維持管理とは|メンテナンスとの違いやインフラDX事例
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「維持管理」についてピックアップします。建物やインフラ設備においては、適切な維持管理を行うことで快適な環境を保ちやすくなります。本記事では維持管理の主な内容を、住宅とインフラ設備の両方から解説します。
維持管理とは
「維持管理」とは、建物や設備、インフラなどを適切な状態で長く使い続けるために行う一連の作業のことを指します。具体的には定期的な点検や清掃、修繕、更新作業などが含まれ、資産価値を保ち安全性や快適性を確保するために重要です。
維持管理を適切に実施することで建物や設備の寿命を延ばし、コストを抑えることにつながります。また最近では「持続可能な社会」の実現を目指し環境負荷を低減する観点からも、維持管理の適切な実施が注目されています。
維持管理とメンテナンスとの違い
維持管理と似た言葉として「メンテナンス」があります。しかし「維持管理」は全体の運用計画や管理を含む広い概念で、「メンテナンス」はその中に含まれる具体的な点検作業や実務のことを指すという違いがあります。
例えば建物を10年間良好な状態に保つための計画を立てて定期点検や清掃、修繕スケジュールを管理するのは「維持管理」で、フィルターを清掃したり部品を交換したりして、空調機器が適切に動作するように保つのは「メンテナンス」に該当します。
維持管理の種類①建物
ここでは、維持管理の「建物」に関する種類についてご紹介します。
公共施設
公共施設とは、学校、病院、市役所、図書館、文化施設などの多くの人が利用する建物のことを指します。これらは公共の福祉や社会サービスを提供する場であるため、機能性と安全性を確保することが最優先です。
具体的には定期的な点検や清掃に加えて、バリアフリー対応や防災設備の整備が求められます。特に耐震補強や省エネ改修といった長期的な視点を持った維持管理が重要であり、限られた予算内で効率的に計画を立てることも重要です。
ビル
オフィスビルや商業ビルでは、テナントや利用者の満足度を高めるための維持管理を行うことが重要です。エレベーターや空調設備の正常な動作はもちろんのこと、共用スペースの清潔感を保つ業務が含まれます。
さらにセキュリティ対策や防犯カメラの点検など、安全を確保する仕組みも欠かせません。ビルは長期的な資産価値を維持する必要があるため、外壁の修繕や屋根の防水工事、さらには省エネ型の照明や空調への更新も計画的に行われます。また、災害時の対応計画や耐震補強工事の実施も重要です。
マンション
マンションでは安心して暮らせる環境を維持するため、共用部分と専有部分の両方にわたる管理が必要です。共用部分ではエントランス、廊下、エレベーターなどの清掃や修繕、さらに防犯カメラやオートロックの点検が主な対象となります。
また大規模修繕計画に基づき、外壁や屋上防水、給排水管の更新工事を定期的に実施します。居住者間で共有する設備の維持費は管理費や修繕積立金で賄われるため、適切な資金計画も求められます。最近では、省エネ化や防災対策を考慮した管理も注目されています。
一戸建て住宅
一戸建て住宅では一般のお施主様自身が維持管理を行うことが多く、建物全体の状態を把握する必要があります。具体的には外壁や屋根の数年ごとの塗装や防水工事、給排水管や空調設備の定期点検等が含まれます。不具合があれば早期に修繕することで、大きなトラブルを回避できます。
また庭や外構部分の清掃や手入れも、一戸建て特有の維持管理項目です。最近では、太陽光パネルのメンテナンスや断熱性能を高めるリフォームも注目されています。対応が難しい場合は、専門業者に依頼するケースもあります。
維持管理対策等級とは
日本では「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく「住宅性能表示制度」において「維持管理対策等級」が定められています。これは建物の構造や設備の修繕や維持管理のしやすさを評価する基準で、主に住宅の長寿命化を図り、将来的なメンテナンスやリフォームを容易にすることを目的としています。
具体的には、下記10分野での等級が設定されています。
- 1. 地震などに対する強さ
- 2. 火災に対する安全性
- 3. 柱や土台などの耐久性
- 4. 配管の清掃や補修のしやすさ、更新対策(維持管理・更新への配慮)
- 5. 省エネルギー対策
- 6. シックハウス対策・換気
- 7. 窓の面積
- 8. 遮音対策
- 9. 高齢者や障害者への配慮
- 10. 防犯対策
上記のうち「4. 配管の清掃や補修のしやすさ、更新対策(維持管理・更新への配慮)」が、維持管理に該当します。
【参考】㈳住宅性能評価・表示協会|住宅性能表示制度とは
維持管理対策等級の基準・項目
維持管理対策等級は、下表のように3段階で評価されます。
等級 | 内容 |
---|---|
等級1 | 等級2に満たないもの |
等級2 | 下記a+b |
等級3 | 下記a+b+c |
- a.共同住宅等で他の住戸に入らずに専用配管の維持管理を行うための対策
例)他の住戸の専用部分に当該住戸の配管をしないこと
- b.躯体を傷めないで点検及び補修を行うための対策
例)配管が、貫通部を除き、コンクリートに埋め込まれていないこと
- c.躯体も仕上げ材も傷めないで点検、清掃を行うための対策
例)点検等のための開口や掃除口が設けられていること
維持管理対策等級は、新築住宅を購入する際の重要な判断材料であり、将来的なメンテナンス費用や快適性を左右するため、事前に確認しておくことが推奨されます。
維持管理対策等級のメリット
すべての住宅で最高基準の維持管理対策等級を満たす必要はありませんが、住宅計画時に一定の基準をクリアしておくことで下記のメリットがあります。
