建築業のライフサイクルマネジメント(LCM)とは|未来を見据えた建設の取組

掲載日:

著者:小日向

トレンドワード:ライフサイクルマネジメント

「ライフサイクルマネジメント」についてピックアップします。建設業では建設資材の高騰といった理由から、建物の寿命まで考慮した設計ニーズが高まっています。本記事ではライフサイクルマネジメントのメリットや実現方法の他、ゼネコンの取組事例についてご紹介していきます。

ライフサイクルマネジメント(LCM)とは

建築業におけるライフサイクルマネジメント(LCM)とは、建物の企画・設計・施工・運用・メンテナンス・解体といった全ライフサイクルを通じて、建物の資産価値や効率性、環境への配慮を最大化するための手法のことを指します。

ライフサイクルマネジメントを導入することで、建物のライフサイクル全体を見据えた設計や管理が可能になります。この考え方はITや製造業においても重要であり、それぞれの分野で共通点が多いです。

具体的にはメンテナンスや修繕、アップデートのタイミングを適切に管理することで、故障や障害リスクを最小限に抑えられます。各業界でLCMを導入することでコスト削減、持続可能性、品質の向上が可能になり、長期的な経済性と環境保護の両立が実現します。

建築業におけるライフサイクルマネジメントのメリット

ここでは、建築業におけるライフサイクルマネジメントのメリットについてご紹介します。

環境負荷の軽減

建築物の設計・建設から運用・解体までの全ライフサイクルにおいて、ライフサイクルマネジメントを考慮することで環境負荷を大幅に軽減できます。

具体的には高効率な断熱材や省エネ設備の採用により、建物運用時のエネルギー消費を抑えます。またリサイクル可能な材料や再利用可能な資材を取り入れることで、建設時や解体時の廃棄物を減らせるのもメリットです。

長期的なコスト削減

ライフサイクルマネジメントを適用することで、建物のライフサイクル全体を通じてコストを抑えられます。修繕や更新の頻度を減らせる設計にしておけば、長期的にかかるコストを低減できるのです。

また省エネルギー技術を採用することで運用中の光熱費節約にもつながり、経済的負担を軽減できます。長期的なコストを見据えた設計によって、建設費用を合理化することが推奨されています。

建物資産価値の向上

ライフサイクルマネジメントの導入は、建物の資産価値を長期にわたって高める効果が期待できます。高品質の材料や設備を選んで適切なメンテナンスを行うことで、資産価値を向上させられます。

特に環境配慮型の建築物は、持続可能性が重視される社会において高く評価され、売却や賃貸の際にも高い市場価値が維持できます。

ライフサイクルマネジメントが注目される背景・理由

ここでは、ライフサイクルマネジメントが注目されている背景について整理しておきます。

SDGs意識の高まり

近年では、世界的に持続可能な社会を実現するための「SDGs」の重要性が高まっています。ライフサイクルマネジメントによって環境負荷軽減に貢献できるので、建物全体の環境負荷を低減するための戦略として注目されているのです。

そして省エネルギーに関する法規制が強化される中で、建物の運用時におけるエネルギー効率や持続可能性といった項目を満たすためにもライフサイクルマネジメントが重要となっています。

建設資材の高騰

近年、建設資材の価格が急騰しており、建築プロジェクトにおいてコスト管理が重要な課題となっています。短期的なコスト削減だけでなく、長期的な運用・メンテナンスコストも考慮したライフサイクル全体のコスト管理が求められるようになりました。

その点、ライフサイクルマネジメントでは資材の選定から使用方法、廃棄までを一貫して管理できるため、資材の無駄を最小限に抑えられます。これにより、高騰する資材コストの影響を軽減することが可能です。

また資材価格が高騰する中、ライフサイクルマネジメントによって建物を長期間使用できる設計が重要視されています。初期コストは高くても、長期的に資材の更新頻度を抑えられればトータルコストの削減につながるのです。

BIMで維持管理が容易になった

建築業界でのBIM(Building Information Modeling)の普及により、建物のライフサイクル全体を通じての管理が格段に容易になりました。BIMを活用することで、建物の設計、施工、運用、維持管理のデータが一元化され、ライフサイクルマネジメントの実施が効果的に行えるのです。

具体的にはBIMによって建物の各部位や設備の状態がデジタル化されるため、メンテナンス計画や修繕の必要性を予測しやすくなります。これにより、無駄な修繕を避けて適切な時期にメンテナンスを実施できます。また初期段階での設計だけでなく、運用時や解体時のコスト・環境負荷も総合的に低減できるのが特徴です。

