大成建設が環境汚染物質分解の微生物製剤開発、1,4-ジオキサンなど有害化学物質を効率処理へ

2025年8月29日、大成建設株式会社(社長:相川善郎)とケイ・アイ化成株式会社(社長:柴田卓)は、工業排水や地下水中の有害化学物質「1,4-ジオキサン」などを効率的に分解する自然由来の微生物製剤の開発に成功したと発表しました。
この画期的な技術により、従来の処理方法では対応が困難だった環境汚染物質の浄化が可能となり、処理コストの削減と環境負荷の軽減が期待されています。
深刻化する水質汚染への対策
近年、人体や生態系に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質に対して、国や地方自治体による規制が強化されています。特に化学工場や産業廃棄物処理場からの排水には、様々な有害物質が含まれており、その処理が大きな課題となっていました。
従来の排水処理では、微生物の働きを活用した活性汚泥法が一般的でした。しかし、この方法では分解が困難な有害物質については、以下のような処理方法に頼らざるを得ませんでした。
・強力な酸化剤による化学的分解処理
・蒸留による分離後の産業廃棄物処分
・高温処理による焼却処分
これらの処理方法は、大量のエネルギー消費により高額な処理費用が発生し、同時に環境への負荷も大きいという問題を抱えていました。
自然界から発見された優秀な分解菌
このような課題を解決するため、大成建設は2014年から難分解性化学物質を処理できる微生物の探索を開始しました。自然環境から数多くの細菌を採取し、詳細な分析を重ねた結果、優れた分解能力を持つ細菌「N23株」の発見に至りました。
この分解菌は、近年規制対象に追加された「1,4-ジオキサン」をはじめ、多種多様な有害化学物質を効率的に分解する能力を有しています。世界的に見ても「1,4-ジオキサン」を分解できる微生物の報告例は極めて少なく、N23株は世界トップレベルの分解性能を有しています。
製造技術の確立で実用化に前進
分解菌N23株の発見後、実用化に向けた大きな課題は大量生産技術の確立でした。この課題解決のため、ケイ・アイ化成の高度な培養技術と粉末乾燥技術を活用し、安定した品質の微生物製剤の製造システムが完成しました。
完成した微生物製剤は、液体培養された細菌を特殊な安定化剤と組み合わせて粉末状に加工されており、密封包装により品質の長期維持が実現されています。
製剤の優れた特性と性能
開発された微生物製剤は、環境基準や排水基準の対象となる多様な有害化学物質を分解できます。対象となる主な物質には以下があります。
・1,4-ジオキサン:溶剤・安定化剤として使用
・トリクロロエチレン:脱脂洗浄剤・溶剤として使用
・ジクロロメタン:溶剤・冷媒として使用
・ベンゼン:溶剤・合成原料として使用
・1,1,2-トリクロロエタン:溶剤・樹脂原料として使用
これらの化学物質は、いずれも従来の生物学的処理では分解が困難とされていた物質です。
安全性への配慮
N23株は自然環境から分離された自然由来の細菌であり、有害な有機物を合成する遺伝子を持たないとしており、人や環境にやさしく安全に使用できるとされています。
優れた保存特性
製剤は包装した状態で5℃前後の低温で保管することで、約2年経過後でも当初の約50%程度の活性状態を維持することが確認されています。これにより、必要な時期に必要な量だけ使用することが可能となり、在庫管理の効率化が図れます。
今後の展開と社会実装への道筋
両社は2025年秋を目標に、排水処理や水質改善に課題を抱える事業者への技術紹介を本格化し、微生物製剤のサンプル提供を開始する予定です。
将来的には、この技術をバイオソリューションとして社会に広く普及させ、以下の効果を実現することを目指しています。
・排水処理コストの大幅削減
・処理に伴う環境負荷の軽減
・有害化学物質による水質汚染の改善
・持続可能な水資源管理の実現
この革新的な微生物製剤技術は、深刻化する環境汚染問題の解決に向けた重要な技術として、産業界からの注目が集まっています。
出典情報
大成建設株式会社リリース,「1,4-ジオキサン」などの環境規制化学物質を分解する微生物製剤を製造-安全で長期保存が可能な微生物製剤のサンプル提供を開始-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250829_10603.html