建設業界の未来の一端を担う女性技能者の活躍:(一社)女性技能者協会が目指す姿とは【後編】

建設業界における女性技能者への理解を促進し、女性の労働環境の整備やこれから建設業界に入ることを希望する女性の後押しをするため、一般社団法人 女性技能者協会を立ち上げた前中氏のインタビュー。前編では、これまでの前中氏のキャリアと一般社団法人の立ち上げに至るストーリーを伺いました。後編では、女性技能者協会の活動内容と建設業界で女性が活躍する未来の展望についてお聞きします。

▼前編の記事はこちら

建設業界の未来の一端を担う女性技能者の活躍:(一社)女性技能者協会が目指す姿とは【前編】

建設業界で活躍する女性技能者は、全体のおよそ4%。過去に比べると少しずつ女性が進出し、その理解も広がっている一方で、まだ完全には女性が働きや… more

ビルドアップニュース

未来の技能者を育てる!女性技能者協会が発信する、ものづくりと建設業の魅力

-前中さんが代表を務める一般社団法人 女性技能者協会の活動内容を教えてください。

技能者として働く魅力の発信活動として、子ども向けのワークショップを実施しています。これまで15回ほど開催し、参加者は延べ1,000人。講師は女性技能者が務め、人に教えることで講師自身の成長にもつながっています。ものづくりの楽しさをPRしつつ、一人でも多くの子どもが技能者の世界に興味を持ち、それを理解してくれる保護者の方が増えれば嬉しいと考えています。

また女性の技能者と会う機会が少ないという声の解決に交流会を開いて、その中で皆さんが感じている課題を聞き取る事を行っています。交流会には様々な立場の方にも参加していただく事もあり、大学の修士学生が「女性技能者の働き方」をテーマに論文を書いてくれました。その事は、私たちが目指す課題の解決への近道になるのではないかと考えています。

技能者の仕事はとても楽しいので「ぜひ仲間になってほしい」と発信しながら、実際に業界に入ってきた女性が長く定着して働ける環境を整えるため、日々取り組みを続けています。

-建設業では近年、DXによって業務効率化や新しい価値を生む動きが広がっています。前中さんが取り組む教育の観点から見て、デジタルツールと建設業の組み合わせが相乗効果を生んでいる事例などはありますか。

熟練工の技術を若手に継承するため、すでに現場から引退した高齢の職人と若手の職人をオンラインでつなぎ、カメラを使って塗装の仕方などを遠隔で指導する取り組みがあります。近年は建設現場の職人が高齢化し、後継者問題なども深刻になっていますが、熟練工の培ってきた技術・技能は必ず後世へと伝えていかなければならないものです。

実際、現場で働く若手の職人からも「もっと熟練の技を教わりたい」という声をたくさん聞いている中で、デジタルツールを活用して遠隔で技術が学べるのは非常に良い取り組みだと思います。

技能者の世界はアナログで、人の手でしかできないことが多いのは確かです。しかし、デジタルツールによって新しい可能性を生み出せる分野はまだまだ残っています。建設DXがそういった未開の部分を広げていく未来は非常に楽しみですね。

女性技能者が活躍し続けられる建設業界を目指して

-男性が多い建設現場で働く中では、これまで苦労も多くあったことと思います。女性が自分らしさを発揮しながら活躍し続けるためには、建設業界がどのように変化すれば良いと思いますか。

女性はどうしても出産や子育てというライフイベントがあり、それをきっかけに技能者を続けられなくなる方も多い印象です。その一番のネックとなっているのは、現場が遠い場合に保育園のお迎えに間に合わないことです。かといって時短勤務も難しいため、働く場所が日によって変わる建設業界ならではの悩みだと思います。

近場の現場中心で働くのは現状では困難ですが、もしマップ上で近隣の現場と技能工をマッチングできるようなシステムがあれば、使いたいと考える女性技能者は多いのではないでしょうか。どこにどの職種が足りていないのかが一目でわかれば、自宅から近い現場で働くことも可能になるのではと思います。

また業務面では、電気工事という仕事は図面通りに施工をするのが基本の流れです。ただ、工事に必要な材料が非常に多く、材料の管理や発注の手間が煩雑で時間を取られている状況があります。今後、材料をスマホやアプリで管理できたり、図面を読み込ませれば材料の拾い出しや必要数がわかるようなデジタルツールが出てくれば、電気工事の仕事がかなり楽になる気がします。

-女性技能者協会の今後の展望についてお聞かせください。

子どもたちを対象としたワークショップは引き続き開催したいですね。ものづくりの楽しさを伝えることはもちろん、講師である女性技能者にも毎回新鮮な学びがあって、チャレンジや成長の場にもなっています。

あとは「技能者1万人に会うこと」です。現在、技能者全体では13万人ほどが存在しているらしいのですが、そのうち10%にあたる人数ですから会うのは可能だと信じています。ちなみに、今までは300人ほどにお会いしてきました。色々な方のお話を聞いて得た情報をまとめて、みんなが困っていることは解決したいですし、「この仕事っていいな」という部分は広く発信していきたいと思っています。

-最後に、女性技能者と読者の皆様へメッセージをお願いします。

女性技能者協会の設立当初から、私は一貫して「共感する人全員が会員になってほしいとは思わない」というスタンスを表明してきました。もちろん、女性技能者同士で知り合ってつながりを作ることは大切です。しかし、つながらなくても「こんな団体がある」という事実だけで一つの心の支えになれるだろうと考えています。

人手不足が深刻化する建設業界において、女性技能者の存在は業界の未来の一端を担うといっても過言ではありません。建設業界が魅力的なものとなり、一人でも多くの若者が技能者を目指すようになれば、業界全体の活性化につながります。

「女性が建設現場を変える」という女性技能者協会のミッションのもと、女性が定着できる環境づくりや課題解決に向けた取り組みを今後も続けていきたいと思います。

まとめ – BuildApp 編集部感想 –

まだまだ女性が少数派である建設現場で、自らの技能を武器に20年にわたり活躍している前中さん。「女性には無理だと言われたり、キャリアの中で大変なこともあったけれど、女性も電気工事士として仕事ができることを証明できた気がする」という前向きな言葉が心に響きました。

女性が働きやすい建設現場づくりの支援や、子どもたちに向けてものづくりの魅力を発信し続ける女性技能者協会。今後の活動にますます期待が高まります。

HOME | 一般社団法人女性技能者協会

note|一般社団法人女性技能者協会

instagram|一般社団法人女性技能者協会