「木造39階建」も可能に|木造高層建築ブームを支える「CLT」とは
目次
トレンドワード:CLT
新たな木材として注目されている「CLT」についてピックアップします。しっかりとした強度を備え地球環境にも優しいため、高層建築や住宅など幅広く利用されています。CLTのメリット・デメリットや事例をチェックしてみましょう。
世界では「木造」高層建築がブームに
「高層ビル」と聞くと、一般的には鉄筋コンクリートのイメージが強いです。しかし世界ではいま、「木造高層建築」がブームとなりつつあります。上図はノルウェーで2019年に竣工した木造ビルで、「18階建て・高さ85m」となっています。
建材には、近隣の森から産出された木材を使用しています。建物全体で約1400㎥の構造用集成材を使用しており、エレベーターや階段のシャフト、バルコニーなどで直交集成板(CLT)、床の一部に単板積層材(LVL)を活用しています。
また大林組は、2022年8月にオーストラリアで木造ハイブリッド構造の高層ビルを受注しています。こちらは世界最高となる「39階建て・高さ182m」という規模が話題となりました。オフィス、宿泊施設、店舗エリアからなる複合施設となっており、7階から上階が鉄骨と「CLT」を採用した木造ハイブリッド構造となります。
ここでポイントとなるのは、「CLT」というキーワードです。本記事では、高層木造建築に欠かせないCLTについて詳しくご紹介していきます。
CLT建築の活用が進む
ここでは、CLTの特徴やメリット・デメリットなど基本的なポイントをまとめています。
CLTとは
CLTとは「直交集成板」という意味で、木の板を直角に交わるよう重ねて接着した木材のことを指します。CLTの由来は「Cross Laminated Timber」の頭文字を取った言葉で、読み方は「シーエルティー」です。
欧米を中心に、住宅などの建築物の壁や床材として利用されています。現場での施工性がよく、パネル工法や部分利用といった広範囲な可能性を秘めています。
CLTと同じように木の板を重ね合わせた木材には「合板」や「集成材」があります。それぞれの違いは、下記にまとめられます。
- CLT:最大2.7m×12mの面材料が可能。繊維方向に直交に貼り合わせる
- 合板:厚さ数㎜、幅90㎝、長さ180~270㎝の単板を、繊維方向に直交に貼り合わせる
- 集成材:厚さ数㎜、幅10数㎝の板材を、繊維方向と平行に貼り合わせる
CLTは合板と集成材の「良い所取り」をしたような特徴があり、柱や梁、壁や床などあらゆる部材として利用できます。建築工程がシンプルで簡単なので、工期がスピーディーになります。
CLTの強度はどのくらい?
CLTの強度は引っ張り強度が「コンクリートの5倍」と非常に強く、大型高層ビルにも十分対応可能です。また「鉄筋コンクリートの4分の1の重さ」という軽さもメリットで、建築のスリム化に役立ちます。
国土交通省では、2022年10月に「CLT 袖壁(国総研型)」を採用した中規模庁舎の試設計を行いました。これにより、「公共発注においても活用可能な手法」であることを確認しています。
構造評定として、 保有水平耐力計算による構造設計方法に関するプラン限定の一般評定を取得しています((一財)日本建築センター、評定番号:SS0046-01)。
CLTのメリット・デメリット
CLTのメリット
CLTのメリットは、下記が挙げられます。
- 環境に優しい建材
- 高い耐久性がある
- 建物が軽量化できる
- 工期が短縮できる
CLTは木材のため、鉄筋コンクリート建築よりもCO2排出量を低く抑えられます。また強度も確保されているので、住宅から高層ビルまで幅広く対応可能です。
また材料自体が軽く、大型建築に必要な「地盤補強」の手間が掛からないのもポイントです。さらにCLTは工場で加工されてから現場に搬入されるので、作業が簡単でスピーディーになります。
CLTのデメリット
一方でデメリットは、下記となっています。
- コストが高い
- 防火対策が必要
- 現場で簡単に加工できない
国産木材を使ったCLTの価格は「1㎥あたり15万円程度」で、ヨーロッパ産(6万円/㎥)の2倍以上の価格となっています。価格が下がらない限り、国産材の普及は難しいかもしれません。また木材のため、建築物に用いる際には耐火加工が必要です。
さらにCLTパネル工法ではCLT自体が鉛直力を支持するため、現場で好きな場所に穴をあけたりカットしたりすることはできません。そのため、設計の早い段階で配管等の位置を決定する必要があります。
なぜいま木造建築を推進?CLTが注目されている理由
2021年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、建築物における木材利用を進めていくことが定められました。国を挙げて建物の木質化が進められている理由としては、以下が挙げられます。
- 脱炭素社会の実現
- 国内の森林資源が利用期に入った
木材利用により、森林循環(造林→伐採→木材利用→再造林)のサイクルでCO2吸収作用を強化します。また現在、戦後植林された森林資源が本格的な「利用期」に入っていることから、積極的に木材として活用することが求められているのです。
CLT建築の事例紹介
ここでは、建築にCLTを用いた事例をご紹介します。
①事務所|軸組工法+CLTパネル
木造軸組工法の柱・梁にCLTパネルの耐震壁・床・屋根を用いた、2階建て事務所の事例です。延べ面積1,000㎡を超える大規模建築で、CLTパネルの持つ耐震性・防耐火性・仕上材という特徴を活かした計画となっています。吹抜のホールには、CLT特有の木目模様が効果的に表れています。
②住宅|CLTパネル工法
こちらは福岡県大牟田市の一戸建て住戸付診療所で、CLTパネル工法で建設されています。CLTパネルが外壁と屋根を兼ねるデザインで、意匠性の高い事例です。
構造はシンプルで、2枚のCLTパネルからなる合掌ユニットを構成しています。梁間方向は面トラス、桁行方向は水平力に対して面内曲げせん断力を受ける独立耐震壁として耐震設計されています。
まとめ|CLTの活用で環境に優しい建築へ
CLTは「新たな木材」として注目されています。国土交通省でも強度が確認されており、コンクリートに代わる材料となるかもしれません。これまでの木材では実現できなかった構造・意匠にも対応できるため、高層ビル建築への活用も期待されます。