スモールコンセッションで空き家活用|国交省の取組事例
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トレンドワード:スモールコンセッション
「スモールコンセッション」についてピックアップします。空き家の増加が社会的な課題となっている中で、民間ノウハウを活用した取り組みが注目されています。本記事では国交省による働きかけや、具体的なスモールコンセッションの事例についてご紹介していきます。
スモールコンセッションとは|定義を紹介
国土交通省によると、「スモールコンセッション」の定義は下記のように定められています。
地方公共団体が所有・取得する空き家等の身近な遊休不動産(※1)について、民間の創意工夫を最大限に生かした小規模(※2)なPPP/PFI事業(※3)を行うことにより、地域課題の解決やエリア価値の向上につなげる取組みを指す。
- ※1 廃校等の現在使われていない施設、住民から寄付を受けた古民家等
- ※2 事業費10億円未満程度
- ※3 コンセッションをはじめとした官民連携による事業運営
スモールコンセッションを普及させることにより、遊休公的不動産を「負債から資財」に変えていくのが目的です。さらに民間の空き家活用等との連携やバンドリング等による面的な広がりにより「小さな再生」を連鎖させ、エリア全体の価値向上につなげることを目指しています。
PPP/PFIとの違い
「スモールコンセッション」に関連する言葉として「PPP/PFI」があります。いずれも官民連携の事業形態ですが、目的や規模、柔軟性の面で違いがあります。
「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)/PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)」は比較的規模が大きいことが多く、インフラ整備(道路、上下水道、公共施設など)や公共サービスに民間のノウハウを活用するのが特徴です。
一方で「スモールコンセッション」は小規模なプロジェクトとなっており、地方自治体が所有する空き家や遊休不動産などの身近な不動産を活用します。そのため民間の創意工夫を活かしながら、低予算で実施可能です。地域密着型の課題解決を目指し、地域住民のニーズに沿った柔軟な取り組みが求められます。
スモールコンセッションのメリット
ここでは、スモールコンセッションの主なメリットをご紹介します。
遊休不動産を活用できる
スモールコンセッションでは、地方公共団体が所有する空き家や未活用の遊休不動産を活用するのが特徴です。これにより、放置されていた資産を地域のために再生できます。
未利用の不動産が再活用されることで、管理費の削減や治安の向上、防犯効果といった副次的メリットも期待できます。
ビジネス環境を整備できる
民間企業が参入することで地域に新しいビジネスやサービスが生まれ、雇用や経済の活性化に寄与します。民間企業の創意工夫により新しいビジネスモデルが地域で実現するため、地域全体の事業環境の底上げが図られます。
スモールコンセッションは小規模なプロジェクトなので、リスクが低く参入しやすいのもメリットです。これにより、起業家や小規模事業者も参画しやすい環境が整います。
エリア価値が向上する
遊休不動産が有効活用されて地域の景観が整うことで、エリア全体の価値向上につながります。活動やイベントの拠点が生まれれば、観光客や地域住民にとっても魅力的なスポットが増えて地域の賑わい創出に貢献します。
スモールコンセッションはPPP等よりも手続きや計画の簡略化が可能で、地域のニーズに応じた迅速な取り組みが可能です。地域に即した資源活用やビジネス促進によって、住民にとっても訪れる人にとっても魅力的なエリアが実現します。
スモールコンセッションが注目される背景
ここでは、スモールコンセッションが注目されている背景についてご紹介します。
地方の人口減少
地方都市では少子高齢化が進んでおり、若年層の都市部への流出も重なって人口が減少しています。これにより地域経済が縮小し、地元での新たな産業や雇用の創出が難しくなっているのが現状です。
このような状況の中では、地域を活性化して若者や移住者が暮らしやすい環境を整えることが急務とされています。スモールコンセッションは、地方の状況に合った解決策として期待されているのです。
地方財政のひっ迫・職員減少
地方自治体の多くは財政が厳しい状況にあり、インフラや公共施設の維持管理費用が増える一方で歳入が減少しています。そのため、新たな資金や負担を要する大規模事業は実施が難しいのが現状です。また自治体の職員数も減少しており、十分な人員を割くことが難しくなっています。
その点スモールコンセッションでは、少ない予算と人員で実行可能な点が期待されています。自治体と民間が協力してノウハウを活かすことで、地方自治体の負担軽減に大きく貢献できるのです。
空き家の増加
地方では、人口減少や過疎化の影響で空き家が増加しています。防犯や防災面でのリスクが高くなるだけなく、地域の景観を損ないエリア価値を低下させてしまうのが課題です。
しかしスモールコンセッションを通じて遊休不動産を活用することで、空き家を地域資源として再生させ、地域活性化につなげることが可能です。観光資源やイベントスペースなど、新たな価値創出の手段としても期待されています。
国土交通省によるスモールコンセッションの取り組み
国土交通省では、遊休公的施設を活用した官民連携による地方創生を目的とした取り組みを行っています。具体的には、2024年11月に「スモールコンセッション“未来創造”フォーラム」を実施しています。
イベントを通じて国が主導して機運を醸成する他、ガイドラインの策定や手続きの簡素化、事業化検討への支援強化を行っていく予定です。
スモールコンセッションの事例
ここでは、スモールコンセッションの具体的な事例をご紹介していきます。
岡山県津山市|グラスハウス
岡山県津山市の城東地区は重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸期の商家の町並みが残っています。そのためスモールコンセッション事業により、4棟の伝統的建造物で構成される「旧苅田家付属町家群」が宿泊施設として整備されました。
これにより観光客の誘致、地域のにぎわいの創出と地域活性化、域内需要の拡大が期待されています。現地見学会やサウンディング型市場調査により、民間の声が生かされているのが特徴です。
博報堂|ブランド創出型スモールコンセッション
大手広告代理店の博報堂は、国土交通省が実施している「民間提案型官民連携モデリング事業」でブランド創出型スモールコンセッションに取り組んでいます。具体的には博報堂の「生活者発想」に基づく社会課題解決プロジェクトの実施を通じて、地域ブランドを創出して広く発信します。
プロジェクトの実施にあたってはソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を活用し、地域の住民・行政・事業者・金融機関が一体となったまちづくりを行っています。公有地や公共不動産を活用するために、自社開発アプリの「goodpass」活用やロジックモデル構築、KPI設計等を実施しました。
まとめ
スモールコンセッションを活用することで、民間提案に基づく新たな官民連携が可能になります。特に地方では空き家や遊休不動産が課題となっており、エリア価値向上のための取り組みが注目されています。