グリーンスチールでCO2削減|建設業での事例も
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「グリーンスチール」についてピックアップします。CO2排出量を削減する鉄鋼材として、建設業での活用事例も増えています。本記事では定義や主な銘柄、マスバランス方式についてもご紹介します。
グリーンスチールとは
ここではまず、グリーンスチールの定義や背景についてご紹介します。
グリーンスチールの定義
グリーンスチールとは、製造時の二酸化炭素(CO2)などの排出を削減した鉄鋼材料のことを指します。グリーン鋼材、脱炭素鉄鋼、低炭素鉄鋼、ゼロエミッションスチール、ゼロカーボンスチールと呼ばれることもあります。
CO2などの温室効果ガスは、地球温暖化などの気候変動の要因とされています。鉄鋼業は製造時のCO2排出量が多いことが課題ですが、グリーンスチールに切り替えることで地球環境への負荷を軽減できるのです。
現在、グリーンスチールの他にも「グリーンアルミニウムやグリーンステンレス」など様々な金属製品に適用が広がっています。このようなグリーンメタルの中でも、グリーンスチールは先駆的な存在です。持続可能な製造プロセスが普及すれば、金属産業全体の環境への貢献が期待されます。
グリーンスチールが必要とされる背景・理由
現在、世界共通の課題として「脱炭素」が注目されています。地球温暖化などの気候変動に対して、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減することでカーボンニュートラルの実現を目指しています。
しかし上図のように、鉄鋼業は「国内のCO2排出量の3分の1」を占めているのが課題とされてきました。そのため、「脱炭素化の実現には鉄鋼業の変革が必要」という意識が強まっているのです。
そういった背景があることで、CO2排出量が少ないグリーンスチールの広がりが期待されています。IEA(国際エネルギー機関)によると、グリーンスチールは2030年までに世界で1億トンの成長が見込まれています。
グリーンスチールはなぜ環境に優しい?
ここでは、グリーンスチールと従来の鋼材の違いや、なぜ環境に優しいとされるのかといった理由についてご紹介します。
「マスバランス方式」でCO2削減量を算出
グリーンスチールの製造では「マスバランス方式」という仕組みが採用されています。これは低CO2原料を混合した製造品に対して、原料の割合に応じて特性を割り当てる手法のことを指します。
具体的には、上図のように「CO2を25%削減した鉄鋼材4t」を、「CO2を100%削減した鉄鋼材1t+0%の鉄鋼材3t」と見なす方式です。バイオプラスチックや再エネ電力など、製造工程上の特性から割合の分離が困難な製品に用いられています。
グリーンスチールではCO2が「実質ゼロ」となることで、購入するお客様が「CO2削減証書」の分を自社に反映できるというメリットがあります。
電炉の活用
鉄鋼業の製造では、鉄鉱石やコークスなどを原料とした「高炉」が主に使われています。しかし製造過程で、CO2が大量に発生するのが難点でした。これに対して「電炉」はスクラップや再生鉄を用いることで、CO2排出量が大幅に削減できるのがメリットです。
電炉は環境に優しい製造方法として注目を集めており、ニーズも高まっています。ただし電炉は製造コストが高いことや、スクラップの品質が安定しにくいという課題もあります。
グリーンスチールのデメリット・課題|価格が高い
グリーンスチールの価格は、従来の4割程高いのが難点です(※2024年1月時点)。CO2削減のために従来よりも工程が増えることや、まだまだ供給量が少ないことが高コストの理由となっています。
グリーンスチールの主な銘柄事例
ここでは、グリーンスチールを供給している主な銘柄をご紹介します。カーボンニュートラルの実現を目指す考え方から、各業界で需要が増えています。
日本製鉄
日本製鉄では、2023年にグリーンスチールの「NS Carbolex Neutral」を開発しました。鉄鋼業は低炭素化が難しい分野ですが、マスバランス方式を適用することで低CO2鋼材としていち早く商品化した点が特徴的です。
製造プロセスにおいて「電炉」を利用することで、従来の高炉に比べて約1/4のCO2排出量減少に貢献します。第三者機関から「CO2排出量100%削減」の認定を受けています。
神戸製鋼所
神戸製鋼所では、2022年からグリーンスチールの「Kobenable Steel」を販売しています。高炉工程におけるCO2排出量を大幅に削減した低CO2高炉鋼材で、日産自動車の「セレナ」や東京・豊洲の高層ビル鉄骨にも採用されています。
「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO2低減ソリューション」に基づき、「HBI(熱間成形還元鉄)」を高炉に多量に装入することでCO2排出量を大幅に削減できる技術を活用したものです。CO2削減効果については、特定の鋼材に割り当てる「マスバランス方式」が採用されています。
JFEスチール
JFEスチールでは、2023年から「JGreeX(ジェイグリークス)」を供給しています。高炉・転炉法において発生するCO2を水素と反応させ、生成したメタンを再利用する技術を活用することで、CO2排出量を従来法より50%以上削減しました。
JGreeXでは、他メーカーと同様にマスバランス方式によりCO2削減量の割り当てを行っています。現在造船会社向けに供給を行っており、CO2排出削減量については、認証機関である日本海事協会から第三者認証を取得しています。
建設業|グリーンスチールの取組事例
ここでは、建設業でグリーンスチールを活用している取組事例をご紹介します。
熊谷組|オフィスビル「(仮称)水道橋PREX」
熊谷組では、2025年3月竣工の「(仮称)水道橋PREX」の新築工事においてJFEスチールのグリーン鋼材「JGreeX(ジェイグリ―クス)」を採用しました。主要鉄骨部材400tのうち、約半分の鋼材にJGreeXが使用されています。
これはJGreeXが不動産・建築業界で初めて使用される事例で、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みとして期待を集めています。
大成建設|ゼロカーボンスチール・イニシアティブ
大成建設は、ゼロカーボンビルの建設を推進するため、2023年から「ゼロカーボンスチール・イニシアティブ」を始動しました。これは、鋼材製造時の脱炭素化や鋼材の調達から、解体・回収までの資源循環サイクルの構築に向けた取り組みです。
国内電炉最大手の東京製鐵と連携することで、理論上、建築物への鋼材利用に際して「CO2排出量ゼロ」の実現を目指していきます。
- 鋼材生産プロセスでの脱炭素化を実現
- 建築物使用鋼材の製造・調達から解体・回収に至る資源循環サイクルを構築
まとめ
従来の建設用鋼材はCO2排出量が多く、これまで建設時の脱炭素化を阻む大きな課題となっていました。しかしグリーンスチールを導入することで、ゼロカーボンの実現に貢献します。価格が高いといったデメリットもありますが、今後の活用が期待されます。