建築業になぜDXが必要?最新の取り組みと事例を解説

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建築業界は、深刻化する人材不足や資材価格の高騰、カーボンニュートラルや防災強化といった社会的要請に直面しています。そのため、生産性や競争力の低下が懸念されている状況です。

しかし、そういった状況のなかでも建設業はDXに注力しています。BIM/CIMの導入や施工管理のクラウド化、ドローンやAIを活用した現場改革など、最新の技術はすでに実務レベルで成果を上げつつあります。

本記事では、なぜ建築業にDXが不可欠なのかにふれ、先進的な事例と具体的な取り組み方をみていきましょう。

建築業界を取り巻く課題と現状

ここでは、建築業界が直面している主要な課題を整理し、背景と影響についてみていきます。

社会資本整備や都市再開発などを担う基幹産業である一方で、深刻な構造的課題に直面しています。最も大きな問題は労働人口の減少です。高齢化によって熟練技能者が引退し、若手人材の入職も進まず、技能継承が途絶える可能性が高まっているといえるでしょう。

課題区分背景要因具体的な影響企業へのリスク
労働力不足・技能継承高齢化・若年層の入職減少技能伝承の停滞、施工精度低下工期遅延、事故増加、人件費高騰
資材価格高騰国際情勢、原材料費上昇、物流不安鉄鋼・木材・セメント価格の上昇利益率低下、契約不履行リスク
脱炭素対応環境規制の強化、2050年カーボンニュートラル方針低炭素建材導入、施工法の見直し設備投資増大、競争力低下
防災ニーズ自然災害の増加、建築基準法改正耐震・耐火・浸水対策強化設計制約、追加コスト発生

政策と制度が示すDX推進の方向性

ここでは、建設業で展開されているDXに関連した政策と制度について解説します。

建設業DX推進戦略の改訂

国土交通省では、インフラ分野のDXアクションプラン(令和5年[2023年]策定)、直轄土木業務・工事に対するBIM/CIMの原則適用、「i-Construction 2.0」という三層構造を推進しています。

相互に連動することで、三次元モデルの活用やデータ連携の標準化、施工・管理のオートメーション化を段階的に常態化させる方向で整備が進んでいます。設計から施工・維持管理に至るまで、一貫したデジタル管理が国策として推奨されているといえるでしょう。

i-Construction 2.0の重点領域

「i-Construction 2.0」は、建設現場の省人化・高度化に向けた新たな指針を示しています。焦点は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」の三本柱です。

ICT建機・自律施工の普及、設計・施工・維持管理にわたるデータの連続性確保、遠隔・非接触を可能にする管理基盤の整備を同時並行で推進している状況です。たとえば、重機の自動・遠隔操作、出来形・進捗・安全のリアルタイム計測、AR・レーザ計測とモデルを組み合わせた出来形管理などが推奨されています。

補助金・助成金の活用

建設DX推進計画補助金が整備されており、中小企業も導入コストを抑えてDXを進める環境が整い始めました。

たとえば、建築GX・DX推進事業(令和7年度予算)では以下のように、「BIM活用型」と「LCA実施型」に種類が分かれており、用途や企業規模で使い分けることが可能です。

類型主な目的補助対象経費要件補助率・限度額備考
BIM活用型建築BIMの導入・高度活用を促進・BIMソフトウェア、周辺機器・CDE(共通データ環境)利用料・BIMコーディネーター、モデラーの配置費・講習費・元請が下請のBIM導入を支援・事業者登録と活用推進計画の策定・完了後3年間の活用報告義務原則1/2補助。プロジェクト規模に応じた限度額あり中小から大規模まで幅広く対象
LCA実施型BIMモデルを用いたCO₂排出量算定(ライフサイクルアセスメント)の実施・LCA実施費用(定額補助)・BIMモデル作成費用(必要に応じて)・発注者または設計者・施工者が対象・国への調査協力・結果報告の提出義務・BIMモデル作成+LCA:上限500万円/PJ・LCAのみ:上限650万円/PJ・CO₂原単位整備を併せて実施する場合:最大400万円加算脱炭素建築への対応を重視

