大成建設が山岳トンネル工事の安全性向上へ新システムT-Invert Monitor開発

大成建設株式会社(代表取締役社長:相川善郎)が、山岳トンネル建設における重要な技術的課題を解決する画期的な計測システムを完成させました。同社が新たに開発した「T-Invert Monitor」は、トンネル底部構造の変形を連続的かつ自動的に監視する多点連続式変位計測装置です。
この最新システムは、建設業界のデジタル変革推進の一環として開発されており、従来困難とされていたトンネル底部の詳細な変形計測を可能にします。特に地盤の膨張現象によって生じるインバート支保構造の損傷を未然に防ぐことで、トンネル建造物全体の安全性を飛躍的に高めることができます。
山岳トンネル工事における技術的課題
山岳部でのトンネル建設では、地質条件によって様々な困難が発生します。特に膨張性を持つ地盤や強度が不足した不安定な岩盤での作業においては、掘削作業に伴って底部地盤が押し上げられる現象が起こることがあります。
この底部膨張現象は、トンネル構造全体の安定性に深刻な影響を与える可能性があります。そのため、トンネル上部と同様に、底部にも吹付けコンクリートや鋼製支保工、ロックボルトなどを使用したインバート支保の設置が必要となります。
さらに、インバート支保の施工完了後も、地盤の変位状況を継続的に監視することが安全確保のために不可欠です。しかし、トンネル底部は建設資材の運搬路として使用されるため、土砂による埋め戻しが行われます。このため、従来の測量技術では路盤下の変形状況を直接確認することが極めて困難でした。
従来技術の限界と新技術開発の必要性
これまでの計測技術では、地盤の変位分布を詳細に把握し、継続的に監視する実用的なシステムが存在しませんでした。特に底部構造の変形については、目視による確認が不可能な状況下での精密な計測が大きな技術的課題となっていました。
このような背景から、大成建設では山岳トンネル施工時におけるインバート支保の変形状況を自動的かつ連続的に計測できる技術の開発に着手しました。開発にあたっては、室内での詳細な試験に加え、国道7号鼠ヶ関トンネル(山形県鶴岡市)での実際の現場環境における性能検証を実施し、計測精度や作業効率の確認を行いました。
T-Invert Monitorの技術的特徴
新開発システムの中核となるのは、長さ50センチメートルの計測ユニットです。各ユニットの中央部には高精度の変位センサが組み込まれており、地盤の隆起や沈下による変位量を正確に測定します。
これらの計測ユニットは専用ジョイントによって必要な数だけ連結可能で、直径25ミリメートルのケーブル状の変位計として機能します。例えば総延長10メートルの計測を行う場合、20点での同時計測が可能となります。
従来の単点計測では把握困難だった変位分布の詳細な情報を取得できることにより、トンネル横断面全体のインバート支保における変形状況を包括的に把握することが可能になります。この詳細なデータに基づいて、地盤変位の特性に応じた最適な対策工を実施できます。
簡便な設置と経済的な運用
システム導入の際は、まずトンネル底部のインバート支保に沿って横断方向に計測ガイド管を設置します。このガイド管は直径65ミリメートルで、逆アーチ型の配置により設置されます。路盤の埋め戻し作業完了後、ガイド管内にケーブル状の計測装置を挿入するだけで、即座に自動計測を開始できます。
計測終了後は装置をガイド管から取り出して回収し、別の計測地点で再使用することが可能です。計測ユニットの連結数を調整することで様々な長さの計測に対応でき、同一装置を複数断面で繰り返し使用できるため、運用コストの削減も実現されています。
遠隔監視による安全性の向上
設定した時間間隔での連続自動計測機能により、インバート支保の変形状況を遠隔地から常時監視することが可能です。これにより、予期しないインバート支保の損傷や構造的問題を早期に発見し、適切な対応を取ることができます。
この継続的な監視体制により、トンネル構造物全体の安全性が大幅に向上し、建設作業の円滑な進行も確保されます。
今後の展開と応用可能性
大成建設では、開発したT-Invert Monitorを山岳トンネル工事において積極的に活用していく方針を示しています。同システムの適用により、トンネル建設における安全性と効率性の両面での向上が期待されています。
さらに、この計測技術をトンネル以外の様々な構造物の安全性向上にも応用することを検討しており、建設分野全体での活用範囲拡大を目指しています。デジタル技術を活用した建設業界の変革において、このような革新的な計測システムの開発は重要な意義を持つものと評価されています。
出典情報
大成建設株式会社リリース,山岳トンネル底盤部の変形状況を自動計測する多点連続式変位計「T-Invert Monitor」を開発-地山の盤膨れによるインバート支保の損傷を防止し、トンネル構造物の安全性を向上-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250918_10624.html