今夏開催のICCEPM(国際会議)での講演「建設現場の痛みと、建設産業の持続可能性」を解説|野原グループ(株)
2024年7月、北海道大学にて第10回ICCEPM(建設エンジニアリングとプロジェクトマネジメントに関する国際会議)が開催されました。本記事では、野原グループ㈱代表取締役社長兼グループCEOの野原弘輔による講演の内容をご紹介します。
第10回ICCEPMが国内初開催
ICCEPM (International Conference on construction engineering & project management)は、建設技術とプロジェクト管理に関する研究と教育を推進する国際的な組織です。2年に1度会議を開催しており、第10回目である「ICCEPM2024」は日本で初開催されました。
これまで海外での開催時はAcademic Paper(学術論文発表)がメインで、民間企業のBusiness Seminar & Workshopは小規模な傾向にありました。しかし今回は「学術と産業界の交流」を掲げ、産業界からのプロダクトや事例を紹介する機会が多く設けられていたのが特徴です。
参加者は建設分野の大学教授や学生の割合が高く、全体で100~150名程度となっていました。アカデミックな国際会議ですが、論文発表だけでなく民間企業の交流の場としても活用されていました。野原グループの他に、Turner & Turner & Townsend・Growup・photoruction・AUTODESK・Cypeといった民間企業が参画しています。大手ゼネコンからもセミナー登壇や聴講に訪れている姿も見られ、活気のある雰囲気が感じられました。
野原グループCEO講演「建設現場の痛みと、建設産業の持続可能性」
ICCEPM2024では、野原グループ㈱代表取締役社長兼グループCEOの野原弘輔による講演が開催されました。「建設現場の痛みと、建設産業の持続可能性」をテーマに、日本の建設産業が抱える課題や施工終盤の専門工事である「内装仕上げ工事業の実態」についての調査結果等についてご紹介しています。
日本の建設業界が抱える課題
まず日本を含めたグローバルな視点では、建設業界全体で「環境問題」が大きな課題になっています。上図は、インドネシアのカリマンタン島・ボルネオ島の熱帯雨林です。
1990~2020年の30年間で、熱帯雨林が半分以下になってしまっているのがお分かり頂けると思います。そして建設産業は、世界のCO2排出量全体のうち約37%を占める大変環境負荷が高い産業です。
一方で日本国内では、生産年齢人口の減少・経済規模の縮小が大きな課題です。結果として、建設業従事者の高齢化や人手不足が加速することにもつながっています。
上図は、建設産業の就業人口推移/予測のデータです。日本の建設産業技能者のピークは1997年に685万人でしたが、現在は452~492万人です。既に、ピーク時から30%以上少なくなっているのが現状です。
そして技能者のうち、4分の1が60歳以上という点も課題です。また20代以下は全体の12%しかいないことから、この後も建設業従事者の数は減っていくことが予測されます。さらに2050年には、ピークから半分以下の320万人になると言われています。
2024年4月には、時間外労働規制の猶予期間が終了しました。日本建設業連合会では「4週8閉所」を推進していますが、まだまだ定着には時間が掛かる見通しです。
そして建設産業の平均労働時間実労働時間は、ほぼ2,000時間近くなっています。これは日本の産業の平均の1,632時間から2割以上多い数字です。また建設業の退職理由としては、「雇用が不安定・作業所が遠い・休みが取りにくい・賃金が低い」が多いです。行政による働き方改革が進んでいますが、まだ現実としては道半ばと言えるでしょう。
国土交通省と厚生労働省は連携して、「処遇改善・働き方改革・生産性向上」を進める施策を行っています。若者や女性の入職や定着の促進にも重点を置き、人材確保や育成をサポートする取り組みです。
問題の構造的な理由
人材確保の取り組みはもちろん大切ですが、建設業の抱える「構造的な問題」も同時に解決する必要があると考えられます。その最たるものは、労働生産性です。上図の産業別労働生産性では、建設産業の労働生産性は2010年以降は少しずつ回復しています。
