2025年1月から「建築士サポート体制」の運用開始。仕組みから今後の可能性を解説

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近年では、建築物の省エネルギー化が重要視されています。地球温暖化の進行やエネルギー資源の枯渇など、世界規模で環境規制の動きが加速している状況です。

日本においても、2025年4月からは改正建築基準法と建築物省エネ法が施行されます。その中で、建築士にも省エネ法に準拠した建築物の施工の際に新しい義務が複数課せられることになりました。

そのため、国土交通省は「建築士サポート体制」を構築し、2025年1月には運用すると発表しています。そこで、本記事では、省エネ法に準拠した建築物を施工・解説するための「建築士サポート体制」の概要についてみていきましょう。

「トレンドワード:建築士サポート体制」

出典:国土交通省 住宅局建築指導課 参事官(建築企画担当)付,改正建築物省エネ法・建築基準法の円滑施行に向けた取組について,https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001752257.pdf,20240806

建築士サポート体制とは、建築基準法と建築物省エネ法で必要となる顧客への説明や適合判定書類の作成などの業務をスムーズに行うための制度を意味します。2023年の段階では、岩手県や奈良県など8都道府県で先行実施されており、2025年1月から全国的に運用を開始することになりました。

現状では、次のような内容のサポートが期待できます。

  • 確認申請図書の不備チェック。ただし、適否ではない
  • 構造と省エネに関する助言やアドバイスを派遣やオンライン、来所などで申請図書の相談ができる
  • 講習会やオンラインの案内を聞ける

ただし、サポートする団体によって、マニュアルが異なるためサポート内容の質に差が生じたり、業務量の増加によって対応が煩雑になる可能性もあったりする点は知っておきましょう。

また、サポートを行う実務者に関しても県のサポートセンターと連携を取ることになります。そのため、地方自治体の連携・コミュニケーション力が試される制度という見方もできます。

2025年4月の建築物省エネ法は建築士にも影響がある

ここでは、建築物省エネ法が建築士の業務に与える影響についてみていきましょう。前提として、建築物省エネ法と同様に建築基準法も2025年4月から改正法が施行されます。

代表的な変更点は、2024年までは建物の規模や階数によって4号特例(構造審査省略)が適用されなくなります。4号特例となっていた建築物は、2025年4月以降は2号か3号建築物となり、構造審査を省略できなくなる点は知っておきましょう。審査項目に関しても屋根や外壁の防火性、採光や換気なども新しく審査する必要があります。

建築物省エネ法の概要

建築物省エネ法は、建築物のエネルギー消費を抑えるための法律です。カーボンニュートラル脱炭素社会を実現するためにも、建築物から発生するエネルギーを抑制し、効率的に活用していくことが目的となっています。

建築物省エネ法によって、2025年4月以降は次のような変化に対応しなければなりません。

  • 住宅でも非住宅でも一次消費エネルギー削減、断熱性能の確保が必須
  • 建築士による省エネ性能の説明
  • エネルギー消費性能の表示(努力義務だが各社が対応すれば、顧客へのイメージは高性能の方がアピールポイントになりやすい。そのため、市場の動きによっては多くの企業が表示する可能性がある)

2025年4月からの建築士の義務とは

2025年4月1日以降、建築士は次のような義務を果たす必要があります。

  • 建築物省エネ法

顧客への物件ごとの省エネ基準の適用の適否や対応策の解説(オンラインでも可)。不適合の場合はわかるように説明したうえで説明書の添付も必要。顧客が不要とした場合は不要となる

  • 建築基準法

省エネ適合判定通知書を提出する。その後、適合判定通知書が届き、建築確認済証が交付されるという流れになる。工事完了後も検査を行い、検査済証を交付される必要がある。計画変更や施工内容に変更(軽微な変更)がある場合は、手続きを行い、省エネ判定期間の審査を受ける

とくにほぼすべての建物で、省エネも含めた構造図書の添付が必要となる点は従来の制度との大きな違いだといえるでしょう。また、屋根・外壁を除く、住宅のリフォームにおいても大規模修繕やリノベーションを実施する場合は、建築確認や確認申請が必要となります。

建築士サポート体制は機能を果たせるのか?

ここでは、建築士サポート体制が機能を果たせるかどうかについて予想していきます。実際に、8都道府県のうち、岩手県だけでも団体によって、サポートできる内容に差がありました。たとえば、岩手県の直営ではマンパワー不足が発生しているといった状況になっています。

サポートの実施主体の理解があればスムーズなやり取りが期待できる

県や地方自治体の協会など窓口となれる団体は複数あるため、体制を整えれば建築士サポートによって、建築士の業務負担軽減が可能になるといえます。

相談窓口担当者に関しても、問い合わせ先や対応方法が把握できていれば、迷うケースも少なくなるといえるでしょう。そのため、制度の実施前に徹底した体制構築ができれば、2025年4月を迎えても手続きが遅れたり、確認に時間がかかり過ぎたりといった事態にはならないと予想されます。

実施主体の理解が進んでいるかどうかでサポート内容に差が生じる懸念がある

国土交通省が提供するマニュアルや各県の要請に伴い、建築士サポート体制の構築が進んでいます。しかし、地方自治体単位や各協会単位になった場合に、そもそも人材が足りない、知識がないといった事態も想定されるでしょう。

そのため、本格的な制度開始前に、相談受付者となる人々の制度理解やアドバイスの方向性の統一、人材確保を行っておかなければなりません。

まとめ

建築士サポート体制は、2025年4月からの建築物省エネ法・建築基準法に対応するための制度です。国土交通省が体制作りを進めており、すでに全国の協会や地方自治体では状況把握からリソースの確保を検討してる段階にあります。

今後、建築士サポート体制がうまく機能していくかどうかも含めて注目しておきましょう。