浮体式洋上風力発電の仕組み|ゼネコン事例紹介

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著者:小日向

トレンドワード:浮体式洋上風力発電

「浮体式洋上風力発電」についてピックアップします。風力発電は環境に優しい発電方法ですが、陸上の風車だと騒音や立地等の課題がありました。それを受けて海洋上に設置する方法が注目されており、日本でも開発が進められています。本記事では浮体式洋上風力発電の仕組みや、ゼネコンの主な取組についてご紹介します。

浮体式洋上風力発電とは

https://www.pref.aichi.jp/press-release/offshorewindpower2024-1.html

浮体式洋上風力発電とは、海上に浮かべた浮体構造物に風力タービンを設置して行う発電方式のことを指します。風力発電は化石燃料を使わない再生可能エネルギーであり、環境に優しい発電方法として注目されています。日本は国土が海で囲まれていることから、導入拡大が期待されているのです。

一般的な風力発電は騒音の大きさが問題となる場合が多いですが、海洋上であれば生活に支障が出にくいのが特徴です。また従来式とは違って海底に直接固定されないため、風や波による破損リスクも少なくなります。

浮体式洋上風力発電の仕組み|着床式との違いは?

https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kou-ku/30300035.html

洋上風力発電は、「着床式」と「浮体式」に分けられます。まず着床式は、風車の支柱を海底に固定するタイプです。そのため、比較的水深の浅い洋上で採用されています。

一方で浮体式は、風車を海上に浮かせてシンカーで係留させる方式という違いがあります。一か所に固定しないため、水深の深い場所でも設置可能です。これにより広範囲での発電が期待でき、着床式に変わる新技術として開発が進められています。

浮体式風力発電の主な種類としては、下記が挙げられます。

  • バージ型:円柱型の浮体で、風の影響を受けやすい。水深50m〜100mに設置可能。
  • セミサブ型:港湾施設内で組立可能で、揺れが抑えられる。コストは高い。
  • スパー型:構造が単純でコストが安い。水深100m程度必要。

それぞれ適した水深やコストが異なるため、設置する現場に応じて選定されています。

浮体式洋上風力発電のメリット

浮体式洋上風力発電の主なメリットとしては、下記の点が挙げられます。

  • 広い海域で利用可能
  • 設置コストの削減
  • 環境への影響が少ない
  • 景観・騒音問題の軽減

浮体式洋上風力発電は深海でも設置可能なため、洋上風力発電の利用範囲が広がります。また着床式のように海底を掘削する必要がなく、設置費用が安く抑えられます。これにより、海洋環境への影響が少なく抑えられるのもメリットです。

そして沖合に設置することで、沿岸部の景観や騒音問題を軽減できます。こういったメリットにより、洋上風力発電の新たな可能性を広げる技術として期待されているのです。

浮体式洋上風力発電のデメリット・課題

浮体式洋上風力発電は開発途上の技術のため、デメリットや課題もあります。

技術開発コストが掛かる

浮体式風力発電は新しい技術であり、開発や試験に多額の費用がかかります。そのため設計、プロトタイプの製作、性能試験などの初期段階での投資が大きくなるのがデメリットです。

また施工に関しても、発電設備を設置場所まで運搬するには特別な船舶や装置が必要であり、その運搬費用も高額になります。そして海上の厳しい環境下での維持管理は難しく、定期的な点検や修理が必要です。特に浮体式の場合、浮体やアンカーシステムの状態を常に監視し、必要に応じて修理や調整を行う必要があります。

ケーブル損傷リスクがある

浮体式風力発電は、波や風によって常に動いています。この動きによりケーブルにストレスが掛かると、損傷のリスクが高まるのがデメリットです。

最近では気候変動の影響で、台風による高波の影響も大きくなっています。そのためケーブルの被覆が損傷したり、内部の導体が断線するリスクが高まっているのです。

ケーブルが損傷すると電力を陸上に送れなくなり、電力供給が中断してしまいます。そのため、最大レベルの地震・津波を考慮した設計が求められています。

浮体式洋上風力発電に取り組む企業|ゼネコンの事例

ここでは、浮体式洋上風力発電に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。大手ゼネコンでは、技術力を生かしたプロジェクト参入事例が多く見られます。

戸田建設

https://www.toda.co.jp/news/2023/20231003_003263.html

戸田建設は、2016年3月に国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化しています。付帯構造はスパー型で、下部にコンクリートを採用することでコストダウンや重心の安定性を実現しています。

ただし2023年5月に浮体構造部に不具合が発見されたことから、海上に設置済みの風車を陸揚げして再構築が行われています。運転再開は、2026年1月になる予定です。

鹿島建設

https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101750.html

鹿島建設は、経済産業省による「浮体式洋上風力実証事業」に参加しています。これは、コスト目標・タクトタイム目標などを設定した、1基10MW以上の大型風車を用いた実証事業です。

実施地域には「①秋田県南部沖、②愛知県田原市・豊橋市沖」が選定されており、鹿島建設は②に携わっています。具体的な計画概要は、下記の通りです。

  • 風車出力:15MW超
  • 風車基数:1基
  • 浮体形式:セミサブ浮体

支援規模は約850億円で、事業期間は2024年度~2030年度となる予定です。

大林組

https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20230828_1.html

大林組は、3Dプリンターを使って浮体式洋上風力発電施設のコンクリート浮体の模型(高さ約1.3m×幅約2.3m)を製作しました。これにより、TLP型浮体基礎の設置方法の妥当性が確認されています。

コンクリート浮体は水密性が重要なので、接合部なく複雑な形状を製作できる3Dプリンターの技術が適しています。大林組の考案したTLP型浮体式洋上風力発電施設基礎は、㈶日本海事協会から設計基本承認を取得しています。

まとめ

現在カーボンニュートラル実現のため、環境に優しいエネルギーの拡大が求められています。島国である日本では洋上風力発電に適しており、新技術である浮体式が注目されているのです。大手ゼネコンが参加している開発プロジェクトも多く、今後の技術革新が期待されています。