巻き立てコンクリートとは?打設方法・規格・RC巻き立て補強・ひび割れ対策まで徹底解説

既設の橋脚や水路、ボックスカルバートなどの老朽化が進むなかで、構造物を撤去せずに性能を回復・向上させる工法として注目されているのが「巻き立てコンクリート」です。
しかし、「巻き立てとは何をするのか」「RC巻き立て補強とどう違うのか」「ひび割れは起きないのか」といった疑問を解決しないまま、設計や施工を検討している方も少なくありません。
そこでこの記事では、巻き立てコンクリートの基本から施工方法、規格、ひび割れ対策までをわかりやすく解説します。
目次
巻き立てコンクリートとは?
巻き立てコンクリートとは、既設構造物の外周を新たなコンクリートで包み込む(巻き立てる)ことで、耐震性や耐荷力を向上させる補強・補修工法です。
たとえば、橋脚・水路・管路などの土木構造物は、供用年数の増加や設計基準の変化によって、「現行基準では性能不足」となるケースが増えています。こうした場合、撤去・新設で対応するとコストや工期、周辺影響が大きくなるため、既設躯体を活かした巻き立て補強が選択肢となります。
国土交通白書2020によると、全国約72万の道路橋のうち、その約半数が2029年3月までに建設後50年を超えると言われています。日本全国で老朽化した構造物が増加しているため、巻き立てコンクリートは、撤去せずに性能を回復・向上できる合理的な補強工法です。
RC巻き立て補強とは?他の補強工法との違い
RC巻き立て補強とは、鉄筋(Reinforced)とコンクリート(Concrete)を用いて既設構造物を巻き立てる補強工法で、巻き立て工法のなかでも標準的な方法です。
巻き立て補強には、RC巻き立てのほかに以下の工法があります。
- 鋼板巻き立て補強
- 繊維シート(炭素繊維・アラミド繊維)補強
これらと比較してRC巻き立て補強は、材料入手性が高く、設計・施工実績が豊富という特徴があります。国や自治体の補強指針でも、橋脚や柱の補強としてRC巻き立ては基本工法のひとつとして位置付けられています。
(参考:東京都建築士事務所協会「補強設計マニュアル(平成25年11月)」)
巻き立てコンクリートが使われる代表的な構造物一覧
巻き立てコンクリートは、橋梁・管路・水路・カルバートなど「撤去が困難な既設構造物」を中心に幅広く使われています。以下に代表的な構造物の例を整理しました。
| 構造物の種類 | 巻き立てが使われる主な理由 | よくある目的 |
| 橋脚・柱 | 耐震基準の変更・曲げ耐力不足 | 耐震補強・靭性能向上 |
| ヒューム管・管路 | 老朽化・外圧増加・漏水 | 断面補強・耐久性向上 |
| ボックスカルバート | 交通荷重増大・劣化 | 耐荷力回復・延命 |
| 水路・暗渠 | 摩耗・凍害・断面欠損 | 補修・流水性能維持 |
| 擁壁・基礎 | ひび割れ・支持力低下 | 安定性向上 |
これらの構造物は、供用を止めにくい・更新コストが高いという共通点があります。そのため、既設躯体を活かしながら性能を向上できる巻き立て工法が、国や自治体の補修・耐震補強工事で多用されています。
巻き立てコンクリートの目的と効果
巻き立てコンクリートは、既設構造物の性能を「現行基準レベルまで引き上げる」ことを目的とした補強工法です。以下より、補強する効果を3つの目的に分けて解説します。
耐震補強・耐荷力向上
巻き立てコンクリートの一番の目的は、耐震性能と耐荷力の向上です。
既設躯体の外周に鉄筋コンクリートを増設することで、断面性能が増し、曲げ耐力・せん断耐力・靭性能が改善されます。特に旧耐震基準で設計された橋脚や柱では、地震時の倒壊リスク低減に有効な補強手法として位置づけられています。
劣化・断面欠損の補修
