不動産IDとは?国土交通省ガイドラインを解説|DX推進
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トレンドワード:不動産ID
国土交通省がガイドラインを発表している「不動産ID」についてピックアップします。不動産情報を一意に特定できることで、業界全体の生産性向上が期待されています。ID表記のルールや、活用によるメリット等をチェックしてみましょう。
不動産IDの国土交通省ガイドラインを解説
国土交通省では、BIM等の活用による建築・不動産業界のデジタル化に取り組んでいます。その一環として整備が進められているのが「不動産ID」です。ここでは不動産IDの概要やメリット、注意点などについて解説していきます。
不動産IDとは
不動産IDとは、国土交通省が定める「不動産を一意に特定することができるID」のことを指します。具体的には、「不動産登記簿の不動産番号(13桁)ー特定コード(4桁)」で構成されます。
基本的には13桁の不動産番号のみですが、それだけでは特定できない物件には「特定コード」が付与される仕組みとなります。
たとえば一つのビルに複数のテナントが入る「商業ビル」の場合、「階層コード(2桁)・階数(2桁)」となります。
階層コードは、地上・通常階「G0」、地上・中間階「GM」、地下・通常階「B0」、地下中間階「BM」のいずれかを選択し、階数は右詰で表します。地上2階なら、「G002」となります。
また賃貸マンションなどの場合は、「部屋番号」を特定コードとして使用します。不動産番号は棟ごとに発生するので、当番号の表記は不要です。
不動産IDのメリット
不動産IDの主なメリットとしては、下記が挙げられます。
- 不動産売買・賃貸の仲介時に活用できる
- 不動産管理・インフラ整備に利用できる
- 都市計画情報・ハザードマップと連携できる
現状では不動産を統合するIDが存在していないため、地番の表記ゆれ(「1丁目」と「一丁目」など)により同一物件か判断しづらいという課題があります。
そのため不動産売買時には、まだまだアナログで情報収集するのが一般的です。しかし不動産IDが広がれば、情報を瞬時に収集できるようになります。また電気・ガス・水道・通信等の生活インフラ、まちづくり、物流分野等のより広い社会における活用も期待されています。
国土交通省では、ユースケース・メリットとして下記9点をリストアップしています。
- ①自社データベース内や、自社データベースと外部から取得したデータの連携の際の、物件情報の名寄せ・紐付けの容易化
- ②不動産情報サイトにおける、同一物件であることが分かりにくい形の重複掲載、おとり物件の排除
- ③過去の取引時データの再利用による各種入力負担軽減
- ④成約価格の推移の把握による価格査定の精度向上
- ⑤住宅履歴情報との連携によるリフォーム履歴等の把握
- ⑥電気・ガス・水道等の生活インフラ情報に関する、事業者間や自治体等との情報提供・交換の効率化および各種情報の統合管理
- ⑦(行政の保有するデータへの紐付けが行われた場合)行政保有情報の照会の容易化・効率化
- ⑧(最新の都市計画・ハザードマップ情報等がオープンデータ化され、公的図面として扱われるような環境が整備された場合) 都市計画情報・ハザードマップ等との連携による、調査負担の軽減や重要事項説明書の作成負担等の軽減
- ⑨高精度のAI査定など、多様なエリア情報等のビッグデータの活用による新たな不動産関連サービスの創出
不動産ID活用の注意点・デメリット
一方で、不動産IDには注意点もあります。
- ①個人情報保護法との関係
- ②IDの入力・登録に際しての留意点
- ③IDと紐付けたデータの利用
- ④IDやIDと紐付いたデータの利用範囲
不動産IDは、単体では個人を識別できないようになっています。しかし「住所・地番」と同じ性質を持ち、不動産登記簿と照合すれば所有者が特定できてしまいます。そのためユースケースに応じて、個人情報保護法との整理が必要になります。
また土地と住宅を合わせて販売する場合など、複数の不動産IDを入力する場合も考えられるでしょう。その場合、どのIDを使うのか明確化しておく必要があります。
不動産IDはいつから始まっている?
国土交通省は、2022年3月に不動産IDルールガイドラインを定めました。それ以降、順次適用が始まっています。
そもそも基本的な考え方として「国が一元的なデータベースを作成して不動産IDを発番したり、不動産情報を収集・蓄積して各主体に提供するといったことを意図したものではない」とされています。
そのため法律で不動産IDが義務化されるのではなく、国のガイドラインに沿って「各事業者が自主的に」不動産IDを紐付けするという性質を持っているのです。不動産IDを紐づけた後、どのような情報を連携させるかは各事業者に委ねられています。
不動産IDに関する疑問
ここでは、不動産IDにまつわる疑問について解説していきます。
「おとり物件」は減る?
条件の良い物件を見て問い合わせすると「ついさっき成約になってしまった」等の理由で、別の物件を紹介されることがあります。このように、おとり物件とは「取引の可能性が無いのに掲載される広告物件」のことを指します。
不動産IDが活用されれば、物件情報の重複が無くなります。これにより「架空の物件情報が掲載される」、「同じ物件の情報が複数掲載されている」といったおとり広告は減るでしょう。
また不動産IDを物件ポータルサイトで活用することにより、タイムリーに成約情報が更新できるようになるでしょう。リアルタイムに更新されるため、不動産情報が探しやすくなると考えられます。
現状のデータベース「レインズ」との違いは?
不動産業界には、従来から「REINS(レインズ)」という不動産管理システムが存在しています。名称の由来は「Real Estate Information Network System」の頭文字となっており、不動産流通標準情報システムとして広く使われてきました。
しかし一般売買契約の場合は登録義務がなく、「不動産流通量全体の1割程度」しか登録されていないのが実情です。
またレインズはデータ項目が少なく、情報が反映されるまでに時間がかかってしまう点もデメリットです。不動産売買のための「物件リスト」としては機能していますが、データの集約・蓄積機能を持っていないという欠点があります。
その点不動産IDであれば、不動産デベロッパーの持つ図面データ、管理会社のメンテナンスデータ、仲介業者の履歴なども含めて多くの情報を一括管理できるようになるのです。
「不動産オープンID」とはどう違う?
「不動産ID」は、国土交通省がガイドラインを示しているIDの規格です。それに対して「不動産オープンID」は、一般社団法人不動産テック協会等が独自に提供している共通IDとなります。
不動産IDと同様に、各社で管理方法や管理表記の違う不動産情報に対して同一の物件を示す共通のIDを付与し、同じIDがレスポンスされる特化技術です。原則無料で使えますが、緯度・経度が取得できる有料プランも提供予定となっています。
他にも「一般社団法人不動産情報共有推進協議会」では、業界の垣根を超えた不動産情報共有プラットフォームの構築を推進しています。こちらはLIFULLやゼンリン等が主体の組織で、国土交通省の「不動産IDに関する意見交換会」にも参加しています。
まとめ|不動産IDで業務効率化に期待
現在の不動産業界では、物件査定に平均15.5時間かかるというデータがあります。しかしデータは共有されず各業者がそれぞれ行っているのが現状で、業界全体として非効率です。不動産IDの普及で、業務効率化の推進が期待されます。