生コン調達の構造的な課題とは何か|DX導入で品質・工程・物流を最適化する方法とは

生コンクリート(以下、生コン)は製造や輸送、打設が連続する資材であり、地域供給網や道路事情、品質管理の方法が工程全体に影響するものです。複数事業者が関与するため、記録管理の遅延や配車調整の難航が発生すると、施工計画の乱れにつながります。

生コンには、品質ばらつきや輸送リスク、技能者の減少といった課題が積み重なっています。そのため、デジタル技術を活用した運用改善が求められています。

本記事では、生産から施工までの情報を統合し、工程を安定させるためのDX活用についてみていきましょう。

生コン調達を取り巻く構造的な課題

生コンに関わる工程は、地域供給網や品質管理の仕組み、技能者の状況など複数の要素が重なり、計画の乱れが生じやすいといえます。この章では、生コンの調達から施工に至るまでの構造的な課題について解説します。

地域供給網が品質と工程に影響する構造

生コンは製造直後から硬化が進むため、輸送に要する時間が品質に直接影響します。工場と現場の距離が長い場合や、途中に渋滞ポイントや幹線道路の混雑がある地域では、輸送中の温度上昇やスランプ低下が起きやすく、荷下ろし時点での品質が変化する可能性があります。

地域ごとに供給範囲が細かく分かれているため、複数工場で供給力を調整する必要があり、道路事情が悪いエリアでは配車計画が崩れやすくなっているケースも多いといえるでしょう。

品質管理が紙媒体に依存する場面

スランプや温度、空気量といった品質記録は、納入伝票や検査票に手書きで記入する運用が残っている現場が多く、情報共有に時間がかかりやすい状況です。荷下ろし直後の計測値をメモ用紙に書き留め、その後に工事写真と併せて施工管理者へ渡す運用もあるものの、この手順では読み取り間違いが起きるケースも少なくありません。

また、記録の控えを後から台帳へ転記する工程がある現場では、転記漏れや記載順序の誤りが発生し、品質管理の精度が不安定になります。複数の協力会社が関与する打設では、計測値の記入様式が統一されていない状況です。

技能者減少と属人化による影響

ミキサー車の運転や品質検査、打設調整に関わる工程では、状況を見ながら判断する場面が多く、長年の経験に基づく判断に依存する傾向です。ミキサー車の運転では、生コンの状態を踏まえた加減速や停車位置の調整が求められますが、運転者によって判断の幅が異なる状況があります。

品質検査でも、スランプ測定時のロッドの扱い方や、測定時の生コンの扱い方に個人差が生じる場合があります。打設調整では、荷下ろしの速度やバケットへの投入量を状況に合わせて調整する必要があり、配合や現場条件を理解した技能者が対応している場面が多い状況です。


DX導入がもたらす効果

生コンの調達から打設までをデジタルでつなぐ取り組みが進めば、輸送の遅延や品質のばらつきといった従来の課題が可視化され、工程全体を管理しやすくなります。

また、配車計画や品質記録、荷下ろし状況を共有できれば、現場判断の精度が上がり、手戻りや待機が減少するでしょう。

材料費だけでなく、施工に関わる時間的・人的コストを含めた運用改善につながる点がDX導入の効果だといえます。

工程可視化によるロス削減

配車計画や品質記録をオンラインで確認できる環境が整えば、生コンの到着予測と現場の準備状況を照合しながら判断できるようになります。

ミキサー車の位置情報や出発時刻、荷下ろし予定時刻を把握できれば、鉄筋配置や型枠調整の進捗と合わせて作業員を配置しやすくなり、待機時間を最小限に抑えられるでしょう。

複数現場を同時に管理する場合は、車両の稼働状況を俯瞰しながら割り振りを行えるため、配車効率が向上します。生コン到着のずれによって作業工程が停滞する場面が減少し、現場全体のロス削減につなげられます。

品質ばらつきの抑制

品質データを継続的に蓄積すると、配合条件や骨材の含水率、外気温などの変化と品質結果の関係が把握しやすくなります。工場側は記録を踏まえて配合の微調整を行えるようになり、季節や現場条件に応じた材料管理が可能です。

現場側でも、荷下ろし時刻やスランプ、温度といった記録をその場で確認できるため、計測値の異常に早く気付けます。異常値が確認されれば打設前に調整を検討でき、再打設の発生や構造物の品質問題を抑えられます。

総合コストの最適化

生コンの単価だけを基準に調達先を選ぶ判断では、輸送遅延や待機によるコスト負担を見落としやすくなります。しかし、DXを活用して工程情報や品質データを可視化すれば、待機時間や打設の中断、検査のやり直しといった間接的なコストを含めた総合的な評価が行いやすくなります。

デジタル対応工場との協業により、配車計画の同期や品質記録の共有が滑らかになるため、生産性が向上し、現場の手戻りが減少する点はメリットです。結果として、材料費だけでは測れない運用面のコストも含めた調達の最適化が可能です。

生コンDXの実例にみる具体的な変化

DXの活用は製造工程から施工管理まで広がりつつあります。この章では、実際に導入が進んでいる取り組みを紹介します。

事例① 画像認識AIで骨材を自動判別する取り組み

生コン製造の初期プロセスである「骨材投入」では、材料を誤投入するとライン停止や大量の抜き取り作業が発生します。そのため、一部の製造設備では、骨材をカメラで撮影し、AIが種類を判別する仕組みが導入されました。

骨材の粒度や色を認識する技術によって、投入前に誤りを防ぐ運用が可能になり、製造工程の安定化が進んでいます。製造ラインの停止や品質低下リスクが抑えられ、材料ロスの減少にもつながっています。

事例② スランプ・空気量をAIでリアルタイム予測

ミキサーの運転情報や配合データ、環境条件をAIに学習させ、スランプや空気量をリアルタイムで予測する技術が実装され始めています。品質の異常値を出荷前に察知できるため、現場到着までに調整する判断が取りやすくなります。

精度の高い予測によって、再打設のリスク低減や現場側の負荷軽減につながるといえるでしょう。

事例③ クラウド型の品質管理システムの利用拡大

従来は紙の納入伝票、検査記録、荷下ろし時刻を現場で手書き管理するケースが一般的でした。しかし、近年は、生コンの出荷データ、荷下ろし記録、スランプ測定値をクラウドで管理するシステムが普及しつつあります。


現場と工場が同じデータを共有することで判断が速くなり、工程調整の精度が高まります。記録の一元化は品質トレーサビリティにも直結し、複数現場を持つ企業ほど効果が大きくなるといえるでしょう。

まとめ

生コン調達は製造・輸送・打設が連続するフローで構成され、地域供給網や品質管理の方法が複雑に影響し合う構造です。紙媒体の記録管理や技能者の属人化により、工程の乱れや品質ばらつきが生じやすい状況があります。

しかし、DX導入によって、配車情報や品質データを現場と工場で共有でき、判断の迅速化と手戻りの抑制が期待できます。

AIによる品質予測やクラウド管理の普及により、製造から施工までを統合的に把握する環境が整い始めています。調達と施工をつなぐデジタル基盤を整えることで、品質の安定化と総合的なコスト最適化が進むといえるでしょう。