長期間の供用により発生する中性化、凍害、摩耗などで断面が欠損した構造物に対しても、巻き立てコンクリートが有効です。
劣化部分を除去したうえで新たなコンクリートを巻き立てることで、断面修復と補強を同時に実現できます。補修と耐力回復を一体で行える点が、部分補修工法との大きな違いです。
既設構造物の性能回復・延命
巻き立てコンクリートは、構造物を「元の状態に戻す」だけでなく、将来を見据えて性能を回復・向上させる延命対策として活用されます。
更新が難しい橋梁下部工や管路、水路などでは、供用を止めずに寿命を延ばせる点が評価されています。それが、ライフサイクルコスト削減にもつながります。
巻き立て工法が向いているケース・向かないケース
巻き立て工法は非常に汎用性の高い補強方法ですが、すべての構造物に最適とは限りません。設計・発注・施工の各段階で判断しやすいよう、以下に「向いているケース」「向かないケース」を整理しました。
| 観点 | 向いているケース | 向かないケース |
| 構造条件 | 既設躯体が健全に残っている | 躯体の劣化・損傷が著しい |
| 目的 | 耐震補強・耐荷力向上・延命 | 軽量補強のみが目的 |
| スペース | 断面増加が許容できる | 断面制限が厳しい |
| 施工環境 | 仮設・型枠設置が可能 | 狭隘で施工が困難 |
| 維持管理 | 長期耐久性を重視 | 短期対応のみでよい |
巻き立て工法は既設構造物を活かしながら性能を底上げしたい場合に向いており、逆に断面制限や軽量化が最優先される場合には不向きです。目的・制約・将来計画を整理したうえで、適否を判断することが欠かせません。
巻き立てコンクリートの施工方法(基本手順)
巻き立てコンクリートは、以下の施工手順で補強工事を進めていきます。ここでは、現場で押さえるべき基本ステップを、工程順に整理します。
- 下地処理・既設コンクリート処理
- アンカー・中間貫通工
- 鉄筋工(配筋・あきの確保)
- 型枠工
- 巻き立てコンクリート打設(回し打ち)
STEP1|下地処理・既設コンクリート処理
まずは、既設コンクリート表面に付着したレイタンスや劣化部を除去し、健全部を露出させます。ブラストやウォータージェット処理を行い、新旧コンクリートの一体化を確実にすることが重要です。
STEP2|アンカー・中間貫通工の考え方
下地処理が完了したら、既存コンクリートに、アンカーや中間貫通材を設置します。
巻き立て部と既設躯体を一体で作用させるため、設計位置・定着長を確認しながら施工することが重要です。配置精度が不足すると補強効果が低下します。
STEP3|鉄筋工(配筋・あきの確保)
既存コンクリートのまわりを囲うように鉄筋を組み立て、必要なあきを確保します。
巻き立てでは鉄筋量が多くなりやすいため、最小あきを意識しましょう。コンクリートの充填性を考慮した配筋計画が重要です。
STEP4|型枠工
設置した鉄筋のまわりに型枠を設置し、確実に固定します。
打設時の側圧に耐えられる剛性を確保するとともに、漏水や変形を防止しましょう。型枠精度は仕上がり品質に直結するため、事前確認が欠かせません。
STEP5|巻き立てコンクリート打設(回し打ち)
最後に、回し打ちでコンクリートを打設します。
一方向からコンクリートを打設するのではなく、周方向に均等に打設しましょう。材料分離や充填不足を防ぐため、締固め作業も計画的に行います。
巻き立てコンクリート打設で重要な施工ポイント
巻き立てコンクリートの品質は、打設方法によって大きく左右されます。特に重要なのは、鉄筋が密な部位でもコンクリートが確実に充填されることです。
一方向からの打設では材料分離や空隙が生じやすいため、周方向に均等に打設する「回し打ち」が基本となります。また、締固め不足や過振動は品質低下の原因となるので、バイブレータの使用方法や打設速度を事前に計画しておくことが欠かせません。
