建設業界の未来予測|2024年からのデジタル化とその展望(後編)

掲載日:

著者:藤井章弘

著者:髙木 秀太

2024年は建設業にとって大きな変化の年ではないかと思います。
限られた労働人口の中での、労働時間の上限規制。もちろん、これは建設業の未来の為に重要なことであると思っています。建設業の新3K(給与・休暇・希望)といった言葉も聞かれるようになりました。

しかし、そうはいっても実際の現場では「時間内に仕事が終わらない。」と頭を悩ませる人も出てくるのではないでしょうか。2025年の大阪・関西万博で、パビリオンの建設を時間外労働の上限規制の対象外にできないかという動きもありますよね。

本対談では「BIMをはじめとする建設テックを使ったコンサルティングを行う株式会社AMDlabのCEO、建築情報デザイナー・構造家の藤井章弘氏」「デジタルツールでサポートする幅広い業務を行う合同会社髙木秀太事務所、建築家・プログラマーである代表 髙木秀太氏」建設業とAIの関わりや、今後求められるスキルについて語っていただきます。

▼前編は、以下よりお読みいただけます▼

建設業界の未来予測|2024年からのデジタル化とその展望(前編)

2024年は建設業にとって大きな変化の年ではないかと思います。限られた労働人口の中での、労働時間の上限規制。もちろん、これは建設業の未来の為… more

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AIと建設業界について

【髙木】
AIについては、正直僕にはもう先への影響力は予測がつきません。本当にこの技術が建設業界の何か新しい革新になるのかというのは全然分からないんです。同じような議題であれば去年の今頃だったらたぶんVRやXRなどと言っていたと思います。しかし実際には、AIの話で話題が持っていかれてかなり勢いは落ち着いた印象があります。もっと勢いが鈍化したのはメタバースだと思います。来年の今頃、「去年、生成系AIなどと言っていたね」という風になる可能性はまだ十分にあるんです。

僕らは前編で2つほど、うちのスタッフのメールの書き方とか、最初のコンセプトの出し方で生成系AIを使ったという事例を出しましたけれども、どうなのでしょうか、それも今この瞬間に役立っていることなのかもしれませんが、同じような役立ち方が1年後もされているのかどうかというのも本当に全然分かりません。だから冷静にそこは見ていかなければいけないというのは、現代人として変わらず持っていたい視点なのではないでしょうか。藤井さんはやっぱりAIには期待していますか。

【藤井】
かなり期待しています。

【髙木】
では、近年出てきている技術の中でもかなりいいのではないかという感じですか。

【藤井】
そうですね。「どう使うか」だと思います。

【髙木】
よくAIは人の仕事を奪うというようなことを言うじゃないですか。実際にはそうなってはいけないけれども、DX的にはむしろコンセプト的には人の仕事を奪うほうにしたいわけでしょう。そういったところでまた矛盾の問題も出てくるでしょうし、来年は特にAIに関しては考えなければいけないことが多いのではないでしょうか。考え込まなければいけないことと言うか。

AIの活用方法

――― AIはうまく使っていかなければならない技術ということですね。今後ここで使っていきたいという部分があればおしえてください

【藤井】
僕はもっと専門業務のところでAIを使えると良いなと思っています。生成AIが出てきて、では実際設計者や施工者がどこまで使えるかといったら、まだ業務の表層の部分ぐらいしか使えなくて、業務へのインパクトはあることはあるけれどもまだまだ小さいと思っています。
私たちが生み出すかもしれないですが、やっぱりもっと属人化しているようなところに刺さるものが今後出てきてほしいとは思います。

【髙木】
それは、今まで限られた人にしかできなかったスペシャルなスキルを、全部とは言わないにしても「ある程度のクオリティで一般の人たちなどが使えるようになる」といいということですよね。

【藤井】
そうです。それだけ聞くと夢のような話かもしれないですが、一定そういう領域は大きくなっていくと思うし、それが出てくることで人に求められること、人がやるべきことはどんどん変わっていくと思います。

【髙木】
AIによるイラストの自動化のようなことが、今、倫理的に問題になっていますよね。例えば美少女画みたいなものをいっぱい、誰かが書いたものを学習させ続けると、その人のタッチで絵が描けてしまうというような話があるじゃないですか。それもその人にしか本来できなかったことが、今までできなかった人の技術になるという状態だと思います。

建築もたぶんそういうこともできてしまうと思います。建物に至らなくても例えば、安藤忠雄らしいコンセプトパースや隈研吾らしいコンセプトパースなどはすでに程度に差はあれAIでその作家性を再現出来てしまう現状です。

創造性(クリエイティビティ)と同様に技術性(テクニカリティ)などでも当てはまる話で、やっぱり学習の元になった人たちのプライドや、学習の元になった人たちの尊厳のようなものをどういうふうにして僕らが見做していけばいいのか本当に分からない。きっと誰もが分からない話なのでしょうけれども、これこそ僕らが今言わなくても世界中で議論になってしまっているので本当に難しいです。

今後建設業界で求められるスキル

―――今後建設業界で求められる技術について、どう思われますか?