長期優良住宅の認定基準を満たせる
維持管理対策等級を高めることで、住宅が「長期優良住宅」の認定基準を満たしやすくなります。長期優良住宅とは耐久性やメンテナンス性に優れた住宅を促進する制度で、認定を受けることで税制優遇や住宅ローン控除の拡充などのメリットが得られます。
具体的には配管や設備の点検・修繕のしやすさが重要視されており、認定を受けることで住宅の資産価値が向上します。さらに、将来的なリセール時にも有利になる可能性があります。
【参考】㈳住宅性能評価・表示協会|長期優良住宅とは
メンテナンスがしやすくなる
維持管理対策等級を高めた住宅は、将来的なメンテナンスが容易に行える設計になっています。例えば配管や設備が点検しやすいルートで設計されていることで、必要に応じて部分的な交換や修理がスムーズに行えるのが特徴です。
これにより修繕時のコストや手間を抑えられ、住まいの快適性を長期間維持できます。また点検口の設置や配管スペースの確保により、設備の劣化や不具合を早期に発見できる可能性も高まるのがメリットです。
維持管理の種類②社会インフラ
ここでは、維持管理の「社会インフラ」に関する種類についてご紹介します。
河川
河川の維持管理は、洪水や水害を防いで周辺地域の安全と環境保全を確保するために行われます。具体的には、堤防や護岸の点検や補修、河川内の土砂やゴミの除去が含まれます。
また河川の流れを妨げる樹木の伐採や、水質汚濁を防ぐためのモニタリングも重要な役割です。近年では、生態系の保全や景観向上を目的とした「自然共生型河川」の整備も進められています。
下水道
下水道は、生活排水や雨水を安全に処理して衛生的な環境を保つために重要なインフラです。維持管理としては、排水管やマンホールの点検・清掃、老朽化した設備の修繕や更新が含まれます。
処理施設では、適切な水質管理や機器のメンテナンスが不可欠です。近年では人口減少に伴う利用量の減少や施設の老朽化に対応するため、効率的な管理方法やAIを活用したモニタリング技術の導入も進められています。
高速道路
高速道路の維持管理は、交通の安全性と円滑な流れを確保するために重要です。道路舗装のひび割れや劣化を修繕するほか、トンネルや橋梁の点検・補強が含まれます。
特に橋梁やトンネルは老朽化が進む中で、耐震補強や大規模な更新工事が必要です。さらに道路沿いの防音壁や植栽の手入れも、快適性向上に貢献します。最近では維持管理コストの削減と効率化を目指し、ドローンやセンサー技術を活用した点検も注目されています。
公園
公園の維持管理は、地域住民が快適で安全に利用できるような環境整備を行うことを目的としています。具体的には植栽の手入れ、遊具の点検・修理、清掃作業が主な業務です。
特に遊具の安全性は重要で、定期的な点検と劣化部分の修繕が必要です。またベンチや照明設備の修理、ゴミ箱の設置状況の確認も行われます。最近ではバリアフリー化や多目的広場の整備といった多様なニーズに対応した管理が進められており、地域コミュニティと連携した活動も増えています。
維持管理の課題・デメリット
維持管理を行うことは重要ですが、いくつかの課題やデメリットも存在します。
費用が掛かる
維持管理には定期的な点検、修繕、更新作業が必要であり、一定の費用が掛かるのがデメリットです。特に老朽化が進んだ建物や設備の維持管理では、修繕費が高額になることがあります。
ただし維持管理対策等級が高い住宅や施設ほど初期費用は高くなりますが、その後のメンテナンスが簡単になるため、長期的にはコストを抑えられる可能性もあります。このように建物の計画時には、長い目で見たコストパフォーマンスを考慮する必要があります。
過疎地域での人手不足
過疎地域では、人手不足が深刻です。地方における人口減少が進む中、維持管理作業を担う業者や技術者の確保が難しくなっているのが課題です。
これにより施設やインフラの維持管理が滞ることがあり、修繕の遅れや施設の劣化が進む恐れがあります。このような状況は、結果的に地域社会全体に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
インフラ維持管理のDX最新技術
インフラ維持管理の課題解決を図るために、最新技術の導入が進められています。ここでは、具体的な事例についてご紹介します。
BIM/CIM|ダム情報を一元管理
鹿島建設は、ダム建設におけるBIM/CIMモデルを用いた施工計画・施工管理データの一元管理システムを開発しました。具体的には品質管理・施工管理の情報を汎用性の高い表計算ソフトやCADソフトによって、クラウドサーバ上で一元管理します。
これにより迅速な情報共有が実現し、施工計画の最適化・品質向上を推進することで円滑な工事進捗に貢献しています。また、維持管理業務の省人化にもつながっているのが特徴です。
ドローン|施設点検
アイ・ロボティクスは、東京ソラマチにおける商業施設の施設維持管理業務において、ドローンやロボットを用いた点検を行いました。その結果、点検調査における有効性を実証しました。
具体的には通常の目視や従来の技術では到達が難しかった施設内の狭隘部、特に天井裏や狭小空間において、マイクロドローンを使用した詳細な調査を実施しました。これにより、劣化の有無や配線の敷設状況、鉄筋コンクリートの健全度を短時間で正確に把握できることが分かりました。
さらに現場でのリアルタイム映像に加え、三次元データによる詳細な分析を行うことで、従来よりも早期に異常箇所を発見し、迅速な修繕対応を可能にしました。
まとめ
維持管理は建設・土木分野と関わりが深く、長期的な視点での計画が求められます。最近では人手不足も課題となっており、デジタル技術を用いた省人化や効率化がさらに広まることが期待されます。