木造建築における技術革新の最前線 - 2025年の動向を読む


2025年現在、木造建築はその持続可能性と意匠性の高さから再評価され、技術革新の波とともに次なるステージへ進もうとしています。
法制度の改正もさることながら、現場における技術的進展は、これまでの木造建築に対する常識を覆すインパクトをもたらしつつある状況です。本稿では、木造・木造建築における注目すべき最新技術トレンドをみていきましょう。
デジタル支援加工技術:AR・CVの導入で精度と効率が向上
近年、木材の加工現場において注目されている技術として、AR(拡張現実)やコンピュータビジョン(CV)を活用した支援が挙げられます。熟練工のノウハウを視覚的に再現し、非熟練者でも精度の高い施工が行えるように設計されている点が特徴です。
たとえば、カメラとセンサーを組み合わせたシステムでは、集成材などの部材にリアルタイムで加工指示を投影し、作業者が視覚的に位置や角度を確認しながら加工を進められます。
すでに一部の研究機関や設計事務所でプロトタイプが運用されており、2025年以降はプレカット工場などでの実装も進むと予測されている状況です。
これまで職人の経験に頼っていた木材接合や仕口加工の制度管理が、デジタルツールにより再現・共有可能となり、技術継承や品質安定にもつながっていくことが期待できるでしょう。
大手ゼネコンでのデジタル支援加工や自動化については、以下のような取り組みが実施されています。
企業・組織 | 取組内容・技術 | 概要・特徴 | AR/CV 支援加工との関係・展望 |
清水建設 | 自社木工場の運営 | 大手ゼネコンとしては希少な「木工場」を保有。木材大量加工・組立体制を整備している | 加工精度向上や加工支援技術を導入する土台になりうる。将来的には AR/CV 支援との併用可能性も高い |
前田建設工業 | ロボットアーム型木材加工機「WOODSTAR」 | BIMデータ対応、大型・複雑形状の木材加工を可能にする汎用ロボットアーム加工機を工場向けに提供 | AR/CV を組み込んだ支援システムの一要素として、加工指示インターフェースやリアルタイム誤差補正機能を付加できる可能性 |
大林組 | 木質化・オフサイト構法、工場化施工の技術開発 | 木造・木質建築の普及・効率化を目指した技術開発を進めており、自動化・ロボット化技術も研究対象に含めている | 木材加工支援に資するノウハウや技術基盤(構法・製造)を持っており、AR/CV 支援との融合余地あり |
IoTとセンサリングによる維持管理の高度化
木造建築において大きな課題として挙げられるのが「劣化」と「点検」の問題です。近年では、IoTセンサーを用いた構造体モニタリングが進展しており、2025年現在では実用化の段階に入っています。
たとえば、木材内部の湿度や温度、変位などをリアルタイムで取得できるセンサーを柱・梁・床下などに設置し、スマートフォンやクラウド経由で監視・記録することで、見えない部分の劣化リスクを早期に検知できるようなシステムもあります。
特に公共建築物や教育施設など長期運用が前提の建物において導入が進んでおり、建物全体のライフサイクルコスト(LCC)管理にもメリットがあります。予防保全の観点からも、構造部材の健全性を数値で把握することは、維持管理の合理化において極めて重要な要素だといえるでしょう。
また、IoTとセンサリングに関する技術の活用事例には以下のようなものがあります。
企業名 | 事例名・技術 | 概要 | 特徴・応用性 |
大成建設 | 測震ナビ®/1点センサー型構造健全性評価システム | 複数または1点の加速度センサーで建物の揺れを計測し、クラウドで構造健全性を判定 | 木造中規模建築にも応用可能。設置が簡易で既存建築にも適用しやすい |
西松建設 | 構造ヘルスモニタリングシステム | 実際の計測データから建物固有の構造モデルを推定し、継続的に健全性を評価 | 地震後の損傷検出に強み。木構造へのモデル適用には工夫が必要 |
