ICT土木施工とは?事例・メリット・デメリット・導入ポイントを初心者向けに徹底解説【2025年版】

土木業界にもデジタル化の波が押し寄せており、現場作業にICT(情報通信技術)を取り入れる「ICT土木施工」が注目されるようになってきました。しかし、どのような活用方法があるのかイメージできずにいる人も多いでしょう。
そこでこの記事では、ICT土木施工の基本から、具体的な導入事例、メリット・デメリット、導入のポイントまでわかりやすく解説します。
目次
土木業界のICTとは?わかりやすく解説
土木業界における「ICT(日本語で情報通信技術)」とは、以下に示す一連の土木プロセスにデジタル技術を導入する取り組みです。
- 計画
- 調査
- 設計
- 施工
- 維持管理
従来の人手に頼った作業プロセスを効率化し、デジタルを活用した高精度かつ安全な土木業務を実現するために活用されています。土木業界の少子高齢化、人手不足、アナログな管理の問題を解決するひとつの取り組みとして、企業のみならず国を挙げて推進しているのが特徴です。
なおビルドアップニュースでは、ICTに関する豊富な記事を公開しています。最新トレンドも含めて詳しく知りたい方は、以下のページをチェックしてみてください。
https://news.build-app.jp/tag/ict
またICTのベースとなる建設DXに興味がある方は「漫画で学ぶ建設DX」をチェックしてみてください。
https://news.build-app.jp/introduction
ICT施工の概要と目的
土木業界のICT技術のなかでも特に注目が集まっているのが、施工分野におけるデジタル化です。
例えば、国土交通省が推進する「i-Construction」のもと、次のような技術を活用した「ICT施工」の普及が本格化しており、人力で対応が必要だった作業の自動化が進んでいます。
- ドローン測量
- 3D設計(BIM/CIM)
- ICT建機
まずはICT施工の成り立ちと、その背景にある国の施策について解説します。
出典:国土交通省『「i-Construction 2.0」を策定しました』
出典:とよおかBIM/CIMポータル「BIM/CIMとは」
ICT施工とは?国土交通省が推進する背景
ICT施工とは、情報通信技術を活用して土木業務の施工分野で取り組まれているデジタル化の手法です。
土木業界のプロセスのなかでも特に進化が進んでおり、以下の業界課題を解決するために、多くの現場でICT施工が実施されています。
- 慢性的な人手不足(2024年時点で建設業の人手不足倒産数が250%増加)
(出典:東京商工リサーチ「人手不足倒産 産業別」) - 高齢化の進行(平均年齢は約55歳に到達)
(出典:日本建設業連合会「建設業の状況」) - 現場作業の非効率性と安全リスク
- 施工品質のバラつき
なお国土交通省は、2025年までに主要な公共土木工事において、ICT施工活用率の順次原則化を進めていく目標を掲げています。(出典:国土交通省「i-Construction 2.0 ~建設現場のオートメーション化~」)
そのため、ICT施工は今後の土木業界において「できて当たり前」の基盤技術になっていくと予想されています。
ICT施工の主な技術と流れ
ICT施工は、測量・設計・施工(検査)・維持管理といった各工程に情報通信技術を取り入れ、さまざまなICT機器等が活用されます。
参考として以下に、一連のプロセスとそこに該当するICT施工の技術を順序立ててまとめました。
工程 | 適用できるICT技術例 |
調査 (測量) | ・UAV(ドローン)による空中写真測量・3Dレーザースキャナー測量・GNSS(全球測位衛星システム)測量 |
設計 | ・3DCAD(BIM/CIM)による三次元設計データ作成・点群データ活用による設計支援・地理情報システム(GIS)活用 |
施工 | ・ICT建機(GNSS搭載ブルドーザー、油圧ショベルなど)・マシンガイダンス・マシンコントロールシステム・施工管理アプリ・現場IoTシステム |
検査 | ・UAVによる施工後地形計測・3Dデータによる出来形管理・デジタル写真台帳・クラウド検査システム |
維持管理 | ・IoTセンサーによる構造物モニタリング・ドローン点検(橋梁・トンネル等)・デジタル台帳管理・クラウドデータベース |
