建築塗装の管理はどこまで変わる?数量算出・工程・品質をアップデートするDXの最新動向

建築業界では、技能者の減少や労務単価の上昇が続き、仕上げ工種の管理負担が一段と増えています。とくに塗装工事は、取り扱うデータ量が多い一方で、数量算出や工程管理、品質記録の方法が属人的になりやすく、現場ごとにばらつきが生じる傾向が見られます。
また、現場では紙図面や個別ファイルによる運用が多く、情報のばらつきや手戻りが生じやすい状況です。そのため、近年ではBIMやクラウドツールを活用し、塗装工事の管理を標準化する動きが広がりつつあります。
本記事では、主要プロセスの整理とDX化のポイント、改善事例についてみていきましょう。
目次
建築塗装に求められる業務効率化の背景

建設業全体では、技能者数の減少と労務単価の上昇が続き、現場の管理負担が増加傾向にあります。そして、仕上げ工種の中でも塗装工事は、面積規模の大きさとデータ量の多さに対して、管理方式の標準化が進みにくい傾向です。
原因は以下のとおりです。
- 塗装面積が大きいため、数量算出の誤差が原価に直結する
- 材料、工程、品質検査の各段階で扱うデータが多く、紙図面や個別Excelでは情報が滞留しやすい
- 工程計画が担当者の経験に依存し、手戻りの要因になりやすい
- 写真記録や検査書類の整理が手作業であり、提出者と管理者双方の負荷が高い
- 作業の性質上、協力会社間で基準が統一されにくく、品質のばらつきが発生しやすい
建築会社の管理者層では、施工体制の最適化と手戻りの抑制が共通の課題とされています。塗装工事は単価が比較的低く見えるものの、実際には次のような工程特有の特徴がロスを生んでいるといえるでしょう。
- 総面積が大きいほど、数量の誤差が累積しやすい
- 外壁・内壁・天井・鉄部など、部位ごとに進捗が異なり調整回数が増える
- 段取りの変更が材料管理や他工種の工程に影響しやすい
- 検査や是正の差し戻しが増えると、現場での管理手間が拡大する
さまざまな課題を受けて、塗装領域を含む仕上げ工事全体をDXによって体系化・業務効率化し、数量算出・工程計画・品質管理・記録作成を標準化する動きが強まっています。
建築塗装における主要プロセスとDX化の可能性
塗装工事のプロセスには、下地評価や材料仕様確認から工程計画、品質検査、記録提出といった段階があります。各段階は担当者間の判断がばらつきやすく、統一基準がない場合は管理側の監督負荷が高まります。
ここでは、建築塗装に対してDXを導入する雇用についてみていきましょう。
数量算出の自動化と根拠データの統一
BIMデータを用いた面積算出やクラウド型数量算出ツールの活用は、塗装面積の誤差を抑え、計算根拠を常に可視化する仕組みを提供できます。図面ごとに表記が異なる場合でも、指定したレイヤーや属性から同一基準で拾えるため、担当者間のばらつきが減少するでしょう。
数量の根拠が履歴として残るため、管理者は計画段階から透明性のある判断が可能です。
工程計画の精度向上と進捗情報の共有
工程管理ツールを活用すれば、作業区画の進捗がリアルタイムで共有され、複数班が入る現場でも段取りの重複や抜け漏れを抑制できます。大規模現場では、外壁・内壁・鉄部など部位ごとに進捗が異なるケースが多いため、クラウド上で情報を統合すると調整業務の負担の軽減も可能です。
また、図面連動型の管理方式により、数量と工程の整合性を容易に確認できるでしょう。
品質検査と記録業務のデジタル化
塗装膜厚の測定や下地の補修状況、仕上げ面の確認など、検査項目は多岐にわたります。そのうえで、紙報告書や画像添付メールで管理した場合、再確認の手間や記録漏れが生じやすくなるため、生産性低下の要因の1つとなっています。
しかし、クラウド型の検査記録システムを導入すれば、写真記録と検査項目が自動的に紐付けられ、現場から直接データを蓄積可能です。管理者は記録の統一基準に基づいて評価でき、提出書類の作成時間を大幅に削減することもできるでしょう。
