アスベスト調査の重要性と法規制:建設業界が今知るべきポイントを解説

アスベストは、建築資材として広く使用されていた鉱物繊維です。断熱性や耐久性に優れていたため、多くの建物で使われていました。しかし、吸引による健康被害が明確化、深刻化したことから現在では使用を禁止されている状況です。
建築物の解体や改修においては、アスベストが含まれているかどうかを事前に調査し、適切に対応することが法律で定められています。本記事では、アスベスト調査の概要や実施手順、関連法令などについて詳しくみていきましょう。
アスベスト調査とは

アスベスト調査とは、本調査と事前調査を含んだ建物内のアスベストの有無を計測する調査のことを意味します。アスベスト調査には「事前調査」と「本調査」の2段階があり、以下のような違いがある点は知っておきましょう。
- 事前調査は、アスベストが「使われている可能性があるかどうか」を確認するための初期調査。主に資料確認・目視確認が中心で、非破壊で行われる
- 本調査は、アスベストの「含有の有無を確定させる」ための調査で、サンプリングと分析(主にJIS A 1481に準拠)が行われる。破壊検査を伴う場合もある
知っておきたいアスベスト調査の流れ
アスベスト調査の流れは以下のとおりです。
- 事前調査の実施
建築年・設計図書・仕上げ表などの資料を確認し、現地で目視調査を行う。アスベストが使われている可能性のある建材や部位を洗い出す
- 必要に応じて本調査へ
事前調査で「含有の可能性あり」とされた建材があれば、本調査を実施する。サンプルを採取し、JIS規格に基づく分析でアスベストの有無を確定する。
- 調査結果の整理・報告
含有の有無・種類・含有率・飛散性などをまとめた報告書を作成する。除去計画や行政届出の根拠となる
- 必要な対応の決定と届出
アスベストが確認された場合は、除去・封じ込め・囲い込みなどの方針を決定。大気汚染防止法などに基づき、所定の届出を行う
届出に関わる大気汚染防止法では、作業開始14日前までに都道府県に「石綿含有建材の除去作業実施届出書」の提出が定められています。
アスベスト事前調査の目的
アスベスト事前調査の目的は、以下3つです。あくまでも含有の可能性を確かめることが目的の大部分であるものの、健康や法令、スムーズな工程のために実施される点を意識しなければなりません。
1. 健康被害の未然防止を行う
アスベストの飛散リスクを検証する。仮に、吸引した場合には、作業員や周辺住民が深刻な健康被害を受ける可能性があるため。アスベスト含有の建材を把握し、周辺の住民も含めて被害を防ぐことが目的
2. 法令遵守と社会的責任を果たす
「石綿障害予防規則」や「大気汚染防止法」などによって、アスベスト調査と結果に基づく適切な対応が法的に義務付けられている。2022年4月には「建築物石綿含有建材調査者」の資格制度が作られ、原則として有資格者が調査を行う必要がある。
法的罰則や損害賠償のリスクを発生させないことが目的
3. 工事工程の安全・円滑な進行を行う
工事計画をより現実的に立案し、遅延やコスト超過を未然に防ぐ。アスベストの存在を見落としたまま工事を開始すると、後から発見された際に工事の中断、工程の大幅な見直しが発生する。
アスベスト本調査における3つの目的とは
アスベスト調査は、建築物の解体や改修工事前に、建物内でアスベスト(石綿)を含有する建材が使用されているかどうかを確認するために実施されます。調査を実施することで、アスベスト含有建材の有無を事前に把握し、必要に応じて適切な除去や封じ込め、囲い込み措置を講じることができます。
ここでは、アスベスト調査の目的について詳しくみていきましょう。
1. アスベストの有無を確定する
本調査の最大の目的は、建材にアスベストが実際に含まれているかどうかを明確にすること。本調査では建材を採取し、JIS規格(JIS A 1481)に基づく分析によって「含有の有無」や「種類」、「含有率」を科学的に証明する
2. 法令対応の根拠となる情報を得る
調査結果は、大気汚染防止法や石綿障害予防規則などに基づいて各種届出や作業管理の根拠資料になる。たとえば、アスベストを含む建材を「除去」する場合には、事前に行政への届出が必要
3. 工事対応の方針を決定する
アスベストが含まれていた場合に、除去するのか、封じ込めや囲い込みにするのかといった具体的な対応方法を決めるための判断材料になります。
含有量や建材の飛散性(レベル1〜3)に応じて、必要な安全対策や工法を検討することができます。
アスベスト調査対象となる建材と建築物
アスベストは、耐火性・断熱性・耐久性に優れた特性から、さまざまな建材に使用されてきました。代表的な対象は以下のとおりです。
- 吹付け材:鉄骨の耐火被覆などに使用。飛散性が非常に高い
- 保温材・断熱材:配管やボイラー周辺に巻き付けまたは吹き付けられたタイプ
- 成形板類:押出成形セメント板、窯業系サイディングなど、住宅の壁や天井材に多用された
- スレート系建材:屋根材や外壁の波板など。耐候性があり工場・倉庫にも多く使用された
- 接着剤・パテ類:下地処理材や仕上げ材にアスベストが含まれていた例もある
- 床材:クッションフロアの接着剤や裏打ち材にも含有事例がある
建材に含有されている見た目では判断できないため、建築年や設計図書、使用メーカーなどを総合的に確認する必要があります。
調査対象となる建築物は、1970〜80年代初頭に建てられたもの(築20年以上)に多く、とくに以下のような条件であれば、アスベスト調査は必須だといえるでしょう。
- 昭和50年代以前の建築物
- 学校・病院・ビル・工場などの大規模施設
- 建設ラッシュ期の集合住宅
- 図面や仕様書にアスベスト使用が示されているもの
また、解体や改修を行うすべての建物が調査対象であり、用途や規模を問わず法的に事前調査が義務付けられています。
アスベスト事前調査と本調査の違い
アスベスト事前調査と本調査の違いは以下のようになります。そもそも目的が大きく異なるため、手法や調査後の対応まで異なる点は知っておきましょう。
項目 | 事前調査 | 本調査 |
目的 | アスベストが「使われている可能性」を判断する | アスベストが「実際に含まれているか」を確定する |
手法 | 図面・仕様書の確認、目視調査、ヒアリングなど | 建材の採取と分析(JIS A 1481に基づく) |
調査の範囲 | 建物全体の使用状況のスクリーニング | 事前調査で「可能性あり」とされた建材のみ対象 |
破壊の有無 | 原則非破壊(建材を壊さない) | 原則破壊(サンプル採取のため一部破壊) |
調査者の資格要件 | 建築物石綿含有建材調査者(2022年~必須) | 分析は石綿分析登録機関、採取は調査者が担当 |
結果の性質 | 判断の参考資料(可能性ベース) | 法的根拠となる確定データ |
活用場面 | 本調査の必要性判断、工事見積の前提 | 行政届出、除去計画、作業計画などの正式資料 |
まとめ
アスベスト調査は、建築物にアスベストが含まれているかを確認し、安全かつ適法に解体・改修を行うために行われます。調査は事前調査は可能性の判定、後者は科学的確定が目的です。
含有が確認された場合は、除去や封じ込め等の対策と法的届出が求められます。調査対象は建築年や用途を問わず広範囲にわたります。アスベスト調査は健康被害の防止と円滑な工事に必須な対応だといえるでしょう。