【2025年】建築基準法とは?改正内容・施行令・施行規則との違いや要点まで完全ガイド

掲載日:
Category:コラム建築

著者:上野 海

建築基準法は、日本で建物を建てる際に必ず守るべき「安全と暮らしのルール」を定めた法律です。耐震性、防火性能、採光、避難安全、接道条件、用途規制など、多くの項目が建築計画に影響します。

特に2025年4月には、省エネ基準の適合義務化や4号特例の見直しなど、実務者に直接関係する改正が施行されました。

そこでこの記事では、設計者・事業者・これから建築を学ぶ方に向けて、改正内容の要点、法令体系、条文の読み方まで体系的にわかりやすく解説します。

建築基準法とは?

建築基準法は「建物の最低基準を定める法律」です。

建築物そのものの安全性(耐震・防火・衛生)を確保する「単体規定」と、地域の環境保全や都市全体の調和(用途地域、容積率、道路条件)を定める「集団規定」によって構成されています。

また、法律そのものは全国一律で適用されますが、地域ごとに条例で上乗せ規制が設定される場合もあり、実務では法令・条例・運用基準の三層を同時に確認する必要があります。

まずは、建築基準法の概要についてわかりやすく解説します。

(出典:e-Gov法令検索「建築基準法」

建築基準法の目的(生命・健康・財産の保護)

建築基準法の目的は、建築物に関わるすべての人の生命・健康・財産を守ることです。大きく分けて、以下の3つの観点で基準が定められています。

  • 生命の保護:耐震基準・耐風性能・避難安全性
  • 健康の保護:採光・換気・衛生設備・防音
  • 財産の保護:防火区画・耐火性能・延焼防止

この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

引用:e-Gov法令検索「建築基準法|第一条」

2つの規制「単体規定」と「集団規定」

建築基準法は、以下に示す「単体規定」「集団規定」という2つの体系で成立しています。

  • 建物の安全性(単体規定):構造体が安全か
  • 都市の調和(集団規定):周辺環境と矛盾しないか

この2層を分けることで、建物単体の技術基準と、都市政策としての建築規制を混同せず整理できます。

特に、設計や確認申請では、まず集団規定を検討し、その次に単体規定を検討する流れのほうが効率が良いです。用途地域や建ぺい率を満たさない計画を先に描いてしまうと、基本計画そのものが成立しないため、検討の順序が肝心です。

規制の対象(敷地・構造・設備・用途)

建築基準法は「建物」だけでなく、敷地から設備・用途まで包括的に規制しています。

分類対象内容
敷地道路、接道、敷地面積、地盤条件
構造柱・梁、耐力壁、基礎、構造設計
設備排水、換気、給排水、非常用設備
用途住宅、店舗、工場、病院など

特に、建築物は「建てたあとも社会に影響するストック」であるため、安全と衛生に関係するすべての要素を最低基準として規定する必要があります。

なお実務では、「敷地条件 > 用途 > 集団規定 > 単体規定」の順で検討すると、設計ミスが減ります。初期段階で接道条件と面積計算を誤ると、その後の設計がすべて無効になる点に注意しましょう。

建築基準法と関連法規の関係性

建築基準法では「建物の最低基準」が定められていますが、詳細設計や審査については、施行令や施行規則で別途詳しく説明されています。

また、エネルギー性能は建築物省エネ法で補完、さらに、都市計画法による用途規制や消防法による防火基準と連動し、実務では複数の法令が重層的に適用される点に注意しなければなりません。

ここでは、関連法規との違いや関係性をわかりやすく解説します。

建築基準法施行令との違い

建築基準法は「理念と枠組み」を示している一方、建築基準法の施行令は「具体的な技術基準」を示しているのが特徴です。

項目建築基準法施行令
役割原則・目的の規定技術基準の詳細
具体性抽象具体
利用場面法令理解・概念整理図面・審査対応
改正頻度比較的高い

出典:e-Gov法令検索「建築基準法施行令」

実務では、条文より施行令が設計に直結します。まずは建築基準法で全体像を把握し、そのうえで詳細設計の条件などを施行令でチェックするのがおすすめです。

なお、施行令の概要や条文のポイントを詳しく知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください▼

建築基準法施行規則との違い

建築基準法の施行令が「技術基準」を示すのに対し、施行規則では「手続き・様式・審査方法」を規定しています。

項目施行令施行規則
対象技術要求事項申請手続き
記載内容寸法・性能基準書類様式・検査
利用場面設計判断申請・審査
関係性建築仕様の根拠申請方法の根拠

出典:e-Gov法令検索「建築基準法施行規則」

施行規則には、確認申請で必要となる図面の種類、申請書の記載内容、検査の進め方が説明されているのが特徴です。たとえば「配置図・求積図・構造図書」の提出単位や、中間検査・完了検査の手続きが規則で定められています。

