耐火建築物とは何か。定義から最新基準改正・木造建築への応用まで解説

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Category:建築コラム

都市部では建物が密集しており、仮に火災が発生すれば延焼による被害が拡大する危険があります。過去の大火災をきっかけに、日本では建築基準法によって建物の耐火性能が厳しく規定されてきました。とくに人が多く集まる劇場や病院、共同住宅などは火災発生時のリスクが高く、耐火建築物として設計することが法律で義務付けられています。

また、2024年から2025年にかけて法令改正が行われ、木造建築を含めた耐火規制の合理化や選択肢の拡大が進んでいる状況です。本記事では、耐火建築物の定義や義務付けられる条件、性能基準、そして最新の制度改正の内容までを詳しくみていきましょう。

建築基準法における耐火建築物の定義

建築基準法第2条第1項第9号の2では、耐火建築物の定義は、「主要構造部が耐火構造である建築物」としています。主要構造部とは、壁・柱・床・梁・屋根・階段を意味し、火災時に一定時間崩壊せずに耐えられる性能がなければなりません。

つまり、耐火建築物とは、主要構造部が火災に強い構造や材質となっており、火災となった場合でも一定時間耐えられる建築物を意味する言葉といえるでしょう。

また、外壁の開口部(窓や扉など)については、防火設備を設置する必要があります。防火設備には、防火戸や防火シャッター、耐火ガラス入りのサッシなどがあり、炎や煙が他室や隣接建物に広がるのを防ぐ役割があるといえるでしょう。

そして、「準耐火建築物」は耐火時間が短く設定されている点で異なります。準耐火建築物は延焼防止には一定の効果があるものの、耐火建築物ほどの安全性は求められません。

そのため、不特定多数が利用する施設や高層建築物などは原則として「耐火建築物」であることが義務化されているといえるでしょう。

耐火建築物のメリットとデメリット

耐火建築物のメリットやデメリットは、以下のとおりです。

メリットデメリット
火災時に主要構造部が崩壊せず、避難や救助の時間を十分に確保できる特殊建材や防火被覆が必要で建設コストが高くなる
炎や高温の広がりを防ぎ、隣接建物への延焼リスクを低減できる開口部や仕上げ材に制限があり、設計自由度が下がる
火災保険料の軽減や資産価値の向上につながりやすい防火被覆や認定建材を使うため施工期間が長くなる
防火地域での義務条件を満たし、検査や申請が円滑に進む防火戸・シャッターの点検や補修で維持管理コストが発生する
用途変更や増改築でも法的適合性を維持しやすく資産活用に有利中小事業者にとっては負担が大きく、利回りを圧迫しやすい

耐火建築物が義務付けられる用途と規模

耐火建築物が必要かどうかは、建物の用途や規模、防火地域の指定によって決まります。代表的なケースは以下のとおりです。

  • 劇場や映画館、病院、ホテル、共同住宅などの特殊建築物で一定規模(200㎡、屋外観覧席は1,000㎡)を超え
  • 防火地域に建築される建物(原則すべて耐火建築物とする必要がある)
  • 準防火地域においても、3階以上や延べ床面積が500㎡を超える建物は準耐火以上とする義務がある

たとえば、延べ床面積が1,000㎡を超える共同住宅は耐火建築物でなければならず、防火地域内で建てる建物は規模を問わず、すべて耐火建築物でなければなりません。設計段階では建設予定地の地域指定と用途を確認し、適切な構造区分を判断しましょう。

耐火建築物の性能要件と技術基準

耐火建築物に求められるのは「火災に強い」だけではなく、次の3つの性能も満たさなければなりません。

  1. 非損傷性:火災の熱にさらされても主要構造部が崩壊せず、一定時間建物の安定性を維持できること
  2. 遮熱性:火災による高温が隣室に伝わらず、避難経路や他室の安全を確保できること
  3. 遮炎性:炎や煙が建物の内部や隣接建物に広がらないようにすること

鉄筋コンクリート造ではコンクリート自体が耐火性能を発揮し、鉄骨造では石膏ボードなどによる防火被覆を用いなければなりません。木造では「燃えしろ設計」と呼ばれる手法があり、一定の厚みの木材が燃えても内部の構造耐力が維持できるよう計算する必要もあります。

木造建築における耐火建築物の可能性

近年、木造であっても耐火建築物に認定されるケースがあります。技術革新により、CLT(直交集成板)の活用や高性能な防火被覆材の開発が進み、木造でも2時間耐火を確保できる工法が実用化されているためです。

また、環境政策の観点から「木材利用の促進」が国の方針として打ち出されており、都市部でも中高層木造の耐火建築物が増加しています。そのため、木の温もりを活かしたデザインと防災性能を両立させる建物が実現可能になったといえるでしょう。

近年の基準改正と制度見直し

2024年から2025年にかけて、防火・耐火規制に関する以下のような重要な改正が行われました。

  • 内装制限の合理化:不燃材料や準不燃材料に準じる仕上げを認める規定が追加され、設計自由度が拡大した
  • 小屋裏隔壁設置の緩和:木造で建築面積が300㎡を超える建物でも、一定条件を満たせば隔壁設置を不要とする改正が行われた
  • 無窓居室の排煙基準見直し:従来の面積基準に加え、排煙口や給気口の配置・性能によって評価できるようになった
  • 中層木造(5~9階)での耐火性能合理化:最下層で90分耐火を確保すれば設計可能とする新基準が導入された
  • 「75分・90分準耐火構造」の拡充:従来より長い耐火時間を設定することで、中規模木造建築の設計が容易になった
  • 木材あらわし仕上げの認容拡大:構造区画や防火設計を工夫することで、内装に木材を見せるデザインが可能になった

安全性を維持しながら設計の柔軟性が高まり、木造建築の普及や環境配慮型建築の推進につながっています。

実務での注意点とチェックリスト

設計や施工の現場では、以下の点を特に確認する必要があります。

  • 建築確認申請で耐火建築物としての根拠を明記しているか
  • 使用材料や工法が大臣認定を受けているか
  • 防火設備の維持管理計画を立てているか
  • 用途変更や改築の際に再度耐火要件を満たすか確認しているか

チェックを徹底することで、建築確認の不適合や完成後の不具合を防ぎ、長期的な安全性を確保できます。

まとめ

耐火建築物は、主要構造部に高い耐火性能を持たせることで、火災から人命と財産を守るための建築物です。用途や規模、防火地域の指定により義務付けられる場合があり、設計段階から十分な検討が必要です。

近年は、法改正により木造建築でも耐火建築物を実現できるようになり、環境性能と安全性能を両立する建物が増えています。今後も新素材や技術革新により、さらに柔軟で持続可能な都市づくりが進むと考えられます。

建築主や設計者として、最新の基準を踏まえた建築計画を立てることが必要となるでしょう。