竹中工務店とJR西日本、使用済み鉄道レールを3Dプリンターでベンチに再生、万博乗換駅に登場

竹中工務店は2025年9月5日、JR西日本をはじめとする複数企業との協力により、JR大阪環状線弁天町駅に画期的なベンチを完成させました。このベンチは、役目を終えた鉄道レールを素材として活用し、最新の金属3Dプリンター技術により製作されたものです。完成したベンチは長さ6.2メートル、幅1.5メートルという大型サイズで、屋外の公共施設に設置された金属3Dプリンター製品としては日本で最大規模となります。

循環型社会を目指す新しい取り組み

今回のプロジェクトは、廃棄される予定だった鉄道レールを溶かして再加工し、ステンレス鋼の溶接ワイヤとして生まれ変わらせる技術を活用しています。この手法により、本来であれば廃棄物となる金属スクラップを、全く異なる用途の製品として再利用することが可能になりました。

弁天町駅は大阪・関西万博会場への重要な乗換駅として位置づけられており、この場所に設置されたベンチは多くの来場者の目に触れることになります。

「ルーレベンチ」の特徴とデザイン思想

完成したベンチには「ルーレベンチ」という名称が付けられました。名称「ルーレベンチ」は「レール」の反転を表現するとともに、フランス語 “Roulé” の持つ「循環」という意味を込めています。

デザインの核となるコンセプト

ベンチのデザインは、従来の直線的なレールの形状を反転させ、それに枕木を組み合わせた構造となっています。この構造が滑らかに形を変化させながら、人々が座れる空間を作り出すという発想で設計されました。電車が通るためのレールから、人が休息するためのベンチへという用途の転換を、視覚的にも表現した設計となっています。

最先端技術を駆使した製作工程

ベンチのフレーム部分は、WAAM方式と呼ばれる特殊な金属3Dプリンター技術により製作されました。この技術は、アーク溶接の原理を応用して金属を層状に積み重ねていく手法で、従来の製造方法では困難だった複雑な形状の製作を可能にします。

使用された溶接ワイヤの一部分には、実際に鉄道で使用されていた廃レールを溶解・再加工したものが含まれています。この技術により、金属資源を無駄なく活用し、様々な形状や機能を持つ製品に生まれ変わらせることができます。

構造設計における先進技術の活用

ベンチの形状決定においては、トポロジー最適化という高度な解析技術が採用されました。この技術では、コンピューターによる構造解析を何度も繰り返すことで、必要な強度を保ちながら最も効率的な形状を算出します。その結果、有機的で美しい曲線を持つフレーム形状が導き出されました。

製作過程では、3Dプリンティング特有の課題であるオーバーハング角度の検討や、複雑な分岐部分の造形可能性について詳細な検証が行われました。

分割製作と職人技術の融合

6メートルを超える大型のフレームは、3Dプリンター装置の制約により複数のパーツに分けて製作されました。各パーツが完成した後は、熟練した職人による手作業での溶接組み立てが行われ、全体を一体化して完成に至りました。

地域資源を活用した座面

ベンチの座面部分には、六甲山で採取されたヒノキの間伐材が使用されています。この選択により、関西地域における森林資源の循環利用にも配慮した設計となっています。木材は枕木の形状に加工され、鉄道をイメージしたデザインとの統一感を演出しています。

屋外設置という条件を考慮し、座面の木材にはフラン樹脂加工技術が施されています。この技術では、木材内部にフルフリルアルコールを浸透させ、化学反応によってフラン樹脂を生成させます。この処理により、木材の耐腐朽性と耐久性が大幅に向上し、ハードウッドと同等の性質を獲得できます。

多企業協力による製作体制と今後の展望

このプロジェクトは、各分野の専門企業が協力する体制で進められました。発注はJR西日本、設計・統括は竹中工務店が担当し、金属3Dプリンティングはシモダフランジ、材料提供・廃レール加工は大同特殊鋼、組立溶接は日本ニューロンなどが参加しました。

竹中工務店は、今回の製作で蓄積した技術と経験を基に、金属3Dプリンティング技術の建築分野への本格展開を計画しています。特に建築部材への応用を重点的に研究し、従来の製造方法では実現困難だった複雑な形状や機能を持つ部材の開発を目指します。また、金属スクラップのアップサイクル技術をさらに発展させ、循環型社会の構築に向けた取り組みを継続していく方針です。

出典情報

株式会社竹中工務店リリース,鉄道の廃レールをアップサイクルした金属3Dプリンター製ベンチを設置,https://www.takenaka.co.jp/news/2025/09/02/