そのため、実務では「施行令で仕様を判断し、施行規則で書類を作成する」の流れが一般的です。

なお施行規則について詳しく知りたい方は、以下の記事で概要や目的、条文のポイントを解説しています▼

建築物省エネ法との関係

建築物における「省エネ性能」に関するルールは、建築基準法ではなく建築物省エネ法をメインに確認する必要があります。以下に違いを整理しました。

項目建築基準法省エネ法
対象安全・防火・避難省エネ性能
性格最低基準性能基準
審査確認申請適合性判定
※2025年以降省エネ法と連動適合義務化

出典:e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」

建築物省エネ法は、一次エネルギー消費量・断熱性能の評価方法を定めており、建築基準法が定める「最低基準」とは異なる観点で建物性能を評価するのが特徴です。特に、2025年4月からはすべての新築で省エネ基準適合が求められ、確認申請時に審査が行われます。

(参考:国土交通省「2025年4月(予定)から全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられます」

なお、建築基準法に関しても、2025年の改正で「基準適合義務」が確認審査と連動している点に注意が必要です。

都市計画法・消防法との関係

建築基準法は「建物単体の安全」に関する法律であるため、土地利用については都市計画法、防火・避難は消防法と相互補完しなければなりません。

項目建築基準法都市計画法消防法
対象建物安全土地利用防火・避難
規制軸単体/集団規定用途地域設備基準
適用段階設計〜工事計画段階完了検査後も

出典:e-Gov法令検索「都市計画法」「消防法」

たとえば、都市計画法の用途地域、建ぺい率、容積率が「そもそも何が建てられるか」を決め、建築基準法の集団規定と整合します。また消防法は、避難設備・消防用設備・延焼防止を規定し、防火地域指定と組み合わさることで実務運用が決まるのが特徴です。

設計では「都市計画法→建築基準法→消防法」という規模が大きい順に確認することで、手戻りを防止しやすくなります。

2025年4月施行「建築基準法」「省エネ法」の改正をわかりやすく解説

2025年4月から建築基準法と建築物省エネ法が改正され、全新築への省エネ基準適合、4号特例の縮小、構造検証の合理化が始まります。

設計手続きや確認申請が大きく変わるため、本項では改正のポイントを整理しました。

2025年省エネ義務化

2025年4月からは「原則すべての新築」が省エネ基準適合の対象になり、建築確認審査の中で省エネ判定が実施されます。

従来は延べ300㎡以上が義務化対象でしたが、改正後は住宅を含む全建物が対象です。国は2050年カーボンニュートラル達成に向け、建築物が占めるエネルギー消費(約3割)を減らす戦略として導入しました。適用除外は10㎡以下、文化財等に限定されます。

4号特例縮小

構造安全性の確保を目的に、4号特例の対象範囲が縮小され、確認申請での「構造関係規定の審査」が拡大されます。

これまで木造2階建て等の小規模住宅は、建築士設計の場合に構造審査が省略されていましたが、改正後は平屋かつ200㎡以下に限定されます。都市計画区域外・区域内ともに同じ基準となり、審査プロセスが統一される点に留意しておきましょう。

省エネ化に伴い重量化(断熱性能向上、太陽光設置等)が進むため、構造安全の裏付けが求められています。

構造計算適合性判定の範囲拡大

木造建築物の多様化に対応するため、必要壁量・柱径の算定方法が「建物の実際の重量」に基づく算式に変更され、構造検証が合理化されます。

これまでは「軽い屋根」「重い屋根」の区分で壁量を算定していましたが、断熱材・サッシ重量・太陽光設備などにより実重量差が大きく、実態と基準が乖離していました。改正後は算式で荷重を評価し、試算表(早見表)と表計算ツールが整備されます。

上記の改正内容について、さらに詳しくチェックしたい方は、以下の記事もご参考ください▼

建築基準法の歴史と改正履歴

建築基準法は1950年に制定され、大地震・火災対策を軸に改正されながら「安全基準→性能基準→省エネ基準」へ発展してきました。以下に、改正の歴史を整理しました。

時代区分主な改正テーマ社会背景(共起語)
1950〜1980年代安全基準の整備(防火・避難・新耐震)大火・宮城県沖地震、人口集中
1990年代耐震化促進法、性能規定化阪神大震災、都市紛争
2000〜2010年代確認検査の民間開放、合理化行政体制強化、偽装問題、ストック活用
2015〜2022年建築物省エネ法、木造建築の合理化2050カーボンニュートラル、材料多様化
2025年〜省エネ義務化、4号特例縮小、BIM審査へDX、既存建築ストック活用、災害激甚化

