大成建設、数値解析による遮音性能予測システムを開発、実験不要で10分の1のコストに

大成建設株式会社(相川善郎社長)は、建物の壁や窓の防音性能を高い精度で予測できる新しいシステム「TSounds-Lab(ティーサウンズ・ラボ)」を開発しました。このシステムは、実際の実験を行うことなく、コンピューターによる数値解析だけで建材の遮音性能を正確に評価することができます。
目次
建物における防音性能の重要性
現代の建物には、適切な防音性能が求められています。特に以下のような場所では、防音対策が重要です。
・電車の通る線路沿いの建物
・交通量の多い道路に面した住宅
・建物内の機械室に隣接するオフィス
・騒音を発生する施設の近くの居住空間
これらの場所では、外部の音が室内に入り込まないよう、壁や窓に十分な遮音性能が必要とされます。そのため、建物の設計段階で、完成後の室内の静けさを予測し、目標とする騒音レベルを達成できる建材を選ぶことが不可欠です。
従来の評価方法が抱える課題
これまでの遮音性能の評価は、主に実物大の実験によって行われてきました。この方法では、実際の大きさの壁や窓を製作し、専用の実験室で測定する必要があり、一つの建材の評価に1か月以上の時間と多額の費用がかかっていました。
一方、コンピューターを使った数値解析による予測も試みられてきましたが、計算に多くの時間を要することや、実験結果との整合性が十分でないことから、実際の設計にはあまり活用されていませんでした。
TSounds-Labがもたらす3つの特長
大成建設が開発した新システムには、3つの重要な特長があります。
■特長1:効率的な評価を実現
・実験と比べてコストを10分の1に削減
・評価に必要な時間を8分の1に短縮
また、様々な材料の組み合わせを簡単に検討できるため、設計の選択肢が大幅に広がります。
■特長2:高い予測精度
・公式規格(JIS規格)に準拠した評価が可能
・実験による測定と同等の精度を実現
コンクリート壁、防音壁、窓ガラスなど、多様な建材に対応できることも大きな利点です。
■特長3:詳細な音響分析
・特定の方向から入ってくる音への対応が可能
・高層ビル特有の音の問題も予測可能
建物の場所や環境に応じた最適な防音設計を実現できます。
高度な技術を支えるシステムの仕組み
TSounds-Labは、精密な計算過程を経て遮音性能を予測します。まず、壁を構成する材料(石こうボード、骨組み、支持材など)をコンピューター上で詳細に再現します。次に、音が当たった時の壁の振動を計算し、壁から放射される音を解析します。そして、独自の計算方法を用いて遮音性能を算出します。
実証された信頼性
大成建設の技術センターでは、本システムの信頼性を徹底的に検証しました。様々な建材での予測値と実験値の比較、特定方向からの音に対する予測精度の確認、JIS規格に基づく性能評価との整合性の確認など、多角的な検証を行いました。その結果、TSounds-Labによる予測が実験と同等の精度を持つことが確認されています。
さらなる発展に向けて
大成建設は、本システムを以下のような用途で活用していく予定です。
・住宅の防音設計
・オフィスビルの快適環境づくり
・工場の騒音対策
・新しい建材の性能評価
TSounds-Labの開発により、建物の防音設計はより効率的で正確になり、より快適な建築空間の実現が期待されます。
技術的補足
JIS規格 A 1416:2000は、実験室での壁部材などの遮音性能測定に関する規格です。2つの音響試験室の間に建材を設置し、様々な方向からの音に対する遮音性能を測定します。TSounds-Labは、この規格に準拠した評価を、数値解析によって実現しています。
出典情報
大成建設株式会社リリース,建築部材の遮音性能予測システム「TSounds®-Lab」を開発-数値解析を用いて低コスト・短時間・高精度に遮音性能を評価-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250128_10307.html