参照:国土交通省|建築GX・DX推進事業について

先進事例から見る建築業DX

ここでは、建築業に適用されているDXについてみていきましょう。

大手ゼネコンの取り組み

大手ゼネコンは、BIM/CIMを基盤とするデータ連携を国内外案件へ横展開し、設計・施工・検査の一貫管理を行っています。国土交通省は令和5年度から直轄土木の詳細設計・工事段階でBIM/CIMを原則適用として位置付け、発注者のデータ共有(DS)と活用目的の明確化を義務化しました。

受注者は目的に応じた三次元モデルを作成・活用し、発注者との合意形成や施工計画確認を迅速化している状況にあります。たとえば、清水建設の「Shimz One BIM」は、設計から運用・維持管理まで一環してBIMを活用しています。

中小建設会社の成功事例

中小規模では、施工管理アプリや写真・図面のクラウド共有、遠隔臨場、点群取得の外部委託活用など、小規模投資から段階導入する成功例が増えています。国土交通省の「遠隔臨場 取組事例集」では、スマートフォンやTeams等を用いた材料確認・出来形確認・立会を複数地点で同時実施するケースもありました。

山間部では外部アンテナやStarlinkで通信を確保して運用した具体的な事例もあります。
ハンズフリー撮影や現場・監督側の同時接続といった、実務上の新しい取り組みも増加している状況です。

公共工事におけるBIM/CIMの対応

自治体発注案件における土木工事では、BIM/CIMの原則適用が制度化されました。団体・事業種別・規模でばらつきがあるものの、ICT施工の公告件数は全国的に増加しています。たとえば、三次元モデル・点群・遠隔臨場を前提とする仕様の事例は増加し続けている状況です。

入札時点では、適用有無、対象工程(測量・設計・工事)、成果品の形式、CDEの運用方針、属性情報の範囲、監督・検査における閲覧・確認手続きの定義が重要論点になります。

未来を見据えた建築業DXの方向性

ここでは、今後建築業に求められるDXの方向性についてみていきましょう。

脱炭素社会への対応

2050年カーボンニュートラルの達成に向け、建築業界には大幅なCO₂削減が求められています。建築物のライフサイクル全体に占めるCO₂排出は、材料製造・施工・運用・解体に至るまで広範囲に及び、DXと連携した対策が欠かせません。

  • 省エネ性能の高度化:BIMを用いて建物のエネルギーシミュレーションを行い、設計段階から断熱・採光・換気の最適化を実現する必要がある
  • 再生可能エネルギーとの統合:太陽光発電や蓄電池を建物に組み込み、IoTを通じて発電・消費をリアルタイム制御する「スマート建築」の普及が加速している
  • LCA(ライフサイクルアセスメント)の義務化動向:国土交通省の「建築GX・DX推進事業」では、BIMモデルに基づいたCO₂排出算定が補助対象とされており、環境性能の数値化・見える化が制度面でも推進されている

AIによる自律施工の実現

建設業におけるAI活用は、現在すでに工程最適化や資材需要予測、施工記録の自動整理などに広がっています。

  • 設計・工程計画の自動生成:BIMデータを基盤に、AIが工程表・施工手順を自動作成し、リスクやコストの最適化を提示する
  • 自律施工機械の普及:ICT建機や自動運転ブルドーザーの導入が進んでおり、AIが現場状況をセンサーや点群データから認識し、施工を自律的に進める将来像が描かれている
  • 遠隔施工・安全管理の強化:人が危険区域に入らずにAIとロボットが施工を進め、管理者はクラウド上のダッシュボードで状況を把握する体制が構築されつつある

まとめ

建築業におけるDXは、単なる効率化ではなく、制度と市場から求められる変化です。労働力不足や資材高騰といった目先の課題だけでなく、持続的な競争力確保のためにも取り組むべきテーマだといえるでしょう。