のため、変更や手戻りが少ない
部材調達・施工工場で事前製造された部材を使用し、現場での工数が極端に少ない
工期一般的に、在来工法より30~40%短縮可能
コストコントロール材料費・施工費・人件費が事前に数値化可能、結果として予算超過が起きにくい

たとえば、物流拠点の再編や製造ラインの更新といったプロジェクトでは、「いつから稼働できるか」といったポイントが事業計画に直結します。システム建築の導入によって、施設完成から稼働開始までのリードタイムを確実に短縮できるため、正確な経営判断がしやすくなるといえるでしょう。

2.税制優遇・資産活用がしやすい

システム建築は、建物そのものでは、国の直接的な税制優遇措置(即時償却・税額控除)の適用対象とはなりません。ただし、施設の一部を構成する「建物附属設備」や「導入設備類」が一定条件を満たす場合は、以下のような税制と組み合わせることが可能です。

制度名称対象とする効果・条件概要
中小企業経営強化税制機械装置・工具・建物附属設備等が対象。建物本体は原則対象外
中小企業投資促進税制設備投資(生産性向上を目的とする機械・装置等)に対する特別償却または税額控除
地方税の特例(自治体により異なる)先端設備等導入計画に基づき取得した場合、建物本体が軽減対象となるケースもある

また、システム建築は構造や面積が明確に設計段階で定義されるため、資産計上・減価償却計画を立てやすく、耐用年数の設定や資産管理面においても実務上の利便性があります。そのため、固定資産台帳や償却スケジュールの整備が容易となることから、財務諸表の透明性を高め、資産管理や監査対応を円滑に進めるうえでも有利に働くでしょう。

そして、財務計画と建設投資を戦略的に連動させたい企業では、システム建築は有力な選択肢となり得ます。

3.CP(事業継続計画)・災害対策に合わせやすい

日本は地震や台風、豪雪といった自然災害が多い国の1つです。そのため、企業は自社の業務を中断させないための備えとしてBCP(Business Continuity Plan)体制の構築が必要です。とくに製造業や物流業では、1日の停止が数百万円以上の損失に直結することもあり、災害対応能力は経営上の重要課題の1つだといえるでしょう。

BCPの観点からシステム建築は、建物にBCPを支える機能を組み込むことができるため、非常に高い評価を受けています。以下の表では、主要な災害リスクと対応するシステム建築の設計上の対応内容を整理しました。

項目設計上の対応内容
耐震性能建物全体を構造計算に基づいて設計し、耐震等級への対応が可能。行政指導による地域要件にも適合しやすい
耐風・耐雪屋根材や構造体の強度を、地域の風速・積雪荷重条件に応じて選定できるため、気候リスクへの事前対処が可能
火災対策柱や梁に耐火塗装処理を施すとともに、軒や開口部に対しても延焼を防ぐ設計が標準対応として用意されている
構造評価モジュール設計のため、工場段階で構造強度を数値化でき、必要に応じて証明書として提示することも可能

設計上の工夫によって、後から追加対応を要する従来工法に比べた場合、導入段階からBCP対策が組み込まれているという点において明確な優位性があります。

導入事例にみる業種別の活用パターン

システム建築は、以下のような業種でも有効に活用されています。

業種活用目的と効果
物流業地方配送センターの新設にシステム建築を採用。大型車両に対応した開口設計を短期間で構築し、建設から稼働開始までを5カ月で完了
製造業生産ライン再編に伴い工場棟を建て替え。柱間スパンを広く確保し、搬送ロボットの動線確保と作業効率の向上を同時に実現

従来工法では時間やコストがネックとなっていた場面でも、システム建築であれば実現可能な選択肢が広がります。今後は、拠点の再構築や新規展開を検討する企業にとって、より現実的かつ戦略的な建設手法として注目されていくでしょう。

システム建築が向いている企業・そうでない企業

システム建築が向いている企業とそうでない企業の特徴は以下のとおりです。

分類具体的な企業・用途の特徴
向いているケース・急速に事業拡大中で、建設スピードを重視している
・明確な用途・配置が決まっており、汎用性よりも専用性を優先したい
施工管理に割ける人的リソースが限られており、省管理型を希望する
向かないケース・内部構造が特殊で、頻繁にレイアウトや用途変更が発生する施設
・外観デザインや意匠性を重要視するブランド施設
・居住性や断熱性能において高水準が求められる住宅型
・長期滞在施設

まとめ

システム建築は、経営資源としての施設をいかに効率的かつ合理的に整備・活用していくかという観点から導入できる建築工法です。工期の短縮やコスト管理、税制対応、BCP対策といった多面的なメリットがあることから、高い機能性と導入スピードが求められる場面でとくに効果を発揮します。

事業の拠点づくりを資産戦略の一環として捉える場合、システム建築は今後も有力な選択肢となっていくしょう。