しかし携わる人の多さやサプライチェーンの複雑さにより、情報が分断されているのが大きな課題です。建設産業の生産性が低い一番の理由は、やはりこの辺りにあると考えられます。つまり、建設プロセスの大きな無駄・不経済があるということです。
例えばゼネコン・設計事務所であれば、設計と施工の不一致があります。見積もりの精査に時間かかったり施工時の待ち時間が非常に多かったり、精算時にトラブルになったりということは、今でも多く発生しています。
また専門工事の会社においては、手戻りの作業が非常に多いのも課題でしょう。調書に値入をしても受注ができないケースが多かったりとか、通量確認のために再見積もりが必要、変更対応をしてから実数量の把握が困難など色々な課題があると思います。
建材メーカー・加工場においても、材料決定までのプロセスが煩雑です。ギリギリまで受注の工事会社が不明なので、スペック設計をしても追い切れないといったトラブルも実際にあります。変更が多いので計画生産ができないというのも、非常に大きな問題です。
このように相互の情報不足や連絡の遅れにより余計な手間やコストが発生しています。さらに日本の建設業界には重層構造が依然として残っており、情報伝達をより困難にしていると考えられます。
専門工事会社は泣いている|独自調査から見えてくるもの
内装仕上げ工事では、従来まで突貫工事で工期に間に合わせるのが常態化していました。しかし2024年4月から時間外労働の上限規制厳格化(2024年問題)が建設産業にも適用され、従来式のやり方では通用しない場面が増えてきています。
こういった現状を踏まえて、野原グループが運営しているBuildApp News 編集部では、専門工事会社を対象に調査を実施しました。調査概要は、下記の通りです。
- 調査期間:2024年5月28日、6月2日
- 調査対象者:野原装栄会・神奈川野原装栄会の正会員(内装仕上げ工事企業)
- 回答数:139名
- 調査方法:WEBまたは調査票配布 (野原グループ株式会社)
- 調査地域:東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県、山梨県
①全体工期の見直しの動きを実際に感じていますか?
「はい」36%、「いいえ」64%
②内装の工期見直しの動きを実際に感じていますか?
「はい」28%、「いいえ」72%
③労務費・労務単価の引き上げを元請け(工事発注会社)に交渉できていますか?
「はい」47%、「いいえ」53%
④労務費・労務単価の引き上げを元請け(工事発注会社)に交渉できていますか?(会社規模別)
- 1~4人(n:23)で43.5%
- 5~50人(n:100)で46.0%
- 51~300人(n:13)で53.8%
- 301人以上(n:3)で66.7%
⑤労務費・労務単価の引き上げ交渉ができていない理由(複数回答)
- 「材料費と異なり労務費は見えない事が多く交渉が難しいから (30.0%)」
- 「元請けと下請けの関係から労務費の交渉は難しいから(23.0%)」
- 「その他(7%)」
⑥元請け(工事発注会社)から、“生産性を向上してほしい”との要請はありますか?
「はい」50.4%、「いいえ」49.6%
調査結果のまとめ
首都圏においては適正工期確保に向けた全体工期の見直しの動きはまだ鈍く、5割強が労務費の引き上げ交渉を実施できてない状況が見えてきました。そのため、処遇改善への道のりはまだまだ遠いと考えられます。
今こそ元請企業の現場監督所長が一体となって、県施工現場の生産性向上を実現していく必要があります。そのためにデジタル活用・建設DXが不可欠であり、野原グループではBuildApp事業で施工プロセスの生産性向上に寄与していきます。
まとめ
北海道大学で開催された第10回ICCEPMでは、多くの建設関係者の交流が見られました。その中で行われた野原グループCEO講演「建設現場の痛みと、建設産業の持続可能性」では、建設業の抱える課題や現場の声をくみ取った提案がなされています。建設業界全体のDX化を推進するためにも、適切なデジタルツールの普及が急がれます。