ライフサイクルマネジメント実現の方法

ここでは、ライフサイクルマネジメントを実現するための具体的な方法をご紹介します。建築設計においては、竣工後の「その先」についても配慮した計画ニーズが高まっています。

修繕しやすい設計にする

設備や構造物に簡単にアクセスできるような設計を行うことで、修繕やメンテナンスがしやすくなります。例えば、配管や電気設備に容易にアクセスできるダクトスペースなどが有効です。

また設備や部品をモジュール化することで、劣化した部分だけを簡単に交換できるようになり、修繕コストや作業時間を削減できます。

長寿命の建設資材を使う

建物のライフサイクル全体にわたってコストや環境負荷を低減するためには、耐久性が高くて長寿命の建設資材を使用することが重要です。たとえば耐候性に優れた窯業系サイディングや、腐食しにくいステンレス製の設備等が挙げられます。

長期的なエネルギー効率の向上のためには、断熱性の高い素材を使用するのもおすすめです。これにより、光熱費の削減にも貢献できます。

解体後の再利用も考慮する

ライフサイクルマネジメントでは、建物の解体後を見据えて再利用やリサイクルを意識した設計や建材の選定を行うことが重要です。建設時からリサイクルが容易な資材を選ぶことで、解体時に発生する廃棄物の量を減らして環境負荷を軽減できます。

建築業でのライフサイクルマネジメントの事例

ここでは、建築業でライフサイクルマネジメントの考え方を導入している事例についてご紹介します。大手ゼネコンを中心に、ライフサイクルマネジメントに配慮した建築設計が広まりつつあるのが特徴です。

大林組|「myUpcyclea」で建設資材の循環利用推進

出典:大林組,仏 資源循環データプラットフォーム「myUpcyclea」を活用し、建設資材の循環利用推進に向けた取り組みを開始,https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20241023_1.html,参照日2024.10.29

大林組では、フランスの企業Upcyclea社が開発したデータプラットフォーム「myUpcyclea」を使って、建設資材の環境影響や解体時のリユース可能性を可視化する取り組みを始めました。これにより建設資材を循環させ、環境負荷を減らすことを目指しています。

大林組ではこれまで既存の建物を活用してリノベーションや耐震改修を行ってきましたが、内装材や設備のリユースは難しく、多くが廃棄されていました。しかし資源の再利用を進める「サーキュラーエコノミー」への移行が求められる中、より効率的にリユースを進めるために、myUpcycleaを導入することになりました。

具体的には建設資材の環境性能(CO2排出量、水使用量、リサイクルのしやすさなど)を比較し、データを見える化します。さらにAIを活用して解体現場のリユース可能な資材と新築現場での資材需要を結びつけ、資源の効率的な循環を促すのも特徴です。

この取り組みを通じて、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)報告にも貢献していく考えです。

大成建設|ライフサイクルマネジメントコンソール

出典:大成建設,LCMC,https://lcmc.jp/,参照日2024.10.29

大成建設では、クラウドを利用した建物ライフサイクル管理サービス「LCMC」(LifeCycle Management Console)を提供しています。業界初のサブスクリプション方式で、巡回点検のデジタル化や遠隔監視により建物管理業務を一元管理できるのが特徴です。

テクノロジーを活用することで、情報のデジタル化やコミュニケーションを推進するのが目的です。シミュレーションによる品質向上を可能にし、やさしさのあるビル運営を実現します。

東急建設|FMoT-DB管理システム

出典:東急建設,FMoT-DB管理システム,https://www.tokyu-cnst.co.jp/technology/1816.html,参照日2024.10.29

東急建設は、施設運用管理、営繕保全業務を合理的・計画的に改善する「FMoT-DB管理システム」を開発しました。保有施設の運用管理業務におけるあらゆるシーンで活用できるのが特徴で、具体的には営繕工事・設備点検・各種台帳・ファイル(図面・写真・書類)管理等の機能が備わっています。

 操作性(使いやすさ)・汎用性(ユーザー自由度)・経済性(ローコスト)に優れており、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会主催「2008年JFMA技術賞」を受賞しました。

まとめ

ライフサイクルマネジメントを考慮した建築設計を行うことで、環境にやさしい建築が実現します。竣工時だけでなくその後の維持管理・解体といった未来まで見据えた計画により、サーキュラーエコノミーへの貢献が期待されています。