コンピュテーショナルデザインとは?メリットから事例まで解説
設計業務では、周辺の環境や構造を検討したうえで、建築物をデザインする必要があります。そのうえで、コンピュテーショナルデザインを活用し、BIMと連携した場合には、業務効率化につながる可能性が示唆されています。
本記事では、コンピュテーショナルデザインの概要やメリット、各社の取り組みについてみていきましょう。
目次
「建設トレンドワード:コンピュテーショナルデザイン」
今回は、コンピュテーショナルデザインをピックアップします。コンピュテーショナルデザインは3DCADを使用したシミュレーションではなく、設計の前段階から、実際の建築物の構造や機能を自動的に計算し、生成するといった新しいデザインの方法を意味するものです。
たとえば、以下のような要素を人の計算や創造力、経験に頼らずにデザインできます。
- 窓の配置による環境性能の検討する
- 曲線を含んだ屋根のデザインの計算結果と技術的な根拠の提示する
- 天井の照明位置を太陽光まで含んで計算する
コンピュテーショナルデザインのメリット
ここからは、コンピューテンショナルデザインのメリットについて、みていきましょう。
とくに、建築物に関しては第一種住居地域や商業地域などの用途地域や建物に付随する防火設備、構造などのルールに則ってデザインを行う必要があります。しかし、コンピュテーショナルデザインを上手く活用できれば、前述した要素の中から複数のデザインを検討することも迅速にできるようになる点はメリットだといえるでしょう。
迅速なアウトプットができる
コンピュテーショナルデザインは、様々な条件を事前に設定する必要があるものの、人と比較して、迅速なアウトプットが可能です。たとえば、建築物は防火設備や部屋ごとの仕様が決まっているパターンも少なくありません。そのうえで、デザインに関して自由に設計できるといった場合、顧客のニーズもふまえたうえで人が計算しつつ、様々なパターンを示す必要がありました。
しかし、コンピュテーショナルデザインを活用した場合、様々な条件を加味した建築物の設計が迅速になることから、顧客のニーズを踏まえたデザインの提出や設計者の負担の軽減につながります。
これまで以上のデザイン性の強化ができる
コンピュテーショナルデザインは、設計の計算を自動化するだけでなく、人のイメージを超えていく設計を可能とします。たとえば、顧客から「自由な風通しのいい社風を反映して、今までにない独創的な建物にしたい」と顧客からニーズを引き出したとしても、従来のデザイン性には限界があったといえます。
しかし、コンピュテーショナルデザインを活用した場合、一般的なデザインに拘らず、顧客のニーズに合わせた設計も可能となります。デザイン性を担保しつつ、多くの人々に「デザインのみでなく、使い勝手や構造的な条件をクリアしたうえで提供できる企業」といったブランディングにも良い影響を与えられるでしょう。
コンピュテーショナルデザインに対する各社の取り組み
ここでは、コンピュテーショナルデザインに対する各社の取り組みについて詳しくみていきます。コンピュテーショナルデザインは、大手企業のデザイン担当部署では、意識されているケースが多く、顧客のニーズと業務効率化、BMIとの連携やこれまでの手法との融合などに取り組んでいる状況です。
清水建設
https://www.shimz.co.jp/dde/about/index.html
清水建設では、デジタルプラットフォーム「Shimz DDE」を構築しています。「Shimz DDE」は、2Dや3Dに加えて、環境シュミレーション、法規制チェック機能を統合したプラットフォームであり、コンピュテーショナルデザインも含めた総合的なデザインアプローチが可能な点が特徴です。
清水建設で推進している「設計施工連携BIM」とも連動できることから、業務効率化・顧客ニーズに沿った建築物の提案なども可能です。また、プラットフォームとして熟練の設計者のノウハウや新しい設計者の価値観なども反映していることから、今後も広く活用できるプラットフォームとなっているといえるでしょう。
竹中工務店
https://www.takenaka.co.jp/design/expertise/computational_design_bim/
竹中工務店においても、コンピュテーショナルデザインに注力しています。デザインに関する計算や機能性を検討するだけでなく、環境や構造においても新しい空間の提供を目指している点が特徴です。また、設計から運用までBIMを活用するため、あらゆる関係者が情報を共有できる環境も構築しています。
1つのプロジェクトをみていきましょう。設計の顧客のニーズ が「コミュニケーションとして社員の交流を最大化するつながりのある空間」だったプロジェクトでは、ボロノイ分割という幾何学をテーマとして設計を行いました。
また、10,000通りの検証も実施しており、コンピュテーショナルデザインだからこそできるパラメトリックスタディ(解析値や条件に関わるパラメータを定義したうえで、そのパラメータを変化させ検証する)を駆使して、建築物の外観を決めています。
鹿島建設
https://www.kajima.co.jp/news/digest/sep_2021/feature/03/index.html
鹿島建設は「鹿島スマート生産ビジョン」を掲げ、 生産性向上と魅力的な建築生産プロセスの実現に向けて推進しています。「鹿島スマート生産ビジョン」は次の3つの項目をコアコンセプトとしている取り組みです。
- 作業の半分はロボットとー人間とロボットの協働
- 管理の半分は遠隔でー現物管理と遠隔管理による働き方改革
- 全てのプロセスをデジタルに-BIMやコンピュテーショナルデザインを含めたあらゆるプロセスのデジタル化
建築物の詳細な設計を行う前段階で、コンピュテーショナルデザインによる施設計画や機能性をシミュレーションでき、多数のプランを顧客に提案できるようにしています。建築物に関わる全てのデータをBIMでデジタル化しているため、施工時の生産性向上も可能です。BIMと連動した竣工後の建築物の管理最適化も可能としており、エネルギー管理システムとの連携も進めている状況です。
まとめ
コンピュテーショナルデザインは、設計の前段階から、実際の建築物の構造や機能を自動的に計算し、生成するといった新しいデザインの方法です。設計業務の効率化だけでなく、人間ではイメージできなかったデザインの創造も可能といえます。
現状では、取り組めている企業は多くないものの、業界としてBIMを活用する工程がより一般的になった場合にはより普及していくでしょう。