巻き立てコンクリートの規格・設計上の考え方
巻き立てコンクリートの設計では、既設構造物との一体性と施工性の両立が重要です。
鉄筋のあきやかぶりは、道路橋示方書(たとえばIV 下部構造編)や土木学会基準を参考に設定しますが、巻き立てでは充填性への配慮が不可欠です。そのため、設計段階から配合や施工方法を含めた検討が求められます。
単に断面を増やすのではなく、現場条件を踏まえた設計とすることが、補強効果を確実に発揮させるポイントです。
巻き立てコンクリートに起きやすいひび割れと原因
巻き立てコンクリートは断面が増える分、通常の打設よりもひび割れリスクが高くなる傾向があります。ここでは、現場で起きやすい代表的なひび割れと、その主な原因を解説します。
収縮ひび割れ
収縮ひび割れは、硬化過程でコンクリートが乾燥・自己収縮することで発生します。
巻き立てでは断面が大きくなるため、拘束条件が厳しくなり、ひび割れが生じやすくなります。特に養生不足や水分管理が不十分な場合に発生しやすいため、初期養生の良否がひび割れ発生を左右します。
打継ぎ部のひび割れ
打継ぎ部のひび割れは、分割打設した境界で一体性が確保できない場合に発生します。
巻き立て工法ではロット分け打設をすることが多く、打継ぎ処理が不十分だと付着性能が低下します。レイタンス除去や再振動を怠ると、後からひび割れとして顕在化することがあります。
鉄筋密集部で発生するひび割れ
鉄筋が密集した部位では、コンクリートの充填性が低下しやすく、空隙や分離が生じやすくなります。その結果、局所的な応力集中が起こり、ひび割れにつながります。
特にアンカー周辺や中間貫通部では、配筋計画と打設方法を誤ると、ひび割れが発生しやすくなります。
巻き立てコンクリートのひび割れ対策・防止策
巻き立てコンクリートのひび割れは、設計・配合・施工管理を適切に行うことで大幅に低減できます。重要なのは、どれか一つの対策に頼るのではなく、配合設計・打設方法・養生管理を一連の対策として考えることです。
ここでは、実務で特に効果が高い防止策を整理します。
配合設計での対策
配合設計では、収縮を抑えつつ充填性を確保することが重要です。
たとえば、水セメント比を必要以上に高くせず、細骨材率や粉体量を調整することで材料分離を防ぎます。必要に応じて膨張材や収縮低減剤を使用することで、巻き立て特有の拘束条件によるひび割れリスクを低減できます。
打設・締固め時の対策
打設時は回し打ちを基本とし、コンクリートが偏って流れないようにしましょう。
締固めは過不足がないよう計画的に行い、鉄筋密集部では特に注意が必要です。過振動は材料分離を招くため、バイブレータの挿入位置や時間を事前に決めておくことが、ひび割れ防止につながります。
養生・施工管理での対策
丁寧な養生は、初期ひび割れを防ぐうえで非常に重要です。
打設後は速やかに湿潤養生を行い、急激な乾燥や温度変化を避けます。また、打設ロットごとの管理や養生期間の確保を徹底することで、品質のばらつきを抑え、長期的なひび割れ発生リスクを低減できます。
まとめ
巻き立てコンクリートは、既設構造物を撤去せずに耐震性・耐荷力・耐久性を同時に向上させられる実務的な補強工法です。橋脚や水路、管路、ボックスカルバートなど、更新が難しいインフラの延命対策として、現在も多くの現場で採用されています。
一方で、巻き立て工法は「やり方さえ合っていれば安心」という単純なものではありません。下地処理、配筋計画、打設方法、養生管理のいずれかが不十分だと、ひび割れや充填不良といった品質トラブルにつながります。設計段階から施工性まで含めて検討することが、補強効果を確実に発揮させるポイントです。