ICT施工は3次元データを活用し、土木の業務プロセスをシームレスに連携できるのが魅力です。土木プロセスに携わる企業ごとに、最適なICT技術の導入が欠かせません。
またICT技術のひとつとして利用できる土木CIM(BIM/CIM)について興味がある方は、以下の記事をチェックしてみてください。
ICT土木施工の活用事例【2025年版】
ICT土木施工は、公共インフラ整備から民間の造成工事にいたるまで、さまざまな現場で導入されています。参考として以下に、ICT施工の導入事例をまとめました。
【事例1】ICT土工における測量・施工の効率化
出典:国土交通省「ICT土工事例集【工事編】」
北海道の釧路町で実施された「別保中央改良工事」では、現場施工のなかで次のICT技術が活用されました。
- UAVを用いた空中写真測量(測量)
- レーザースキャナーによる計測(測量)
- MG(マシンガイダンス)バックホウの導入(施工)
ICT技術の導入により、工期短縮(39日想定 → 37日)、人工削減(79人工 → 54人工)を実現し、安全面において測量および法面整形時の手元作業員が必要なくなり、法面からの滑落等の危険性を減らしています。
【事例2】掘削工事のICTシステム管理
出典:ライト工業「令和5年度合同現地研修会」
施工会社のライト工業が公開している「令和5年度合同現地研修会」の事例より、従来職人の経験によって対応されていたアンカー掘削作業にもICT技術が取り入れられるようになっています。
当事例では掘削時にリアルタイムで削孔長や計画長を計測してくれる「ICT掘削管理システム」が導入され、経験年数の差などを問わず繊細な工事を実現。なおライト工業は他にも法面工事の「全自動吹付システム」など、ICT技術の積極的な活用にも取り組んでいます。
ICT土木施工のメリット・デメリット
ICT土木施工は、現場作業の効率化や安全性向上に大きく貢献する一方で、導入コストや運用面での課題があります。参考として以下に、メリットとデメリットを整理しました。
メリット | デメリット | |
生産性・効率化 | 測量・施工・検査作業が効率化し、工期を短縮できる | 初期導入時に作業フローの見直しや再設計が必要になる |
品質・精度 | 3Dデータによる施工で品質・施工精度が均一化できる | 設計・施工段階でのデータ精度不足に注意しなければならない |
安全性 | ドローン測量・ICT建機施工で危険個所への人の立ち入りが減少する | システム障害・通信エラー時のリスク管理が必要になる |
人手不足対応 | ICT建機による省力化で少人数運用が可能になる | 操作できる技術者の確保と育成にコストと時間がかかる |
コスト | 長期的には人件費削減・効率化によるコスト削減が期待できる | 初期投資(ICT建機・測量機器・ソフトウェア)が高額になる |
維持管理 | 計測データを資産化して将来の維持管理に活用できる | 維持・保守管理コスト(ソフト更新・機器メンテナンス)発生する |
ICT土木施工の技術を導入する際には、良し悪しを踏まえ、投資回収の可能性や教育体制を整えたうえで導入へ進むことが重要です。
ICT土木施工の技術を導入するポイントと注意点
ICT土木施工の技術を導入する際には、導入前の準備と運用体制の整備に関わる次のポイントを押さえて動きはじめましょう。
項目 | 内容 |
導入コストとROI試算 | 初期投資に見合う生産性向上効果が得られるか、事前にシミュレーションを行う |
技術者育成・教育 | 操作できる人材がいなければ宝の持ち腐れであるため、ICT建機操作、ドローン測量、3D設計に対応できるスタッフの教育プランを整備する |
運用・サポート体制 | 導入後の運用支援体制を事前準備し、メンテナンス担当を確保する |
小規模現場への適用可否判断 | 工事規模や予算に応じて、導入範囲を慎重に見極める (すべての工事にICT施工が向いているわけではない点に注意) |
補助金・支援制度の活用 | 国や自治体が提供するICT施工導入補助金や助成金制度を積極的に活用して、導入負担を軽減する |
ICT技術は、単なる機器導入ではなく「人・組織・資金」のトータルマネジメントが必要不可欠です。
まとめ
ICT土木施工は、生産性向上や安全性強化に不可欠な技術であり、今後の業界標準になると考えられます。
また、導入時には初期コストや教育体制の整備が必要です。未来の土木現場づくりに向け、段階的なICT技術の導入を検討しましょう。