参考:国土交通省「今後の建築基準制度のあり方及び今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方の検討について(令和7年4月)」

特に近年は、社会資本整備審議会の答申をもとに、木造化・省エネ・BIM・既存ストック活用など、中長期ビジョンで制度整備が進んでいます。

なお、建築基準法の改正は、個別の事件や災害だけで動いているわけではありません。社会資本整備審議会 建築分科会で数年単位の議論が行われ、「四次答申→改正→施行→課題抽出→次期検討」という循環で、その時代に合う条項や条文などが追加・修正されていきます。

建築基準法の主要条文を「実務で使えるレベル」で解説

建築基準法は条文を丸暗記するより、実務で判断を誤りやすい条文を重点的に理解することが重要です。

ここでは、申請・接道・防火性能の3条文を現場で使えるレベルで解説します。

建築基準法6条(確認申請)

建築基準法6条は、建築工事を着工する前に「計画が基準適合しているか」を証明する確認申請の義務を定めた条文です。

たとえば、2階建以上または延べ200㎡超の建築物や、一定の用途建築物は必ず確認済証が必要となり、交付前は着工不可です。ただし、10㎡以内の小規模増築は例外となる場合があります。

また、審査期間は一般建築で35日、区域指定建築で7日が目安です。構造計算が必要な建物は、構造適合判定を経て確認する流れで、改正後は対象範囲が拡大します。

建築基準法43条(接道義務)

建築基準法43条は、建築物の敷地が幅員4m以上の道路に2m以上接すること(接道義務)を定めた条文です。

道路における避難・消防活動・通行安全の機能を確保するため、接道を満たさない敷地は原則建築不可となります。ただし、利用者が少ない建築物や広い空地を有する敷地などは、特定行政庁の許可で例外が認められる場合があります。

また、特殊建築物や3階建以上などは、自治体条例でより厳しい接道条件が付加されることがあります。

建築基準法61条(防火・耐火性能)

建築基準法61条は、防火地域・準防火地域に建つ建築物に防火設備(防火戸等)と耐火性能を義務付ける条文です。

外壁開口部で延焼の恐れがある部分に防火設備を設置し、壁・柱・床など主要構造部は建築物の規模と地域区分に応じた技術基準(政令基準)に適合させます。

仕様は国交大臣が定めた構造方法(告示)または認定品を使用することが基本です。門塀2m以下などは対象外であり、建物が複合用途等の場合は用途ごとに別建築物扱いになる部分があります。

建築基準法の罰則と違反事例

建築基準法に違反した場合、命令(是正・使用禁止)に従わないと工事停止・除去命令・罰金・懲役などの厳しい罰則が科されます。以下によくある違反と罰則の例を整理しました。

違反内容(例)想定リスク・処分内容
接道義務(43条)を満たさない建築工事停止命令、除去命令、確認済無効
防火地域で防火設備なし(61条違反)使用禁止、除去命令、罰金
確認申請せず増築(6条違反)1年以下の懲役または100万円以下の罰金
用途変更の届け出漏れ是正命令、用途制限
違反建築物の転用(飲食店化など)営業停止、是正命令
構造計算不備(適合性判定未実施)確認済無効、再申請、損害賠償リスク

特に、安全性や防火性能に関わる違反は重大事故につながるため、行政指導ではなく建築審査会や司法判断に至るケースもあります。

建築基準法に関するよくある質問【FAQ】

2000年の建築基準法改正で何が変わった?

2000年の改正で、性能規定化が進み、設計者が目的を満たす方法を柔軟に選べるようになりました。また、防火性能や耐震基準が強化され、確認・検査の民間開放が始まりました。外壁材、階段寸法、避難・耐火性能など多くの技術基準が更新され、現在の制度体系の基礎になっています。

建築基準法で規制されている内容は?

建築基準法は、敷地・構造・用途・設備に関する最低基準を定め、建物の安全性・防火性能・衛生環境を守る法律です。具体的には、接道義務(43条)・防火性能(61条)・採光・避難・耐震性能・用途制限などが規制対象です。建物の設計段階から確認申請(6条)で適合が審査されます。

まとめ

建築基準法は、建物の安全・防火・衛生・環境性能を守るための最低基準を定める中心法規です。

施行令や施行規則、都市計画法・省エネ法などと連動しながら運用され、確認申請や接道義務、防火性能など実務に直結する条文が多数存在します。

そのなかでも最新の2025年改正では、省エネ義務化と4号特例縮小が進み、設計・確認のプロセスが大きく変わりました。最新情報を把握し、合理的な設計対応を心がけましょう。