ハイブリッドダムとは|国交省による地域振興の取り組みも
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トレンドワード:ハイブリッドダム
「ハイブリッドダム」についてピックアップします。治水・水力発電を両立させる方策として注目されており、国土交通省では取り組みを推進しています。本記事ではハイブリッドダムの概要やメリット・デメリット、国交省の具体的な施策についてご紹介していきます。
ハイブリッドダムとは
ここでは、ハイブリッドダムの概要やメリット・デメリットについて簡単にご紹介していきます。
ハイブリッドダムの概要
ハイブリッドダムとは「天候に応じた貯水量の運用を実現し、治水容量と発電容量の増強を図るダム」のことを指します。国土交通省では、異常気象対策や水力発電の促進を両立する取り組みとして官民連携を進めています。
最近ではAIの発達で気象予測技術や土木技術が向上しており、より柔軟な対応が可能となりつつあります。そのため「洪水時には洪水調節のために活用し、平常時には最大限発電のために活用する」というダムの運用方法が求められているのです。
ハイブリッドダムのメリット
ハイブリッドダムのメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
- ①治水機能の確保・向上
- ②カーボンニュートラル
- ③地域振興
①治水機能の確保・向上
ダムの目的の一つは「治水(ちすい)」です。これは大雨時などに川の水が溢れないよう、上流で水の量を調節する機能を指します。ハイブリッドダムでは、運用高度化による治水への有効活用が期待されています。
②カーボンニュートラル
また「発電」も、ダムの大きな役割の一つです。水の流れを利用して水車を回し、そのエネルギーを利用して発電します。
水力発電は火力発電のように石油等を燃やす必要が無く、発電時にCO2(二酸化炭素)が発生しません。環境に優しい「再生可能エネルギー」として、さらなる活用の広がりが期待されているのです。日本は雨量が多く水が豊かという特徴があり、水力発電に向いています。
また日本では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指しています。持続可能な経済社会をつくるため、水力発電をはじめとするエネルギーシフトが求められています。
③地域振興
ハイブリッドダムは、ダム立地地域の振興効果も期待されています。最近では橋、ダム、港などのインフラを活用した観光である「インフラツーリズム」が注目されており、ダムを観光資源として役立てる動きもあります。
じっさいに国土交通省では、民間ツアー会社と連携して「ダムツアー」を実施しています。ダム環境を活用し、地域と連携して観光資源としての活用を図っているのが特徴です。また建設中の段階から工事現場も活用し、完成前から観光資源としての効用を推進しています。
さらに、遊休地を活用した太陽光発電設備の設置、データセンターや地域交通(電気バス)への電力の活用といった活用例も報告されています。
ハイブリッドダムのデメリット・課題
一方で、ハイブリッドダムには下記のようなデメリットがあります。
- 降雨予測精度の向上が必要
- 予測と異なった場合の責任体制の明確化
- 事業運営のための資金や人材の確保
ハイブリッドダムでは、長時間降雨予測や出水期の期間の見直しなどにAI(人工知能)を活用します。まだまだ100%の予測精度とは言えないため、今後技術の向上が必要です。予測と異なった場合には誰が責任を持つのか、体勢の明確化も求められるでしょう。
ハイブリッドダムは、治水・水力発電の両立のため改造や新設を行わなければなりません。しかし資金や人材が必要なので、どう確保するかが課題となっています。
国土交通省の取り組み|発電施設の新増設等
国土交通省では、ハイブリッドダムの取り組みを推進しています。令和5年度(2023年)は「発電施設の新増設等の事業化に向けたケーススタディ」を既存の3ダムに対して行う予定です。
これは、民間事業者等の参画方法や事業スキームについて検討を行うことが主な目的です。現在発電に利用されていないダム下流への補給水(利水や河川環境の保全等に利用)を活用することで、増電が期待できます。対象は国土交通省が管理する「湯西川ダム(栃木県)、尾原ダム(島根県)、野村ダム(愛媛県)」の3か所です。
2024年度以降、ケーススタディの結果を踏まえて事業に参画する民間事業者等の公募を行うダムの選定が行われる予定です。
また「既設ダムの運用高度化による増電」については、計72ダムで試行が実施されます。2022年度には6ダムで試行されていましたが、本年度は大幅に増加します。並行して、本格実施に向けて地域振興に関するスキームが検討されることになっています。
まとめ|ハイブリッドダムでカーボンニュートラル実現
地球環境問題が悪化する中、炭素を排出しない水力発電に注目が集まっています。ハイブリッドダムは治水・発電の両方を強化した次世代型で、さらなる拡大が期待されています。気象予測の正確性などに課題はありますが、AI利用等を通じて適切な管理が求められるでしょう。