空飛ぶ基地局(HAPS)とは|メリットや課題
目次
トレンドワード:空飛ぶ基地局
「空飛ぶ基地局(HAPS)」についてピックアップします。NTTドコモが2026年に商用化することを発表しており、実現すればネットワーク環境整備に役立ちます。本記事では空飛ぶ基地局(HAPS)のメリットや衛星通信との違いについて、ご紹介します。
空飛ぶ基地局(HAPS)とは
空飛ぶ基地局(HAPS)とは、高い高度で飛行する無人航空機等を使用して通信サービスを提供するシステムのことを指します。「High Altitude Platform Station」の略語で、地上の通信インフラを補完するために開発されています。
空飛ぶ基地局は通常、地上から20km以上の成層圏で運用されます。この高度は航空機や商業用ドローンの飛行高度よりも高く、通信衛星の軌道よりも低い位置です。動力にはソーラーパネルや燃料電池等が用いられており、数週間から数ヶ月間の連続飛行が可能です。
空飛ぶ基地局は、既存の地上ネットワークや衛星通信の補完手段として、ますます重要性を増しています。そのため、さまざまな企業や政府機関がHAPSの開発と運用に力を注いでいます。
NTTドコモが商用化|2026年予定
記者会見でNTTの島田明社長は、2024年度中に実証試験を行うとしたうえで、「HAPSは非常に広い範囲を一気にカバーできるので、重要かつ効果的なサービスを提供できる」と述べました。
NTTドコモは、2026年に空飛ぶ基地局を商用化することを発表しています。これは世界初の事業で、地上の基地局でカバーできない地域も広範囲に対応できます。具体的には欧州の大手航空機メーカー・エアバスの子会社と業務提携を行う予定です。
空飛ぶ基地局(HAPS)と衛星通信の違い
空飛ぶ基地局(HAPS)に似ているものとして、衛星通信があります。それぞれの主な違いとしては、下記の点が挙げられます。
空飛ぶ基地局(HAPS) | 衛星通信 | |
---|---|---|
高度 | 低い | 高い |
打ち上げコスト | 低い | 高い |
通信速度 | 速い | 遅い |
空飛ぶ基地局(HAPS)が地上約20kmの高度なのに対して、衛星通信は約2000㎞の高度という点が異なります。
また打ち上げる際には、衛星通信は非常に高額な費用が掛かります。一方で空飛ぶ基地局(HAPS)は無人航空機を利用するため、手間も費用も削減できるのがメリットです。さらに設置場所や運用高度を比較的自由に変更でき、特定の地域に迅速に配備することも可能です。
そして通信速度については、高度が低い空飛ぶ基地局(HAPS)の方が遅延が少なくなります。特に通信インフラが未整備な地域でのインターネット接続、災害時の通信確保、一時的な通信需要の増加対応などに適しています。
一方で衛星通信は、地球全体にわたる広範囲な通信サービス、テレビ放送、気象観測、ナビゲーション、海上通信などに使用されます。このように、HAPSと衛星通信はそれぞれの特性を活かして、異なる用途やニーズに対応しています。
空飛ぶ基地局(HAPS)のメリット
ここでは、空飛ぶ基地局(HAPS)のメリットについてご紹介します。
地方のネットワーク環境向上
空飛ぶ基地局(HAPS)は、地方や山岳地帯、離島など、地理的にアクセスが困難な地域でも広範囲をカバー可能です。そのため地上のインフラ整備が難しい地域でも、迅速に通信サービスを提供できます。
また成層圏を飛行するため、気象条件の影響を受けにくいのもメリットです。地上との直線的な通信が可能になることで、高速かつ安定したインターネット接続が実現します。
さらに地上に広範な基地局を設置する場合や、衛星を打ち上げる場合に比べてコストが格段に低いです。特に地上のネットワークインフラが未整備な地方において、大規模な土木工事を必要とせず、効率的に通信環境を改善できる点が評価されています。
打ち上げリスクが低い
空飛ぶ基地局(HAPS)は、無人航空機を用いて運用されます。これにより、宇宙空間への打ち上げが必要な衛星に比べてリスクが大幅に低減できるのがメリットです。ロケットの打ち上げには失敗のリスクが伴い莫大な費用がかかる一方、HAPSの打ち上げは比較的簡単で安全です。
打ち上げリスクが低いということは、失敗による損失リスクが低いことを意味します。HAPSの打ち上げや運用にかかる費用は衛星に比べてはるかに低く、万が一のトラブルが発生した場合でも、経済的な影響が抑えられます。これにより、HAPSはコスト効率の高い選択肢となっています。
新たなサービスへの活用
空飛ぶ基地局(HAPS)は広範囲にわたって安定したインターネット接続を提供できるため、インフラが未整備な地域や離島、山間部などでの通信環境整備に貢献します。また災害時に通信インフラが破壊された場合でも、迅速に通信サービスを提供できます。これにより、緊急対応や救援活動がスムーズに行えるのがメリットです。
HAPSの特性を活かした新たなサービスへの活用は、多岐にわたります。地方や遠隔地でのネットワーク環境の改善のみならず、災害時の通信確保、環境監視、農業支援、エンターテインメント配信、ナビゲーションサービス、公共安全の強化など、さまざまな分野での応用が期待されています。これにより、HAPSは今後の技術革新と社会発展に大きく貢献するでしょう。
空飛ぶ基地局(HAPS)の課題・デメリット
空飛ぶ基地局(HAPS)にはメリットが多いですが、まだまだ課題も残っています。実用化に向けて、解決が急がれます。
開発費用が掛かる
空飛ぶ基地局(HAPS)の開発には先端技術が必要であり、それに伴うコストが高いという問題があります。特にプロトタイプの作成、試験飛行、技術の改良には多くの時間と資金が必要です。
今回空飛ぶ基地局(HAPS)を商用化するNTTドコモは、最大1億ドル(約150億円)を出資する予定です。2024年度中に行われる実証試験だけでなく、維持・運用コストも無視できません。
こういった課題を克服するためには、継続的な技術革新と適切な資金調達、規制対応と市場開拓が不可欠です。企業や政府、研究機関が協力し、これらの課題に取り組むことで、潜在的な利点を最大限に活用することが可能となります。
高緯度地域には不向き
空飛ぶ基地局(HAPS)は、太陽光発電を動力源としています。グライダーのように旋回飛行をしながら、太陽光発電で得たエネルギーを使って終日飛行を維持します。しかし高緯度地域では冬に太陽光が少なくなるため、通年飛行が難しくなってしまうのです。
内蔵のリチウムイオン電池を使用していますが、このバッテリーの劣化も制約となります。バッテリーの交換が必要なため、数カ月に一度は降下する必要があります。
こうした技術的な制約から、南日本からHAPSの展開を始める予定です。徐々に北へ範囲を広げ、最終的には2030年頃に北海道を含む全国展開を目指しています。
まとめ
空飛ぶ基地局(HAPS)を用いることで、気象条件や地理に関わらず通信環境を維持できます。建設業においては遠隔施工やVRを活用した技術開発が進められており、空飛ぶ基地局(HAPS)の実用化により発展が期待されます。