鹿島建設 | 3D K-Field(施工中の可視化技術)/窓開閉センサー | 建物内部のヒト・モノの動き、開口部の状態などをIoTセンサーで可視化・記録 | 木造建築では設備・開口部との連携監視に転用可能 |
意匠と構造を融合する設計思想の進化
2025年の技術動向の中でも、木材の構造美を活かした建築が広がっています。なかでも、CLT(直交集成板)やグルーラム(集成材)といった高性能木質材料を用い、構造体そのものを意匠要素として活用する設計手法が定着しつつあるといえるでしょう。
従来、木材は内装材や仕上げ材として用いられるケースが多く見られました。しかし、近年では主要構造材としての役割を担いながら、視覚的にも空間演出の一部となるデザインが数多く登場しています。
たとえば、都心部で計画・竣工されている中高層の木造オフィスビルや複合施設では、構造柱や梁に木材を採用したうえで、「見せる構造」として空間に取り込む手法が主流となっています。デザインとして、木の持つ温かみや自然素材ならではの風合いが空間に与える心理的効果に期待でき、構造性能も明示的に伝えられる点がメリットです。
今後は、商業施設や教育施設、宿泊施設など多用途な建築での木材露出設計がさらに普及し、構造と意匠の融合という視点が木造建築の新しい価値として広がっていくことが予想されます。
事例 | 構造方式・特徴 | 意匠と構造の融合要素 |
第一生命京橋キノテラス(清水建設) | 木質ハイブリッド構造 | 国内で高層木質化を実現したオフィスビル。木材を構造要素に用いながら、構造体を見せるデザインも取り入れられている。 |
国内最大・最高層木造賃貸オフィスビル計画(三井不動産等) | 木造ハイブリッド構造 | 地上18階建てという大スケールで、主要構造部材に木材を採用。構造・耐火技術を組み合わせて、見せる木の構造表現が可能となる余地を持つ設計 |
木造オフィスビル計画/東京海上日動ビル建替え案。(竹中工務店・大林組・清水建設・鹿島建設・大成建設・戸田建設の共同企業体) | 木造/木質混構造 | 高さ約100mを想定し、柱や床にCLT使用。街並みと調和する佇まいを意図し、構造材を意匠構成の一部として扱う設計となる予定 |
BIMとプレファブ技術による木造建築の効率化
木造建築の分野では、プレカット化の普及により現場作業の省力化や施工期間の短縮が進んできました。近年は、これに加えてBIM(Building Information Modeling)との連携が本格化し、設計から施工までの情報一元化と自動化が実現しつつ、以下のようなメリットが得られている状況です。
- 設計と製作のシームレスな連携
建物の構造・配線・配管などの情報をBIMに統合し、そのままプレカット工場の加工ラインへデータ送信。図面の読み替えや手入力の手間がなくなり、ミスも大幅に削減される - 設計変更への柔軟な対応
現場状況や施主要望の変更にも、BIM上で即時にモデルを更新可能。プレファブ技術・加工との連動によって、再製作・納期調整もスムーズに行える - 見積と工程管理の自動化
BIMから部材数量を自動で集計し、コストや工期の試算に反映。プロジェクト初期段階での精度の高い提案が可能になる
BIMとプレファブの統合は、設計・製作・施工を横断するプロジェクトマネジメントの高度化を支える重要な仕組みとなっています。今後は、部材トレーサビリティや維持管理への展開も期待されており、業務効率と品質の両面から注目が集まっているといえるでしょう。
まとめ
2025年現在、木造建築はデジタル技術との融合によって、加工・施工・維持管理の各段階で大きく進化しています。BIMやIoT、ARなどの先端技術により、生産性と品質が両立され、意匠と構造の融合も進んでいる状況といえるでしょう。
今後は中高層木造や非住宅分野でのさらなる普及と技術活用による持続可能な建築の実現が期待されています。