建築塗装DXを導入する際の実務的ステップ
DXを段階的に導入する場合、複数領域へ同時展開を行うよりも、定量的な効果が得られやすい工程から着手すると定着しやすくなります。塗装工事の場合は、数量算出と品質記録の二領域が導入初期の効果が大きい領域です。
第一段階:数量算出と図面データ連携の標準化
数量算出の自動化によって、面積・開口部控除・部位別拾い出しの精度が安定し、施工計画の根拠が統一されます。BIM連携を行う場合は、既存の図面データに属性を付与し、塗装範囲の抽出ルールを社内で統一しなければなりません。
しかし、手順が整えば、複数現場で同一基準のデータを生成できるため、生産性の向上につながるでしょう。
第二段階:工程計画と進捗管理のクラウド化
クラウド上での工程管理は、現場の情報を即時共有し、調整作業を単純化します。協力会社との共有範囲を明確に設定することで、必要な情報だけを正確に伝達できるでしょう。
データが蓄積されるほど、工区ごとの生産性や作業時間の偏差が可視化され、次回以降の計画に反映可能です。
第三段階:品質検査と記録の自動化
デジタル検査の記録は、提出書類の作成時間を大幅に削減します。写真の自動整理や検査項目との紐付け、基準に沿った判定によって、管理側の判断業務を効率化します。とくに大規模現場では記録量が多いため、成果が大きく現れる領域だといえるでしょう。
大規模外壁改修で数量算出を自動化した実例
外壁塗装の数量算出を自動化し、面積誤差と段取りロスを削減した
外壁塗装の面積が数万平方メートルに達する改修現場では、従来の拾い出し作業が担当者の経験に左右され、控除範囲や下地種別の扱いが統一されない状況にありました。紙図面とExcelを用いた方式では、拾い出しの手戻りが発生し、工程計画や材料発注の精度にも影響が及んでいます。
そのため、BIMデータへ開口部・下地区画・仕上げ仕様の属性を付与し、塗装範囲を自動算出する仕組みを導入しました。結果として、面積誤差が減少し、数量算出時間も短縮しています。
仕様変更時の差分計算が即時に反映されるため、塗布量の再確認や材料手配が安定し、外壁足場との整合も取りやすくなりました。塗装工事で頻発する段取りの再調整が減り、現場全体の管理負荷が軽減されました。
内装塗装の品質記録をデジタル化し、膜厚測定や補修記録の一元管理を実現したケース
内装壁・天井の塗装仕上げでは、下地補修前後の記録や膜厚測定の写真が紙と個別ファイルに分散し、記録確認の負担が大きい状況がありました。とくに、検査写真の位置情報や作業区画との紐付けが曖昧で、是正作業の指示に時間がかかるという課題も生じています。
そのため、クラウド型の検査記録システムを導入し、スマートフォンで撮影した写真を図面上の該当区画と自動で紐付ける運用へ移行しました。結果として、膜厚測定・下地補修・上塗り完了の記録が一元管理できるように変化しています。
記録漏れの減少により差し戻しが少なくなり、竣工書類の作成にも転記作業がほとんど不要となりました。監理者への説明準備にかかる時間が短縮され、現場終盤の負荷が大きく軽減されたといえます。
まとめ
塗装工事のデジタル化は、単なる作業効率化ではなく、企業全体の施工管理レベルを底上げする施策の1つになります。数量算出や工程計画、品質検査という三領域が標準化されると、建築会社は複数現場の情報を横断して分析することが可能です。
たとえば、生産性の高い現場の特徴を抽出し、他のプロジェクトへ展開することで、全社的な最適化が可能になります。また、これらのデータは営業提案やVE検討にも活用でき、建物用途や規模に応じた再現性のある見積りを提示しやすくなるでしょう。
結果として、発注者に対する説明責任を果たしやすくなり、施工管理の透明性向上にも効果を発揮します。