【髙木】
求められる技術というか、求められるスタンスはやっぱり明確にあります。もう繰り返しですが、勉強が必須なので、ひたすらに勉強しなければいけません。日々技術が出てきてしまっていて、それを取り入れるか否かを判断するにも勉強をしなければいけない、インプットを増やしていかなければいけない、もしもそれができないのであれば、もうデジタル化を推進するような業界からは距離を取ったほうがいいかも知れません。

当然デジタル化しなくても生きていける世界はあるはずで、建設業界にも数少ないアナログの聖域はあるでしょう。しかし、残念ながら今の建設業界のメインストリームにおいてはデジタル化の波はもう止められないので、そういう流れに身を置くのであれば、やはり学習は永遠にというか、しばらくはし続けなければいけないという覚悟が必要だと思います。

一方で、同じぐらい重要なスキルだと僕が思っているのがコミュニケーションスキル・対人スキルです。コンピューターを使用する一定の仕事は今言った勉強で済む話なのですが、対人スキルは残念ながら勉強ではどうにもならないです。

AIを使うにも独り善がりで考えていても絶対駄目で、いろんな人の意見を聞きながらやらないといけませんし、あるいは、「こういう技術があるけれども自分はできない、では髙木のような所に頼もうか」というふうに「人に頼る」判断をするにも、やっぱりコミュニケーションがないと絶対できないと思います。

だから、本当に今うちのスタッフにも一番求めているのは対人スキルです。質問・回答の仕方や、あんまり参加しなくてもいいかなと思ったミーティングも、誰々の表情を見るために出てみるなど、案外そういう泥臭いことはうちの事務所はやるようにしています。こういうコンピューターが重要な社会だからこそ、対人スキル、コミュニケーション能力というものが相当重要になってくると思っています。

【藤井】
すごく同意です。コミュニケーションスキルや学ぶ姿勢のようなものは確実に求められるし、重要だと思います。僕はやっぱり、先ほど髙木さんもおっしゃったような、常に学ぶ姿勢や何でも挑戦してみるところは、これから働く人や今働いている人を問わず重要だと思います。技術を使える人と使えない人の格差は確実に広がっていくので。
そんな中でこれから働く人には、これだけ技術のスピードが早いので、「学び方を学ぶ」ということも重要だと思います。プログラムや設計などもそうですが、一回自分なりに手法を学んで習得できれば、他の言語なども同じように習得していけます。そういう、もう一歩引いた、学び方を学んでいくことも大事かなと思いました。

一方で、働いている人の中でも、もう既に確固とした自らの手法がある人は余計にそうかなと思うのですが、少し誤解があるかもしれないですけれども、「まあいいか」と思える感覚も結構重要だと思っています。
またAIの話を出しますが、AIなどで出てきた答えが仮に良いものだったとしても、人って昔はこうだったからと案外変なところにこだわりがあったりして、これでいいじゃないかと思える感覚や寛容性、勘所をつかんでいる感のようなものは働いている人にも重要かなと思いました。

【髙木】
今の、さすが藤井さんがおっしゃったように、学び方の学びのような、まさに僕が大学で学生に対して教えているのはそういうことです。

「この問題に対してはここまで勉強して、ここの部分は取りあえず置いておこう」など、そういった主体的かつ理性的な判断ができれば僕はいいと思うんです。全てのことを勉強することは絶対に無理なので、必要な時に必要な分だけ勉強するということを求められると思います。時には鈍感力も必要でしょう。勉強のセンスが求められますね。

【藤井】
そうですね。学生にとっては、その時に教えたことが全てとは思わないでほしいですね。あくまで今の時間で切り取った部分を教えているだけで、もっと広い世界があるということは学んでほしいと思います。

【髙木】
おっしゃるとおりだと思います。本当にそう思います。1人が教えられることなどごく一部のことでしかないです。加えて、これだけ情報のネットワークが広がった世界なので、情報は玉石混交。雑音も多いです。広い視野と冷静な判断力を鍛えるべきですね。DXを推進するには必須の能力だと思います。

まとめ

AI化が進む一方で人間にしかできない仕事の難易度は高まっており、そのカギを握るのが「対人スキル」とも言えるでしょう。新技術を身に付けるための勉強は、もはや一生続ける時代となりました。建設業界で必要な技術的スキルも日々変化している中で、常に学び続け何でも挑戦してみる姿勢が求められているのではないでしょうか。

[ご紹介] 本対談記事にご参加いただいたお二人

髙木 秀太
合同会社髙木秀太事務所、2016年4月設立。建築設計、内装設計、プログラミング、3Dモデリング、BIMサポート、コンサル、web制作、講習など、建築・都市計画をデジタルツールでサポートする幅広い業務を行う。 代表 髙木秀太、建築家/プログラマー。1984年長野市出身。これまでに東京大学、北海道大学、慶應義塾大学、東京理科大学、工学院大学、多摩美術大学、長岡造形大学で非常勤講師を務める(一部担当終了)。

藤井章弘
株式会社AMDlab CEO   BIMをはじめとする建設テックに精通した一級建築士の資格を持つ建築情報デザイナー/構造家。 株式会社松田平田設計で構造設計者として経験を積んだ後、一級建築士の松原昌幹氏と2019年にAMDlabを設立。建築を基盤とするアプリケーションやプロダクトの開発、建築設計、教育活動などを行い、機械学習やIoT、VRなど最新テクノロジーを用いて建築業界のDXを推進。

※五十音順でのご紹介とさせていただきます