建設業界の未来の一端を担う女性技能者の活躍:(一社)女性技能者協会が目指す姿とは【前編】

建設業界で活躍する女性技能者は、全体のおよそ4%。過去に比べると少しずつ女性が進出し、その理解も広がっている一方で、まだ完全には女性が働きやすい職場環境が整備されていないのが現状です。

今回は、女性技能者が安心して仕事を続けられるような支援を目的として設立された団体「一般社団法人 女性技能者協会」代表理事の前中氏にインタビューを行いました。インタビュワーは、「誰でも簡単に現実(3D)を共有できるツールの提供を通じて、生産性向上とクリエイティビティの解放を支援する」nat株式会社の若狭氏です。

人手不足が加速する建設業界において、女性技能者はその課題解決の大きなカギを握る存在です。そんな女性技能者の実情や協会の未来について語りました。

プロフィール

©品田裕美

前中 由希恵 氏(一般社団法人 女性技能者協会 代表理事/なないろ電気通信株式会社)

1986年生まれ、第1種電気工事士。工業高校で色染工学を学ぶも、希望の職業に就くことが叶わず、卒業後にアルバイトで電気工事の世界へ。

2021年に「現場の声」を集め、技能者が働きやすい環境を作る為にクラウドファンディングに挑戦。182名の支援と達成率300%超えで一般社団法人 女性技能者協会を設立した。

HOME | 一般社団法人女性技能者協会

note|一般社団法人女性技能者協会

instagram|一般社団法人女性技能者協会

若狭 僚介 氏(nat株式会社)

神奈川県横浜市出身。青山学院大学社会情報学部卒業後、市場調査会社にて事業会社や広告代理店の様々なマーケティング業務に従事。

2022年1月にnat株式会社に参画。セールス部門、マーケティング部門の責任者を経験した後、現在は社長室にてScanatの事業推進を横断的に担当。

電気工事士歴20年、現場での挑戦と女性技能者の前に立ちふさがる壁

-まずは前中さんのこれまでのご経歴について教えてください。

私は電気工事士として約20年、建設業界で働いてきました。とはいえ、最初から電気工事士を目指していたわけではありません。工業高校に通っていた頃は色染工学を学んでおり、できれば繊維系・アパレル系の仕事に進みたかったのですが、私の卒業年がちょうど就職氷河期と言われる世代で希望の職に就くことができませんでした。

卒業後はどうしようかと迷っていたとき、親の知り合いで電気工事士の親方が「アルバイトで働きに来てみないか」と誘ってくれました。最初はアルバイト代を目当てに行ってみようと思ってこの業界に入り、気づけば20年も続いています。

-声をかけてもらってアルバイトとして入ったのがきっかけだったんですね。当時はどんな仕事内容だったのでしょうか。

ゼネコンの大きな現場に入って、ひたすら電気工事をしていました。アルバイトのときは照明器具の箱をばらす要員として行っていましたが、徐々に先輩と一緒に高所作業車に乗って照明器具を取り付ける手伝いをしたり、電線をつなぐ圧着作業を見たりして、色々と勉強をさせてもらいました。資格を取った後は住宅系や公共工事にも入らせていただいて、様々な現場で経験を積んでいきました。

-20年前は今よりもさらに女性の割合が少ない時代だったと思います。建設現場に入った率直な感想はどのようなものでしたか。

とにかく珍しい存在でしたから、注目されましたし「なぜこの仕事をしてるの?」とほとんどの人に聞かれました。現場に入って最初に言われたのは「電気工事は女性には難しい仕事だ」ということです。これはとてもショックでしたね。

でも身近な先輩たちは色々な作業を経験させてくれましたし、「やらせてもらえるから私がいてもいいのかな」という思いと「女性には無理と言われたから、いてはいけないのかな」という複雑な気持ちを抱えていました。

ただ、人の手によって建物の中がどんどん完成していく様子が面白かったことと、作業がうまくできたときは先輩たちが褒めてくれるので「私にもこの仕事ができるかもしれない」と思いました。

-現場の仕事を行う中で、ロールモデルになるような女性の職人さんはいましたか。

あるスーパーゼネコンの現場に行ったとき、左官屋さんが女性2人でチームを組んで現場を回していました。その当時は経験が長い女性は現場におらず、私よりも2年から5年ほど先輩という比較的キャリアが近い方ばかりで、お互いが置かれている状況も似たものがあって非常に心強かったですね。

仕事の共通の話題や困っていることなどの話題で共感できる人がいて、中には今でも仲良くしている女性の職人さんもいます。10年後の将来像はなかなか描きづらいのですが、少し年上の先輩の姿を見て近い将来像を描くことができたのはありがたかったです。

私たちの世代で長く続けている女性の職人さんたちは、これから入ってくる人たちのロールモデルになれると思います。「興味があるけどできるか不安だな」という女性が一人でも減るように、できる限り環境を整えて目指してもらえる存在になりたいと思っています。

建設業界の未来を創造するため、女性技能者協会を立ち上げた

-2021年に設立した「一般社団法人 女性技能者協会」について、立ち上げの経緯をお聞かせください。

コロナ禍では女性の失業率が男性よりも高かったというニュースを見て、女性が職を選ぶ際の選択肢が男性よりも少ないのかもしれないという思いがありました。実際、建設業界の女性技能者は4%ほどと非常に少数派です。ただ、私自身「女性は珍しいね」と言われる中で20年ほどこの仕事をしてきて、最近では女性が増えてきた実感があり、女性向けの会があってもいいのではと思うようになりました。

「女性技能者同士の横のつながりを広げたい」という考えのもと、クラウドファンディングで「女性技能者協会を作ります」と呼びかけ、182名の方に支援いただきました。当初の目標に対して327%という賛同をいただき、一般社団法人 女性技能者協会の立ち上げに至りました。

-様々な資金調達方法がある中で、なぜクラウドファンディングを選んだのでしょうか。

私は一人で「女性技能者協会を作ろう」と思い立ったため、率直に周囲の反応を知りたいと考えました。誰にも必要とされていないものを作るのでは意味がありませんから、クラウドファンディングで世間から女性技能者協会がどれくらい必要とされるのかを試したかったのが大きな理由です。「これで成功しなかったら、最初から必要のないものだったんだ」と諦めがつくと思いました。

クラウドファンディングで支援してくださったのは、友人や同業者など周囲の人たちが多かったです。私は以前からInstagramで自分自身の仕事に対する考えを発信し続けてきましたが、それを見て共感した人や、応援したい・自分も何かできるかもしれないと思った人たちが支援してくれたのではと思っています。

女性技能者同士が横のつながりを広げていくことはとても大事だと思いますし、現場で出会う女性たちも「他の女性技能者にはほとんど会ったことがない」と話す人が多いです。全国で頑張っている女性たちがいることを見える化し、つながりを広げて女性が働きやすい環境づくりを支援する場として協会を設立しました。

-ここまで、前中氏のキャリアや一般社団法人の立ち上げに至るまでの背景を伺いました。後半(2025年3月26日公開予定)では女性技能者協会の具体的な活動内容と、今後の展望についてお聞きします。

▼後編の記事はこちら

建設業界の未来の一端を担う女性技能者の活躍:(一社)女性技能者協会が目指す姿とは【後編】

建設業界における女性技能者への理解を促進し、女性の労働環境の整備やこれから建設業界に入ることを希望する女性の後押しをするため、一般社団法人 … more

ビルドアップニュース